第21話 用心棒
「ううう、酷い目に遭ったよ・・・・・・」
マヌエルの服はボロボロだが、身体の傷は瞬時に回復したようだ。マジに規格外の回復力だよな。本気で処分するときは、首を落とさないとダメかもしれん。それでも安心できないのが、このマヌエルと言う存在なんだよな。
「マスター、狩ったよ~。ご褒美は何かなぁ。ボクはハンバーグが食べたいなぁ」
アレフィは、以前ユーカさん宅で御馳走になったハンバーグが忘れられないらしく、事あることにハンバーグを要求してくる。こっちとしても安上がりでいいんだけどな。だが、マヨネーズ入りハンバーグ、マヨネーズソース乗せは何故か拒否られた。マヨネーズは、熱が加わるとまた違った味わいで旨いのだが。解せぬ・・・・・・。
「分かった。今日の夕食はハンバーグにしてやるよ」
「やったぁ」
「もちろん人化してからな」
「うん。人の姿の方が美味しく感じるしね」
アレフィはそういうと人化をし始めた。
龍化したまま食われたら溜まったものじゃねぇからな。どんなサイズが必要なんだって話だよ。
「ボクだってそれくらい判ってるよ」
人化を終えたアレフィは、脱ぎ散らかした服をその場で身に着け始めた。
「ボク? ボクだってぇ!?」
「ひぅ!?」
半裸の幼女ににじり寄る服をボロボロにした変質者。うん、事案発生だな。
「僕とボク繋がり! やっぱり相性がいいんだね!? 僕たげふっ!」
いきなり妄言を吐き始めたロリクズに、俺っちは踵落としを叩き込んで黙らせてやった。
「お前ぇもう良いから帰れよ。勝てなかったんだから諦めろ」
アレフィは突然迫られて驚いたのか、プルプルと怯えている。
「アレフィは良いから早く服を着ろ。このロリクズは抑えておくから」
アレフィは素早く服を着こむと、事務所の中へ駆け込んでいった。
この村、幼女愛好家が居ないから、あの手の存在は初顔合わせだよな、そういや。
「ほら、お前ぇの好きな幼女は消えたぞ。お前ぇも消えろ。あと、この村に子供に手出ししようとしたら捻じり切るからな」
「ひっ! 君は以前もソレをやったよね!? 痛いんだよアレ!」
「痛くなきゃ罰にならねぇだろ。それにねじ切っても直ぐに治すくせによぉ」
そう、こいつはねじ切られても止めることは出来ない。ナニがだって? ナニをだよ! こいつの回復能力はマジに厄介だ。だからこそ手に負えないんだよな。ナニをしても治しやがるから。
「分かった! 分かったよ・・・・・・。本当に乱暴だよなぁ。君は」
「はいはい、さっさといけいけ」
マヌエルは、
「ちょっ! 違う違う。召喚状だよ! 召喚状」
「チッ! 覚えていやがったか」
「君は相変わらずだね! 危うくそのまま帰るとこだったよ!」
「そのまま帰れば面倒ごとも無くなってたのによぉ」
「このまま帰ると魔王様に怒られるよ!」
「良いじゃねぇか。怒られるくらいよぉ」
「君は良いだろうけど、怒られるのは僕だけじゃないんだよ? 僕はあくまでも配達しに来ただけで、このまま帰るといろんな人が怒られるんだよ!」
相変わらず、グチグチとウザいやつだなコイツは。魔王軍の奴らが怒られようが、俺っちの知ったこっち無ぇんだよな。マジな話。
「分かった分かった。見ればいいんだろ見れば」
「内容もちゃんと確認しないとダメだよ!」
俺っちは、チッ! と舌打ちをすると、召喚状の封蝋を剥がし始めた。ワックスがマヌエルの目元に飛ぶように、ナイフでガリガリと削りながら。
「ちょっ! 目に入るよ目に!」
「入れようとしてるんだ!」
「なんでそんなに酷いかな? 善良な僕に対して」
「善良なやつは、嫁を捨てたりはしねぇ」
「それはそれ、これはこれだよ!」
本気でクズだよなコイツは。
俺っちは封蝋を剥がし終えると、中の羊皮紙を取り出した。今の時代、紙と言えば草木から作られる。だが、この手の書類は格式が云々とやらで羊皮紙から作られる。なので、この召喚状もそこそこの金がかかってる高級品になっている。まぁ、高級品だからって素直に読むほど、俺っちも腐っちゃいないけどな。読みたく無ぇもんは読まねぇ。
中身は要約するとこんな感じだ『人族との紛争が始まってるんで、てめぇも魔族の一員ならこっちに来て手を貸しやがれ』こんな言葉が、慇懃な言葉で綴られてるわけで・・・・・・。
俺っちは羊皮紙を丸めて、アレフィが暴れた跡に埋めてやった。
「ちょっ! なにをしてるんだい! 魔王様直筆の書類だよ!」
俺っちは、羊皮紙を埋めたところをズダンズダンと踏み固めた。
「助力がほしいなら魔王を寄こせよな。それなら手を貸してやるぜ」
「魔王様がこんなところまで来る訳が無いでしょ?」
目の前のロリクズは羊皮紙を掘り出しながらそう
「ほほぅ、こんなところだと?」
良い度胸をしてやがる。俺っちは『こんなところ』に住んでるんだよなぁ。
「そんなんだから魔王軍は好かねぇんだよ! 出直して来な!」
「え~、まってよぉ。言葉が悪かったのは謝るからさ」
「お前ぇ、ここには先々代が住んでるんだぜ? しかもその伴侶もセットにだ。ちょいと
この村には、マジにやばい存在が居るってのを忘れてるんじゃねぇか? コイツは。まぁ、囁く前にその存在はこっちに向かってきてるようだが。
「先々代と災厄!」
「あら~。なんのお話をしてるのかしら~」
来た! 世界の災厄とこの村の守護神が!
いつの間にか背後に立っている謎の存在が!
ジャンヌさんは、俺っちが認識した瞬間から、凄まじいほどの威圧を放っている。相変わらずヤバいほどだよな。
目の前のロリクズは、汗をだらだらと流して青い顔をしていやがる。遅ぇんだよ、気づくのが。
「あ、ジャンヌさん。こんにちは!」
「あら、何でも屋さん、こんにちは。さっき、アレフィちゃんが暴れてたでしょう? 何があったのかしら? で、こちらの方はどちらの方でしょう?」
ジャンヌさん、怖い怖い。そんな威圧をしたら俺っちも怖いですよ!
ロリクズは、蛇に睨まれた蛙状態でピクリとも動けないようだ。
俺っちにも効くレベルの威圧だもんな。魔王にもなれないコイツじゃ、動くこともできないだろう。
「魔王のお使いらしいんですけどね。俺っちを引き抜きたいとか何とかで」
「何でも屋さんが居なくなると困るわ~。アタシ、この村から動けないのよね~」
「そうですよね! 買出しとかに必要ですよね! 私もこの村から動く気はしないですし!」
「そうよねぇ。いなくなると困るわよねぇ。アレフィちゃんが来てから、色々と助かってるのよ~」
「ありがとうございます!」
「そこのアナタ? オイタとかしてると、めっ! ですよ、めっ!」
ジャンヌさんの『めっ!』に合わせてロリクズが口から泡を吹き始めた。
マジに破壊力が高いよな、アレ。
「あら、動かなくなっちゃったわねぇ。ホント、何でも屋さんが居てくれて助かるわ。これからもよろしく頼むわねぇ。それじゃまたねぇ~ん」
「ジャンヌさんもお疲れ様でした! また何かあればよろしくお願いします!」
ジャンヌさんの姿が見えなくなるまで、俺っちは最敬礼で見送った。
しばらく硬直してたマヌエルは、再起動を果たすと、顔を真っ青にしてガクガクと震えだした。
「はぁはぁはぁはぁっ! なにあれ? あれが災厄!? マジ化け物じゃないか!」
「はぁはぁいうなよ気持ち悪ぃ。それにこの村でその名は禁句だぜ」
「君は良く平気でいられるね!」
「平気じゃねぇが慣れだな慣れ。っつ~訳で、俺っちをここから動かしたければ、魔王でも連れてくるんだな」
「そういうことか。判ったよ。僕の手に負えない案件だってのが」
「そういうわけだから諦めな」
「この場は引くとするよ。この僕でも、命がいくつあっても足りはしないからね」
「おぅ、二度と来なくていいぞ」
本当にな。コイツの顔をしばらく見なくていいとなりゃ、俺っちも嬉しいわな。
「それではお邪魔したね」
「本当に邪魔だったよな。何しに来たんだよお前ぇはよ」
「本当に酷いな君は!?」
「あぁ、良いからさっさと逝け」
「なんかニュアンスが気になるけど、僕は行くよ。アレフィちゃんによろげぶふぉっ!」
妄言を吐きだし始めた目の前のロリクズに拳を叩き込み黙らせると、ロリクズの脚を掴んで振り回し、遠心力を利用してぶん投げた。
ロリクズは回転しながら飛んでいき、村の外れの木に引っかかって止まったようだ。
アイツがあれでくたばる様なら苦労はしないので、放置して事務所に戻った。
「マスター、あの変なのはもういなくなった?」
アレフィが怯えた目でソファの下から這い出してきた。まったく、うちの従業員を怯えさせるなっつ~の。
「次に見かけたらマルカジリで良いぞ。あいつは」
「なんかお腹下しそうだから遠慮するよ・・・・・・」
アイツは食っても食えなさそうだしな。アレフィの評価は正しいかもしれん。
「さぁ、ハンバーグでも作るか。約束だしな」
「あ、ボクも手伝うよ!」
「おう。んじゃ、保管庫から肉を出してきてくれ」
「わかったよ~」
さて、あのクズのことはサクッと忘れてしまうとするかねぇ。
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