三幕 【襲撃】


「おはよう」


「おはよおはよ!それで昨日さ―」


 朝。皆はいつもと変わらない。


 日常に刺激しげきが欲しかった。

 それは間違まちがいではない。


 だが、世界と言うのはいつも自分の思うように変わってくれはしない。

 では俺は何を求めていたのか。


 あきらかな変革へんかくが起こっている。

 何をしているのか。


 きっと自分ではわからない。

 答えは無いのだろう。


 世界は自分に答えて変わってくれたわけではない。

 世界はありのままをうつしている。


 はたして、変わったのは日常だろうか。

 それとも、俺なのだろうか・・・




 1章 3幕【襲撃】




「お、おはよう。桂木・・・君」


 昨日とはちがい、姫野川ひめのがわ挨拶あいさつをしてきた。

 あきらかに元気がないように見える。


 そうさせたのは間違いなく俺だろう。

 姫野川はそれ以上、しゃべろうとせず、おとなしく自分の席について準備じゅんびをしはじめた。


悠真ゆうまおはよう。今日は早いんだな」


 いつも同じであろう時間に君丈きみたけ登校とうこうしてくる。

 君丈はいつもと変わらない様子だ。


 おそらくそうふるまっているのだろう。

 昨日は部活を早く切り上げて縷々るるのお見舞みまいに行ったと電話で聞いた。


 俺とはちがいだったらしい。

 姫野川の話しになんか付き合わないで君丈と犯人はんにんさがしをしていた方がよほど有意義ゆういぎな時間をごせただろうと今では思っている。


「おはよう。・・・まあ、今日は落ち着かなくてな」


「縷々の事か」


 君丈のその言葉に姫野川が肩をピクリとふるわせた。

 気のせいかもしれないが。


「まあな」


「ま、すぐ目覚ますさ。あいつは意外と頑丈がんじょうにできてるからな」


 縷々は俺と君丈の幼なじみだ。

 それはつまり昔から一緒になって遊んでたと言う事で、やんちゃしまくってた俺たちについてくるぐらいの元気があるという事だ。


 学校では割とおとなしい。

 だが場所を変えると俺と君丈があきれるくらいの行動力を発揮はっきしたりする。


「そう信じてるよ」


 俺がそう答えると、君丈はうんうんとうなづきながら席に戻って行った。

 きっと俺の事を心配しんぱいして様子を見に来てくれたのだろう。


 君丈は自分の事が二の次な、そんなやつなのだ。

 自分だって内心はえたぎってるくせに。




「悠真、お前さ」


 時間はぎて昼休み。

 いつものように君丈と屋上で昼ご飯を食べに来ていた。


 それぞれ用事の無い時は集まるのが、いつの間にか俺と悠真と縷々の中で定着ていちゃくしているのだ。

 今日は縷々もいないし俺一人かとも思っていたが、まあ予想よそうどおりと言うか、俺がここに来ることを想定そうていして用事を全て投げ出して君丈はここに来たんだろう。


「ん・・・何だよ」


 俺はサンドイッチをほおばりながら君丈の話しに耳をかたむける。

 いつもは弁当だが、今日は弁当を作る気分ではなかった。


「姫野川とまたなんかあったか?」


 おもわず手を止める。

 相変わらずするどい。


 と言うかよく見てるやつだと思う。

 おそらく朝のあの一瞬いっしゅん出来事できごとを見ていたのだろう。


「・・・なんでだよ」


「今日は姫野川が元気なさそうに見えたから」


「しらねぇよ。あいつが個人的になんかあったんじゃねぇの」


 知らぬぞんぜぬで俺はまたサンドイッチをほおばる。

 君丈には全て話したいところだが、正直もうこれ以上姫野川とはかかわりを持ちたくはなかった。


「んー・・・なんか姫野川が来てからお前変だよな」


「そんなことねぇよ」


 即答で否定を返す。

 まあ周りから見たらあきらかに変な事はさすがにわかっている。


「別に人の恋路こいじにうんぬん言うつもりはないけどよー」


 君丈は本気なのか冗談じょうだんなのかまたそんな事を言い始めた。

 おそらく冗談なのだろうが、もう否定するのもめんどくさい。


「これ以上姫野川と関わら無い方がいいと思うんだよ」


 唐突とうとつな君丈の発言に俺は少しおどろいた。

 君丈はなにか姫野川の事を知っているのか?


「何でだ?」


「いや、別に確証かくしょうも何もないんだけどよ。縷々が倒れただろ?なんとなく姫野川が関係ないとも思えないんだよな」


「いつものかんか?」


 君丈は普段からいろんな事を茶化ちゃかすやつだが、その鋭さゆえに確信をついてくる時もあった。

 君丈はそれをただの勘だと言う。


「まあ・・・勘というか、胸騒むなさわぎがするんだ。れいうわさばなしおぼえてるか?不良ふりょうりの」


「この前言ってたやつだろ」


 覚えてるも何も実際じっさいにその現場に鉢合はちあわせたくらいだ。


目撃もくげき情報じょうほうでは髪の長い女生徒だっていうんだ。しかもうちの生徒じゃないかって噂もでてる。噂話をした時に悠真が姫野川がそうなんじゃないかって言っただろ?もしかしたらそうかもって思えてきてな」


「・・・そうだったとしてもそれが縷々にどうつながるんだよ」


 昨日姫野川に言ったように、不良狩りと縷々は関係ないはずだ。

 それにくわえてなぞの手紙。


 そもそも縷々が俺と知り合いだってわかってないとあの手紙には何の意味もない。

 それに俺にその手紙を渡す意味もわからないんだ。


「わかんね。でもうちの生徒だっていうならなんらかの復讐ふくしゅうをしてくる道理どうりはあるだろ。」


 君丈にはまだ手紙の話しをしていない。

 復讐かどうかはわからないが、少なからず姫野川だけではなく俺にも関係かんけいのある人物のはずだ。


 そうでなければあの手紙は今回の事と何の関係もない物になってくる。

 手紙の一件もふくめ、俺は姫野川ひめのがわが【犯人】かもしれないと昨日から考えていたのだ。


「後は縷々がなんでたおれたかだ。医者も原因不明とか言うし。俺は強力な睡眠薬のような毒物どくぶつでも飲まされたんじゃねぇかと思ってる」


 縷々には一切の外傷がいしょうがない。

 君丈の言うように毒物でもない限り、眠り続けることはないだろう。


 医者がわからない物。

 人間ではわからない。


 ・・・まさか姫野川の言う神の力だと本当に言うんだろうか。

 逆に言えば姫野川が神の力を使えるならば本当に姫野川が俺にけてやった事なのかもしれない。


 なんにせよ意図いとが全く読めないが。

 それに自分からその力をかす意味もなくなる。


「なんだっていい。縷々をあんな目に合わせたんだ。ぶっとばしてやる」


 俺の決意は変わらない。

 神だろうがなんだろうが俺の力で犯人をつかまえて見せる。


「手だすなら気をつけろよ。今回の事はちょっとした不良騒ぎでおさまる話じゃない気がする。危険きけんだと思ったらすぐ手を引け」


「・・・わかってるさ」


 君丈にはわかってるなんて言っても内心ではわかってなどいなかった。

 犯人をぶっとばすまで気が済まない。


 それは君丈もわかっているだろうし、君丈も同じ気持ちだろうと思った。

 だからこその一言。


 君丈が言っているのはいざとなったら自分にたよってこいという事だろう。

 俺達三人の友情は固いって事を犯人に思い知らしめてやる。




 学校終わりに即効そっこう縷々るるのお見舞いに行ったが、何も変わってなどいなかった。

 もう目がめてて「おはよう、悠真ゆうま君」などとのんきな事を言い始めるのではないかと期待しないではなかったのだ。


 家路いえじにつくまでの間、どうしても縷々や姫野川、今日の君丈が言っていたことが頭をよぎる。

 結局けっきょくのところ犯人の意図いとがわからないのだ。


 犯人の候補こうほとしては、なぞの転校生の姫野川ひめのがわ倉庫そうこおそってきた成神なるかみ工業高校のとどろき、そしてその他だ。


 轟だった場合は俺を見ているから復讐ふくしゅうでやったと考えはつく。

 だが、その場合うちの高校に内通者ないつうしゃがいることになる。

 もしくは中学までの俺たちの関係を知る人物があっち側にいる。


 それは誰か?

 そんなやつは今の所思いかばない。


 姫野川だった場合は理由がよくわからない。

 それに縷々としたしいと言うのも姫野川はそこまで知らないだろう。


 姫野川が来てからはあまり縷々と話していないはずなのだ。

 縷々が襲われた日に一緒に帰っている所を見られたのだろうか。


「あー!もうわからん!」


 俺の頭では容量オーバーだった。


「ほんとに何なんだよ!俺や縷々がなんかしたってのか!」


(お前は不運ふうんにもまれたんだ)


 頭の中で声が聞こえた。

 正確には頭の中に話しかけられた感覚だった。


「・・・誰だ」


(それを知る必要はない。お前はここで死ぬんだからな!)


 次の瞬間強い風があたり一体をけ、俺の後ろではげしい金属音がなる。

 おどろいてかえるとそこにいたのは―


「・・・姫野川?」


 姫野川は俺に背を向けて立っていた。

 なぜここにいる?


 いや、やはりこいつがやはり犯人だったのか。

 そう思ったのもつかの間の事だった。


「ぼーっとするな桂木かつらぎ!敵だ!」


 姫野川の言葉にあたりを見ると、姫野川の前の方に夕日をバックに立っている人物がいた。


「本当にれるとはねぇ。正直僕はおどろいているよ。君にそいつを守る意味はあるのかい?」


 夕日による逆光でよくは見えないが、短髪で身長が俺よりも高い。

 男のように見えるがそれにしては体が華奢きゃしゃだった。


「私がんだんだ。理由はそれで充分じゅうぶんだろう」


 姫野川は俺を守ってくれたのだろうか。

 目の前の人物が誰かはわからないが、おそらく姫野川の言うように敵だろうと言うことはわかる。


「お互い、神の眷属けんぞくとして仲良くしようぜぇ?なぁ!」


 敵と思われる人物がそうさけぶと、その体が少し大きくなり、爪が伸び、毛が全身から生えてくる。

 それはまるで狼男おおかみおとこちだった。


「お前、フェンリルだな」


 姫野川が言うフェンリルとは神話にでてくる狼の怪物かいぶつの事だろうか。

 いやいやまさか、と言いたいところだったが、目の前の光景こうけいあきらかに異常いじょうだった。


 人間が狼男になる瞬間しゅんかんあたりにしたのだ。

 どれだけ姫野川のいう事を妄想もうそうだと否定ひていしようと、目の前の光景は変わらない。


「いかにも!わが名はフェンリル!気高けだかき狼だ!」


 次の瞬間、フェンリルは姿を消すと同時に、俺と姫野川の周りで金属音がけたたましくひびいた。

 おそらく姫野川が例の神の力とやらでフェンリルの攻撃こうげきふせいでいるのだろう。


「おい、姫野川!なんだこれは!」


「うるさい!死にたくないならだまってて!」


 姫野川は必死の顔つきで相手の動きを読もうとしている。

 それにつられて俺も周りを見渡わたすと、時々ときどきちらちらとフェンリルが爪で攻撃しているのが見えた。


 それと一緒に気づいたのは、姫野川が何か見えない棒状ぼうじょうの物を右手に持っている事だ。

 かすかに光をはなつそれが何かは俺にはわからなかったが、おそらく姫野川の武器ぶきなのだろう。


 数秒ののち俺の耳に聞こえてきたのはガラスにひびが割れるようないあやな音だ。

 なんとなく状況じょうきょうはまずいように見える。


「ちっ、やっぱり兵装へいそうじゃないと守りがうすいか」


 姫野川がぼやき、少し身構みがまえる体制たいせいをとる。

 そして精神せいしんますように動きを止めた。


「そこ!」


 あざやかにくるりと回転し、謎の棒状の物を右の方に突き出すと、今までとは違った金属音がり、攻撃こうげきんだ。

 敵をやっつけたのか?


所詮しょせんその程度ていどか。がっかりだぜ」


 希望きぼうはかなく、いつの間にか前に立っていたフェンリルはそうてる。

 姫野川は無駄口むだぐちたたかず、相手をうかがっている様子ようすだ。


「これで終わりにしてやる!疾風しっぷう―」


もどれ、フェンリル)


 さっきの声とはあきらかに違う、頭に流れるような、あた一帯いったいひびくような不思議ふしぎな声がした。

 その声にフェンリルはぴくりと動きを止める。


「ちっ。命拾いしたな。次は殺す」


 そう言い残すとフェンリルは一瞬いっしゅんで姿を消した。

 思わず安堵あんどいきを二人ともらしたのは言うまでもない。


「終わったのか?」


「とりあえずはね」


 姫野川は、謎の武器のような物をもう持っていないようだった。

 そして数秒の沈黙ちんもく


 姫野川はこっちを振り向こうとはしない。

 何を考えているのか。


 俺が声をかけようかと悩んでいると、声を発したのは姫野川の方だった。


「巻き込んでごめん」


 そう言って姫野川はその場を立ち去ろうとする。


「待てよ」


 俺は姫野川を止めた。

 このまま帰してしまうと謎は一向いっこう解決かいけつしない。


 頭のおかしい妄想壁もうそうへきだとしても、今は話を聞くべきだと思ったのだ。

 おそらく、もう部外者ではないのだから。


「昨日の話しをくわしく聞かせろ。俺にもわかるようにきっちりと」


 姫野川はこちらを振り返る。

 少し元気のない顔をしていた。


「姫野川は昨日言ったよな?協力したいって」


「・・・わかった」


 数秒の沈黙ちんもくの後、きちんと目を見て姫野川は了承りょうしょうする。

 その言葉に決意がある事は俺にも伝わってきた。




 道端みちばたで話すのもなんなので、場所を近くの公園にうつすことに。

 昨日とはさすがに違う公園だったが、雰囲気ふんいきはなんとなく似ている。


 言うなればそこらへんにあるようなごく普通の小さな公園という事だ。

 公園のベンチに座ると一呼吸を置いて姫野川は話し始めた。


「改めて初めから話そうか。私はこの街にある神を探しに来た。その神の名は【オーディン】。人の名を【蒼希あおき優斗ゆうと】。そいつは私の育ての親なの。でもある日突然いなくなった。待てども待てども帰ってこないもんだから探しに来たと言うわけ」


 オーディンねぇ。

 話しを聞くとは言ったが突拍子とっぴょうしもない話なのは事実であり、それを信じることは到底とうていできない。


 だが、先ほどの戦闘せんとうを見るかぎりではそれもうそではないのかもしれないと思っているのも事実である。

 というより、神うんぬんは知らないが、何か未知みち存在そんざいはいるんだな、程度ていどだが。


「ちなみにこの名前に聞き覚えはある?」


「ないな」


「そう・・・そうでしょうね。まあいいわ。それで、おそらくだけど、今この街には数人の神が滞在たいざいしてる。理由はわからないけど、何かの力でせられたのか、もしくはこの街の伝承でんしょう通り神が集う場所なのかもしれない」


「伝承ねぇ・・・」


 成神市の伝承。

 神が生まれるとするこの街。


 今ではSAえすえー技術ぎじゅつがあるから発展はってんしているものの、少し前までは街とも呼べないさびれた場所だった。

 昔からいる俺としては、そんな成神市が神様のいる場所だとは到底思えるはずもない。


 逆に言えばさびれていたからこそ言えるかもしれないが、そこまで言うほど田舎いなかでもないのだ。

 平凡へいぼんな街。


 それが成神市の少し前の状況じょうきょうだ。

 これが村と言うような場所なら神などの伝承があってもさほど違和感いわかんはないかもしれなかったが。


「話しをもどそう。この街にいる神は私が知っているかぎりでは二人。一人はさっきのフェンリルの主人しゅじん。おそらく名を【ロキ】と言う」


 ロキ。

 くわしくは俺も知らないが、確かオーディンもロキも北欧神話ほくおうしんわにでてくる神の名前だったはずだ。


「そしてもう一人の神は、桂木かつらぎの友人、埜口やぐち縷々るるだ」


「またそれか。そもそもどうやって神だって判別はんべつしたんだよ」


におい、またはオーラとでも言ったらわかりやすいかな。神に関係かんけいのある者ならある程度ていど察知さっちできる。だけどそれは故意こいかくす事が可能なの。それぞれが神だとわかると、さっきのようなあらそい事が生まれる原因げんいんになるから」


「待てよ。じゃあ縷々はその神様の気配けはいとやらをだだもらしにしてたって事か?」 


「いや、私も埜口縷々がたおれるまではわからなかった。倒れたさいに隠している術式じゅつしきが消えたんだと思う」


 頭が追いつかない。

 信じれない話と言うよりも、信じたくない話だった。


「おそらくだけど、敵が本当にロキだとしたら独自どくじの情報収集能力があるはずだから、ロキはその力で埜口縷々を神と判断した、もしくは偶然ぐうぜん見つけたか。いずれにせよ、埜口縷々には神をふうじる強力な結界けっかいられていた」


 姫野川の言葉が本当なら医者が原因不明と言うのも納得なっとくはできる。

 そもそも事故じこ事件じけんならば外傷がいしょうの一つや二つあるってもの。


 それがない上に原因不明でずっとねむってますってのはおかしいんだ。

 ならば今のその話の方がいくらか信憑性しんぴょうせいはあるかもしれない。


「じゃあその封印ふういんいてくれよ」


「それは・・・無理」


「なんでだよ。お前だって神様なんだろ?」


「私は神じゃない。ただの人よ。私やさっきのフェンリルのような存在そんざい従属じゅうぞく、または眷属けんぞくと呼ばれるの」


 従属や眷属と言うのはつまる所、力を分け与えられてるだけと言う事だろうか。

 ということはその封印とやらを解く権限的けんげんてきなものがないのかもしれない。


「えーと・・・つまり、なんだ。・・・神様がいっぱいいて、そいつが縷々を狙っていて?ん?なんだ?」


「いや、狙われているのは正確に言えば私の方だと思う。オーディンをさがすためにこの街で目立ちすぎたんだ。そして桂木が一緒にいたことによって、前々から目をつけていた埜口縷々に手をかけた。とそんな所でしょうね」


「いや、待て待て。なんでそれで俺まで狙われるんだよ」


「桂木は私を釣るためのえさ。実はね、今日私の所にも手紙があったの。その手紙には私のために餌を用意してやったと書いてあった。それに加え、このような事をされたくなければ今すぐあばれるのをやめろ、って」


 姫野川を止めるための餌か。

 縷々をあんな目にあわせたのは関わった俺への嫌がらせも入っているんだろう。


 つまりは俺への威圧いあつふくんでいるわけだ。

 ロキと言うやつはかなり性格が悪いと見た。


「お前がここに来たことにも納得がいった。それで?お前はどうするつもりなんだよ」


「私は桂木たちに迷惑めいわくをかけるつもりはない。桂木がやめろと言うなら私は大人しくする」


「・・・さっきの話しなら結局縷々が倒れたのは」


「時間の問題だったでしょうね」


 俺は本当に巻き込まれただけなのか。

 だけどそれで大人しくしている性格ではない。


「俺には神うんぬんの話しはさっぱりだ。正直今の話しを聞いても理解しがたいし、信じる気もない。だから俺は俺のやりたい事をする。俺は縷々を元に戻したい。それだけだ」


「・・・わかった。埜口縷々を戻す方法は二つ。根源こんげんのロキを倒すか、結界を解けるほどの神を探す事」


 縷々をこんな目にあわせたロキってやつをぶっ飛ばしてやりたい気はある。

 だが正直、不良ふりょうとどろきにも勝てる自信がない俺では到底とうていかえない。


「じゃあひとまずは神を探すのに俺も協力する。いるかもわかんねぇが、とりあえずそのオーディンってやつの情報を探せばいいんだろう」


「ありがとう。桂木、本当に巻き込んでもうわけない」


 そういうと姫野川は手を差し出してきた。

 握手あくしゅのつもりだろう。


「お前が言うにはどのみち乗るはずのふねだったんだろ?じゃあ遅いか早いかの違いだ。俺は縷々を助けらればそれでいい。それと、好きに呼べって言ったけど、あんまり名字みょうじで呼ばれるのれてないんだ」


「じゃあ悠真、よろしく。私の事もありすって呼んで」


「ま、一時的にでもよろしくな、ありす」


 こうして二人は手をむすび、協力関係が生まれることになった。

 そうこう話しているうちにあたりは暗くなっていたので、おもな話は明日あす、学校で話すことになった。




 そして次の日、学校にいつも通り登校すると、教室にはありすの姿があった。

 お互い軽く挨拶あいさつをする。


 そこにいつものように君丈が現れた。

 予想よそうはしていたが、おかしなものを見るような目で俺達を見ていた。


「おいおい、お前ら毎日ころころ変わりすぎじゃねぇか?」


「ま、いろいろあってな」


「まあいいけどよ・・・昨日の事わすれるなよ?」


 君丈が言う昨日の事とはありすに警戒けいかいしろと言う事だろう。

 もちろん警戒はしている。


 協力すると言うのも今の所、上辺うわべに過ぎない。

 だが今の現状げんじょう、ありすの力を借りるのが最善さいぜんなのも事実だろう。


「わかってるよ」


「・・・それならいいけどよ」


 よくわからないと言った顔で君丈は自分の席に戻って行った。

 HRの時間が始まる事もあるからだろう。


 うわさ張本人ちょうほんにんのありすは宿題しゅくだいでもやっているのだろうか、つくえに集中していた。

 そこで俺はある事に気づいた。


 俺の前の席がいているのだ。

 クラスメイトが欠席けっせきしているわけではない。


(また転校生か?それにしては一週間に二回も、それにうちのクラスにってのは変じゃないか?)


「はい、今日もまた転校生がきています」


 先生の言葉で転校生の疑惑ぎわく確信かくしんに変わる。

 教室のとびらを開けたのは一人の男子生徒だ。


 男子からはブーイングがおこり、女子からはひそひそと声が聞こえる。

 確かに顔立ちは悪くない方だ。


しずかに。では自己紹介をお願いします」


蒼希あおき優斗ゆうとだ。よろしく」


 転校生が名前を言った瞬間しゅんかんとなりの席からいきなり立ち上がる音が聞こえた。

 隣の席はもちろんありすだ。


 ありすはえさを待つ魚のように口をぱくぱくとさせていた。

 なんなんだと思ったが、なんとなく俺も違和感いわかんを感じた。


 蒼希優斗。

 どこかで聞いた名な気がする。


「よ、ありす」


 転校生がそう声をかける。

 そこで俺は思い出した。


 蒼希優斗とは、昨日アリスが話していた【オーディン】の名だった。


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