第7話:マルデダ・メニンゲンとの再会
マカフシさん達と分かれた次の日、俺は父さんが新聞を読んでいるのを見かけた。父さんって新聞読むのか。
「おお、おはようオーア。ちょっとこれ見てみろ!」
「何?」
「ほらここだよ」
指差されたところを見てみると、そこには先日のマカフシさん達のことが書かれていた。政府がミノリの能力目当てにマカフシさんを不当に捕まえたという内容だった。
一体、どこから情報が漏れたんだろうか。
「何でばれたんだろ?この事知ってるのは俺達だけだよね?」
「うーん……何故かは分からん。一応、心当たりはあるっちゃあるが……」
「心当たり?」
「ちょっと前にこの辺で色々聞き込みしてる奴に出会ってな。かなりグイグイ来る奴だったから……もしかしたら……」
「あー!それあたしも会った!凄い元気な子だよね?」
「そうそう。マティもあったのか?」
どうやら、その人間がこの記事を載せたらしい。しかし、どうやって調べたんだろうか?
ふと思ったが、政府はこの件をどう対処するつもりなんだろうか?この事実が広まれば、市民からの反発は強くなる筈だ。
そんな事を考えていると、母さんが朝食を完成させた。
「はいはい、ご飯ですよ。片付けてください」
俺達は朝食を食べるため食卓に着いた。
朝食を食べ終わった俺は仕事に行くための準備をしていた。
すると、家の扉を叩く様な音が聞こえた。いや、叩くと言うよりも、まるで何かぶつかったかのような……。
「何!?今の音!?」
「ピール、下がってて。俺が開ける……」
恐る恐るドアノブを掴み、扉を開ける。すると、そこには血塗れになっているマルデダの姿があった。
「お前っ!どうしたんだ!?」
「クソ……てめェの家かよ……」
「おい!どうしたんだって!」
「言ったろ……俺はもう、組織にとってはいらねェ人間なんだ……こうなるのも、当然だろ……」
何言ってるんだこいつ……!そんな簡単に生きるのを諦めるなよ……!
「おい、ドア閉めろ……巻き込まれるぞ」
「そういう訳にはいかない。お前を見捨てる訳にはいかない」
「……気に入らねェ」
俺はマルデダを家に引っ張り込むと、扉の鍵を閉めた。多分無駄だろうが、無いよりはマシだ。母さんが先に店に行っていたのは幸運だった。
俺はマルデダから詳しい事情を聞きだすため、質問を行った。
「マルデダ。誰にやられたんだ?」
「知らねェ人間だ……大方、組織の人間だろ」
「どんな攻撃されたんだ?」
「……分からねェ。体に、急に穴が開いたんだ……」
マルデダの体を見るといくつも穴が開いていた。そのほとんどが服の下にあり、最初は気付けなかった。
「これ……!」
ピールが家にある包帯を持って来た。
「お前、どういうつもりだ……?俺はお前のとこに取り立ていった人間だぞ……?」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないです!」
「……クソ女が」
どうしたものか。マルデダを攻撃した奴はこの場所にも気付いているだろう。このままここにいたら危険だ。どうやって対処するか……。
俺は一先ず目を閉じ、意識を周囲に集中させる。どこかにいるはずだ。
俺は屋根の上に人の気配を感じた。誰かが家の屋根に上がっている。
「ピール、上だ。屋根にいる」
「えっ……!」
「もう……来やがったか。あの野郎、ふざけやがって……!」
俺はまず相手が先に動くまで待機した。どんな風に能力を使ってくるか分からないままでは下手に動くのは危険だと思ったからだ。
しばらくすると天井に穴が開き、その直線状にあった床にも穴が開いた。
上を見上げると、天井の穴からこちらを覗く目が見えた。
俺よりも先に動いたのはピールだった。腕を解体し、天井の穴へと伸ばしたのだ。
「待て!ピール危険だって!」
「ここは、私の家なの。皆で過ごした思い出のある大切な家。この家で勝手な事をする人は許さない!」
そのままピールの腕は天井に開いた穴に入っていった。
「掴んだ!」
そう言うと彼女は解体した腕を引っ張り、相手を屋根に押さえつけようとしていた。
俺はサポートするため、屋根にいる相手の右腕の感覚をリンクさせ、行動を制御した。本当なら全身の感覚を制御して完全に押さえつけたかったが、出来なかった。どうやら俺の能力は一度に一つしか感覚を制御できないらしい。
「あれ……?」
「どうした?」
「何か……掴んでる腕が……」
直後、爆炎が発生し、家の屋根を焼き飛ばした。ピールは小さく悲鳴を上げ、倒れこんだ。解体していた腕は元に戻ってきていた。
家の屋根は焼け落ち、一部しか残っていない状態になっていた。
その屋根の上に一人の影が見えた。見たところ、思っていたよりも小柄に見えた。
「……向き調整ミスったか」
「お前!誰だ!」
「……今から死ぬ人間に名乗っても仕方ないだろ?私的にはさっさと終わらせたいんだ」
敵の声は少女のようだった。その声は冷たく、全く感情が見えなかった。
「邪魔するなら容赦しない。お前らにも消えてもらう」
そう言うと、その少女は鉄パイプ片手に飛び降り、そのまま鉄パイプを振り下ろしてきた。
咄嗟に横に飛び、ぎりぎり回避できた。しかし、彼女が鉄パイプを振り下ろした先は炎が広がっており、家の玄関を燃やし始めた。あの武器が能力と関係してるのか……?
「動くな。楽に殺してやる」
「クソっ……!てめェ!!」
先程まで大人しくしていたマルデダが突然立ち上がり、叫んだ。
「こいつらは関係ねェだろ!やるんなら俺だけにしろ!」
「……ここまで逃げてきたのはお前だろ。見られたからには殺すしかない」
俺はここでマルデダが時間稼ぎをしている事に気付いた。俺達が逃げられる様に注意を引いてくれているのだ。
だが俺は逃げる訳にはいかなかった。家をここまで滅茶苦茶にされて、俺も頭にきていた。
俺はふと思い付いた技を試してみる事にした。
まずはマルデダの体の痛みを俺の体に移す。
「ぐっ……!!あぁっ……!」
とんでもない痛みだった。あいつはこの痛みに耐えていたのか……。
次に俺は目の前の敵に狙いをつけ、俺の体の痛みを移した。これならこいつにダメージが入るだろう。
「うっ!ぐ、貴様!何を……!?」
「これで、終わりだな」
敵は痛みのあまり、倒れて動けなくなっていた。
「さて、どうする?」
「お前……誰に頼まれたんだ?」
「誰がっ……!言うか……っ!」
すると、その少女はポケットから小さい袋を取り出すと中身を飲み干した。
「おい!何やってる!?」
少女は吐血し、瞳孔が開き、体を震わせ始めた。素人目に見ても、マズイ状態だ。
「ピール!手伝って!マルデダもだ!」
俺は少女を背負い、ピールとマルデダと共に走り出した。
俺達はグーロイネ先生の所に駆け込んだ。ここなら、まだ治してもらえるかもしれない。
「先生!先生っ!!」
「でかい声出さなくても聞こえてるよ。こっちに来な」
グーロイネ先生に言われるまま、俺達は奥の部屋に進み、少女を診察台に運んだ。
少女は既に瞳孔が開ききっており、体はぴくりとも動かなかった。まさか、死んでないよな……?
「……ふんっ。ガキの癖にいっちょ前に服毒かい。あんたらは待合室で待ってな」
「それと、あんたは残りな。そのままじゃ死ぬよ」
「……構わねェよ。俺はいずれにしても死ぬ事になってたんだ。ここまで生きてただけで儲けもんだ」
「あんたの事情は知らないよ。あんたに死なれたら寝覚めが悪いだろ。治してやるからここにいな」
俺達はマルデダを残して待合室に移動した。
少女の事も敵ながら心配ではあったが、俺達としてはもっと気がかりな事があった。
「オーア兄……家、どうしよう……?」
「うん……何とかして直せればいいんだけど……」
今は父さん達は仕事で外に出ているが、帰ってきて家が半壊していたとあってはパニックを起こすだろう。
何とかならないものか。そう考えていると、待合室にいた一人の長身の男性が話しかけてきた。
「お困りのようですね。私で良ければお力になりますよ」
「あの、誰ですか?」
「申し送れました。私、こういう者です」
男性は胸元から名刺を出すと、こちらに渡してきた。……ん?名刺?何だっけ……?どこで聞いた名前だっけ?
「
「はい。私、建築の仕事をしておりまして。もし必要ならどうぞお任せください」
「お値段は?」
「……お金は頂きません。ただ、何か代わりになるものを頂きたい」
「代わり?」
「何でもいいのです。仕事に見合った対価であれば、何でも……。どうします?」
「オーア兄、どうする?」
「……頼もう。対価になる物は俺が見つけてくる」
「……交渉成立ですね」
俺は如月さんと握手をした。彼の手は俺の手よりも遥かに厚く、大きかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます