第17話 調教? いいえ訓練です

  ここ数日は、依頼の合間にアレフィと一緒に騎乗訓練中だ。

 使えるものは使う、それが傭兵の正しき姿。使えないモノは? 使えるようにするのが備えというもの。せっかくの戦力だ、有効かつ臨機応変に運用しないとモッタイナイからな。

 そして今日は、騎乗は騎乗でも移動先指定の訓練だ。

 アレフィは普通の馬や騎龍とは違い、言葉による応答が利き、ある程度の思考力がある。これが普通の走騎龍や馬などと違い、アレフィ独自の大きな利点となるだろう。

 だが、頭の中がお子ちゃまなので、指示を与えてもそれが有効になるとは限らない。これが非常に悩ましいところ。言葉を解するからと言って、必ずしも頭が良いわけではないのだ。

 

 そして、騎龍中の主な攻撃は槍になる。一応は弓も扱えるが、状況次第だしな。

 障害がなく開けた平原ならともかく、森の中では槍一択だな。アレフィの速度も相まっての一撃必殺の威力は、とても素晴らしいものだ。扱い損ねたら、鞍から叩き落とされるのが難点だが。

 そして、槍を扱うには片手で手綱を操作することになるのだが、片手で手綱を細やかに操作すると、今のアレフィには理解が不可能。繊細な手綱さばきでは、アレフィの龍種の分厚いつらかわの反応が鈍く、こちらの指示が伝わり難いのだ。

 そして、言葉を理解したとしても、細かい指示は無理なのは証明済み。ならばどうするか・・・・・・と、言う事だな。

 そこで、目の前10メルト、中央を始点に左右5メルトずつを、前2メルトずつの5区切りに、左右も2メルトずつの5区切りに指定し、進行方向を決めることにした。必要に迫られての苦肉の策だな。


 一番奥を1でそこから2、3、4、5と続く、そして左右へは、左端を起点として、1、2、3、4、5と続く。。正面ならば1の3、2の3、3の3と、ある程度はそこに行って欲しいと伝えることができる。え? 左右と後ろ? アレフィがそこまで物覚えがよかったらなぁ・・・・・・マジな話。急成長で知覚ブーストされてても、中身は生後数か月、期待する方が間違いだわな。なので、左右と後方は当分気にしないことにした。

 元々が、脚の速さを生かした突撃と一撃離脱スタイルが主流なので、止まらず駆け抜けることを優先とする。突破力=打撃力とした運用だな

 だが、比較的簡単な指示なのだが、注意力散漫で自由主義な赤ん坊に、これらの簡単な事すら覚えるだけの集中力もなく、前方のみとはいえ覚えさせるのに数週間もかかってしまった。

 ・・・・・・本当につらく厳しい戦いであった。すぐに興味を失う駄龍に、食事で誘い、遊びで誘い、あれやこれやと、本当に大変だった。






「2の5!」

「あい~」

「3の4!」

「うい~」

「1の1!」

「ほい~」

「3の4」

「へい~」


 調教という名の勉強会を経て、アレフィもようやく慣れてきてくれたので、何とか指示について行けるようになった。 

 いささか真面目さに欠けるが、ソコは仕方ないものとする。アレフィの親は伝説級の存在だが、なんせ中身がアレだしな。物事には諦めが肝要だ。

 結局、あの崖崩れで圧死していた存在は、ジャンヌさんによりティターニアと断定された。なんでも、崖上を歩いて居たらしいのだが、長雨で緩んだ地盤が龍の重さに耐えきれず崩落、それに巻き込まれての圧死と言うのが、ジャンヌさんの見解だった。

 『あいつも間抜けな死に方をしたわね~』とはジャンヌさんの談。




 騎乗するにあたり、槍の更新も必要となった。今までの槍は2メルトほどで、分類としては、投げても使える手槍に近い。超絶高価な素材の一点物なので、よほどのことがない限り、投げるという使い方はまずありえないが。

 そしてこの槍は、地上で戦うには申し分はないが、騎龍して戦うとなると単純に長さが足らない。少なくとも馬上で扱う槍だしなぁ。龍の上で扱うのは完全な想定外。この地上用の槍は、普段は鞍に固定しておいて、地上に降り立った時に使用することにした。

 騎乗用の槍は、ダガーを刃先にし、柄は比重が高く硬い木材を柄とした。柄の先端を4つに割裂いて、そこに刃先をニカワで固定し、紐でグルグル巻きにしたうえで更にニカワで革を圧着し、オイルで煮込み革を硬化させると共にニカワ馴染ませた。刃先から4メルト程を革で巻き、オイル処理を施してハードレザー化してるので、斬り、突き、叩きに対応できる。長さは8メルトほど。長槍に分類するべきものだが、本来の長槍よりかは少し短い。長槍よりも、どちらかと言えば馬上槍ランスに近い形状に仕上げてある。 

 長さは少し短いが、俺っちは、取り回しの容易さを重視するから、この辺りは好みの問題だ。まぁ、品質も良くないし、代用品だな。ホークウッド村には、生活用品向けの鍛冶屋はいるが、武器を作れるような鍛冶屋が居ないからなのだが、こればかりは仕方がない。

 ダガーは生活用品に含まれるため、村の鍛冶屋でも加工ができる。村の周辺で材料を確保できるから、再作成が容易だし。

 この辺りは仕方がない。辺境の、それほど大きくはない村なので。

 戦力的には、魔大陸を制圧できる戦力がそろっているのだが。だからこそ、強大な武器は不要ともいえるんだがね。






 そして、訓練の日々は続き、アレフィも指示通りに動けるようになったんで、今日は実戦訓練も兼ねた狩猟任務だ。

 うちの村は村長夫妻が無類の肉好きで、肉の消費量がかなり多い。あの夫婦も、少しは自重してほしいものである。

 オークとプギィは種としては結構近いのだが、その辺りは気にならないのだろうか? 人種であれば、人の頭をした四足獣を喜んで食べるようなも・・・・・・うぬ、この想像はやめよう・・・・・・。

 そんな訳で、今日は楽しい、かどうかは判らないが、プギィ狩りである。

 獲物は、2頭までなら龍化アレフィの腰付近に取り付けた左右の網で対応できるので、比較的サクサクいけると思う。




「良し! 2の1へ抜けろ!」

「あいよ~ん」


 俺っちの指示通り、アレフィがプギィの左を抜けるコースを取る。狙うならここだな。


牙真流がしんりゅう砕貫さいかん


 俺の操る馬上槍? いや、龍上槍の穂先がプギィの首の半ばまでを断ち切り、背中を大きく切り裂く。

 うぬぅ、狙いがそれたな。この業は、本来なら首を砕いたり斬り飛ばす目的の業なのだが、予定されていたよりも狙いをそれ、斬りおとすまでには至らなかった。槍の長さが遠心力を生むため、威力は申し分ないのだが。

 俺も武人の端くれ、馬上での槍の扱いも当然ミッチリと学んだが、馬の背よりもはるか高い位置にある龍の背からの一撃。思ったよりも難しい。

 アレフィも鍛えないといけないが、俺もまだまだ修練が必要だと、痛感するのであった。

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