第19話 来客

 うららかな日差しの中、今日は久しぶりの依頼書整理だ。

 最近は輸送任務が増えたため、定期的にやらないとこれがまた結構溜まるんだよな。

 輸送中は村を留守にしてるから仕方ない事ではあるんだが。

 そして今回もソイツを見つけた。


「チッ! また魔王の召喚状かよ。マジ要らねぇよな。コレ」


 暖かな日差しでの眠くなる作業だったが、それを見た瞬間目が覚めた。

 そう、ここ数か月もの間、定期的に届くようになったのだ。そして、ここ最近は数日ごとに。どこの暇人がこんな辺境まで配達してやがるんだか。

 俺っちは、クズ籠に狙いを定め、手首のスナップを利かせ投てき! シュルシュルと回転しつつ壁に当たって跳ね返り、クズ籠のフチに乗っかり入り・・・・・・そうで入らないところでゆらゆらと揺れる。


「いけっそこだ!」


 俺っちの願いもむなしく、クズ籠には入らずそのまま落ちてしまった。

 仕方ないのでクズ籠まで拾いに行き、またもとの位置に戻り、そこから投てき、今度は直接入った。


「シャァッ!」


 拳を握り、喜びをあらわにすると、なにやら視線を感じた。視線の先を追ってみると、アレフィが扉の陰からこっちをみている。


「マスター、なんで一度戻ったの? 箱まで行ったら直接入れたら良いじゃない」


 チッ! こいつは相変わらずロマンを解しない奴だな。男ってのはいくつになっても少年なんだよ! 


「いつから見てた? ってか、何か用事か?」 


 アレフィには庭の掃除を頼んでたはずだが。


「うん。なんかお客さん」

「依頼か?」

「知らない人。村の人じゃないとおもう」


 アレフィもかなり村に馴染んだと思う。初見の衝撃があったから最初のころは少し警戒されていたが、今ではすっかり村の一員・・・・・・かどうかは良く分からないが、この村にはジャンヌさんが居るからなぁ。あの人に比べたら、威圧感も無いに等しいしな。そんな訳で、特に問題なく受け入れられてきた気がする。


「村の外からの依頼人とか久しぶりだな」


 そう、思って事務所の扉を開けたら『ソレ』は居た。


「よう久しぶ」

 

 ソイツの顔を見て、そこまでのセリフをぶった切るようにドアを『バタン』と閉めた。


「アレフィ。あれは依頼人でも客でもねぇ。次からは放置でいいぞ」


 扉を閉めたというのに、そいつは諦められないのかガンガンと扉を叩いているようだ。

 仕方がないので俺っちは、ドアを勢いよく開けて素早く閉める。開ける最中に『ガツッ』と言う音がし、扉を閉めたあたりで『ノオォォォォォッ!』と言う叫び声のようなものが聞こえるが、おそらくは幻聴だろう。


「良いかアレフィ。あれは空気だ。いや、その辺のチリの方が上等な存在だ。もし、次に見かけても放置しておけよ?」


 俺っちはニコヤカにアレフィに告げると、アレフィは。


「うん。判ったよ。次からはそうするね」


 アレフィはなぜか引きつった笑顔でそう応えてくれた。

 うんうん、日ごろの教育が実を結んで素直な良い子になってくれたものだ。

 また扉がガンガンと殴られるように叩かれ始めたので、もう一度、扉を勢いよく開けるが、今度は手ごたえが無い。そして閉める前に、扉の下の方から靴の足先が差し込まれたのでそのまま扉を勢い良く閉めた。


「うぎょほぉぉぉぉぉっ!」

「あれ? おかしいな? なぜか扉が閉まらないぞ?」


 何度も扉をガツンガツンと閉めようとするがやはり閉まらない。


「アレフィ、ちょいと鉈を持ってきてくれ。扉になんか異物が挟まったみたいなんで斬りおとした方が早いだろう。大至急な」


 俺っちがニコヤカにそう伝えると、アレフィはすっ飛ぶようにして事務所の奥へ駆け込んでくれた。


「ちょちょちょちょっ! まて、待ってくれ!」

「え? 待ってくれ?」


 この異物は口の利き方がなってないなぁ。


「それが人にモノを頼む態度とはねぇ。待って下さいじゃないのか。アレフィ! 金串も追加で。この場に縫いとめるから!」

「待って、待って下さい。お願いしますぅ~」


 かなり焦ってるのか、バタバタとかなりの力で扉が引っ張られるが、この程度の力でなんとかしようとは俺っちも舐められたもんだぜ。

 

「マスター、持ってきたよ。どっちを使うの?」

 

 俺っちは、金串の方を受け取り、扉に挟まれている靴の爪先に、勢いよく突き立てた。


「ぐぎょわぁ~~っ! 足がっ! 足が・・・・・・痛くない?」


 狙った通りに金串は、足の指と指の間に突き刺さったようだ。

 まったく、刺さっても無いのに大げさなやつだ。

 それにしてもこんな辺境まで良く来る気になるな、コイツは。

 靴を金串で固定したため、物理的に排除することができなくなったので、そいつの姿を確認するため、仕方ないので扉を開けた。

 俺っちよりも身長が高く、スラリとした手足に薄い青緑の髪、そして黄色い小さなコブのような2本の角と黄色い瞳をした、いかにも後衛職と言ったヒョロイ感じの男がそこに立って居た。


 うん、相変わらずの爽やかなイケメンぶりで、なぜか腹が立つ。


「や、やぁ久しぶ」

「おっと、手と足が滑った」


 こっちの顔を見て挨拶しようとしたのか、直立不動な体勢に移行したので、左手で軽く貫き手を打ち込み、防御したところで本命の右の拳を腹に叩き込む。爪先を縫いとめられているため、回避は不可能。心置きなく打ち込める。


「おぶぅえぇ~っ!」

「何しにきやがった。このスットコドッコイめっ!」


 この無駄に爽やかなイケメンは、魔王軍の広報官をやっているマヌエル・ルーインブラス。種族は何だったっけかな? こいつのことはど~でも良いので忘れた。序列自体は20位くらいだったっけか? 俺っちからしてみたら、ハッキリ言ってザコだ。まぁ、昔の話なんで今の強さは知らんけども。こいつは少々アレなんで、うち村には近寄らせたくはないんだよな。それにしても、なぜコイツがここに来たんだか。


「相変わらずの間抜け面をさらしに来やがって」

「ま、間抜けって!? 僕はマヌエル! 間抜けじゃないよ。それに変な顔は君が殴るからじゃないか!」

「殴った? いや、違うな。ほんの軽い挨拶だ。んなことはどうでも良い。で、何の用なんだよ? こっちはお前ほど暇じゃねぇんだぜ」


 まぁ、十中八九、召喚状のことなんだろうけどな。


「君は相変わらずだね。僕が召喚状を配達していたんけど、内容を見てるんじゃないのかぃ」


 こんなナリでもコイツは魔族、もう復活しやがった。結構強めにやったんだがなぁ。 


「召喚状? あぁ、クズ籠のあれか」

「ちょっ! 魔王様直々の召喚状なんてことをしてるんだいっ!」


 直々だろうが何だろうが、魔王軍じゃない俺っちにゃ関係ないんだよな。


「どうせ戦争ごっこの案内か何かだろ? 読むまでも無ぇな」

「そうとも言い切れないだろう? 魔王様直々の書状を貰える事がどんな栄誉な事か、君は知らないのか?」


 栄誉じゃ腹は膨れねぇよ。そんなモノのために、厄介ごとを持ち込むなよなぁ。


「封を開けてねぇから、何が書いてあるか知らねぇんでな」

「そ、そこまでかぃ? 僕も詳しい内容は知らないけど、中身くらいは読むべきじゃないのかぃ?」


 相変わらず几帳面なやつだ。チッ、読むだけは読んでやるよ。アレフィをこいつに見せるのは嫌だが、ここを離れるとコイツが事務所に入って来かねねぇ。それだけは阻止しねぇと。


「アレフィ。そこのクズをクズ籠に・・・・・・じゃねぇや、クズ籠から黒く手四角いやつを持ってきてくれ」

「さっき捨ててたやつでしょ? 要らないから捨てたんじゃないの?」

「良いから持ってきてくれ」


 アレフィは『変なの~』とか言いながらも、クズ籠から召喚状を持ってきてくれた。

 目の前のクズは、プルプルと身体を震わせてひざまずきこう叫びやがった。


「そこの可愛らしいお嬢さん! 僕と結婚を前提にお付き合いをして頂けませんぐぁっっ!!」


 俺っちは、目の前のロリコンの顔面に、飛び膝蹴りを叩き込んでやったのであった。

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