第18話 新たな業種

 アレフィを拾ってちょうど半年後、俺っちは事務所の看板にこの一文をつけ足した。


龍騎兵ドラグーンはじめました』


 と。

 ちなみに、空を飛ぶ飛龍騎兵ドラグナーとはまた少し違う。悔しいことに、龍騎兵よりも飛龍騎兵の方が速度が出て空を飛べるため人気はあるが、積載量では龍騎兵の方が圧倒的に上だ。偵察には飛龍騎兵の方が上だが、戦力として考えるなら龍騎兵一択だ。アレフィのやつが飛べれば・・・・・・いや、アレだ、何でもない。

 それに飛龍騎兵は魔法の運用を視野に入れてるから、魔法の扱えない俺っちには関係ないしな。・・・・・・悔しくはない、悔しくはないんだよぉぉぉぉ!

 そ、それに、飛龍騎兵に比べれば、『比較的安全』に人も運べるしな。まぁ、危険度は空を飛ぶよりかはマシ・・・・・・と、言った程度だが。普段は高速で動くことのないこの世界の人間は、龍の出す速度は恐怖以外の何物でもないだろうし。

 墜ちたら100%死ぬ空の旅か、ぶつかったり転んだとしてもそう簡単には死なない地上の旅か。まぁ、墜落死と衝突死、どちらが良いかと言われても、答えは出ないだろうけども。


 アレフィの調きょ・・・・・・もとい訓練も、一応は実戦レベルにあると判断し、戦力として考える事にした。

 これからは輸送任務も、または戦場での戦働きも、アレフィをしっかり使うことで、楽をす・・・・・・ゲフン、ゲフン、効率よく稼ぐことができるとの判断からだ。




 そして、看板を掲げてから、依頼の量は格段に上昇した。

 今までは徒歩での輸送任務だったため、頻繁には輸送任務はなかったのだが、アレフィを仕事に組み込んでからはこの輸送任務が格段に増えていった。

 俺っちの高速移動術をもってしても片道4日かかっていた隣の街が、わずか2日で往復でき、そのうえ積載量が10倍強と、輸送能力も格段に上昇したためだ。

 なので村の主婦連中から、食料品や布などの衣料品、調味料や嗜好品と言った品々のおつか・・・・・・輸送任務がひっきりなしだ。

 その分、村の細々とした依頼ができないのが気になるところ。そう俺っちは、村に愛される凄腕の傭兵だからな。




「うひゃ~! 毎日思いっきり走り回れて、ボクは楽しいよ!」

「2の5」

「いひひひひっ!」

「おっと、1の4」

「もっと飛ばして飛ばして飛ばしまくるよ~!」

「1の3」

「うむ~、マスターってノリが悪いよね!」

「1の1」


 確かに速く走ればそれだけ楽しいとそそのかし・・・・・・お願いしたのだが、モノには限度というものがある。こちとら、地図を見ながら進路を決定し、その上でいつ魔物や敵性生物が出てきても良い様に、気を張ってるというのにだ。ただ指示を聞いて走るだけの奴とは、一緒にしないで欲しい。無駄話をしながらも、きちんと指示通りに動けるのは褒めてやっても良いがね。

 ま、実際の話、この駄龍の重量と速度なら、大抵のモノは無傷で蹴散らせるんだけどな。それでも警戒は重要。


 そして、早く届ければ届けるほど、それだけ儲かるのも悩ましいところ。自分で走らなくても良い分、楽で儲かるのは良いんだけどな。


『プギルゥッ!』

「あれ? 今何かを蹴ったような気がするよ」 


 ひき逃げに遭ったのは、悲鳴からして不運なプギィだろうな。でも、いちいち止まって素材やら肉を回収するより、輸送任務の方が儲かるし、何より乗せる場所がない。無視だ無視。


「あははははっ! 速い速いっ!」

「1の5」








 俺っち達は予定通り、隣の街である、『城塞都市バルドツィヒ』に到着した。魔大陸では、新しい村や街以外は、高くて分厚い塀に囲まれた城塞都市だ。この辺りの事情は、過去に大暴れしていた『災厄の暴龍』が要因だというから驚きである。

 頑丈な塀に守られていないと、とてもではないが暮らせなかったくらいに暴れていたんだとか。どんだけやねん? と、心の底から思う。

 

「こんにちは!」

「うぃ~っす」

「おう。ご苦労さん」


 俺っち達は顔馴染みの門番に挨拶すると、入場料を払ってバルドツィヒに入った。入場料の徴収は、街の人間なら要らないが余所者は払わないといけない。一種の税金だな。入市税とか滞在税とかそういうやつ。

 うちの村はその点フリーダムだよな。簡単な木の柵と空堀はあるが城壁は無いし、入場料とかもない。その変わり、あまりにも辺境なうえに、道中は危険生物で満ちあふれている為、行商人とかもほぼ寄り付かないんだが。

 自給自足が成り立つ小さな村に訪れるモノ好きは、めったにいない。うちに来れるくらい強ければ、戦場に同行する酒保商人をやっていた方が儲かるし。それに、その強い奴らはもれなく知っていたりする。世界に影響を与えるくらいに、ヤバい奴らがうちの村にいるという情報を。そんな異境の地に訪れる者はいない。だからこそ、俺っちみたいな存在が必要なんだよね。




 俺っちたちは、城門前で馴染みの商人にホークウッドからの産品を手渡し、いつもの宿屋の厩舎を借り、そこにアレフィの装備一式を置く。

 この町で商品を買えば、この宿屋に配送される契約を結んでいる。後は、リストの商品を買い集めるだけだ。




「マスター、あれ美味しそう!」 



「マスターあれ食べたい!」



「マスター、コレ、良い匂いがする!」




 人化したアレフィの甲高い声が商店街に響き渡る。アレフィはこの町に来ると、毎回屋台を練り歩くようにしてはしゃぐ。

 コイツも一応は従業員だからして、そここそこの給料は渡してはいるが、その大半はおやつへと消える。まぁ、未だに幼女体なため、それほど量は食べられないみたいなのだが。

 龍化した状態でたくさん食べて人化するとどうなるか? と、言った実験は、あれはエグかった。龍形態から人化を始めると、アレフィの口の奥底から詰まった配水管のような『ゴポゴポ』と言う音と共に、それまで食べたものが半消化の状態で・・・・・・うっぷ、さすがの俺っちも、アレにはまいったね。

 龍の胃袋と幼女の胃袋とでは容量が違うってことだな、当然のことかもしれないが。一度吐いたモノを再び食べさせるほど鬼畜ではないので、その後の処理が大変だった。

 そのあとジャンヌさんがどこからともなく現れて『そうよねぇ。そうなるのよねぇ』とか言いならが笑っていた。知っているなら教えてくれれば良いものを。あの人は間違いなく『災厄』の名にふさわしい底意地の悪さがある。面と向かっては言えないけどな! 怖いから。

 あの見た目が可愛らしくのホワホワとしたのは擬態だ。油断した奴をバックリと行くための疑似餌だ! あの存在は、そう思うことにした。心の平穏のためにもそれが良い。ソンチョーは騙されている! と、声を大にして主張したいが、あの筋肉はジャンヌさんにべた惚れのため、下手な事を言うと殴り合いの喧嘩に発展しかねない。いや、間違いなくそうなる。


 龍種は人種とは別種の存在。分かり合うことは永遠にできないのかもしれない。

 俺っちは目の前の屋台巡りをしている幼女をみて、そう思うのだった。


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