第16話 村長
今日は久しぶりの村での任務だ。任務の内容は、ハンティング。ちなみにこの任務は、俺っちの自宅兼事務所の復旧作業に、参加してくれた人たちへの慰労目的の親睦会用の肉の確保のためだ。
つまりは、利益が絡まないタダ働きだな。もらえるものは村の人たちからの信頼と信用。クッ! これらはお金では買えないから喜んでやりますとも!
んで、その要因を作った駄龍は、村の広場で交流会の主役をしている。具体的には、龍の姿にさせて子供たちの玩具だな。一部、ヒマな大人が混ざってる。そして、暴走されると俺っちの置かれている状況が悪化するため、ジャンヌさんの監視のもとに。
今日は槍が使えるため、突進を交わして横から心臓へ槍の一撃で、サクッとそこそこの大きさの野生種のプギィを確保。食用目的とはいえ、今回は革を村に寄付するため、毛皮に傷が付かないように、簡単なソリを作っての運搬だ。
この辺りの一連の作業は慣れたもの。1頭目を村に届けて次を探しに出かける。狩られたプギィは、婦人会のおばちゃんたちに、皮を剥がれ、肉は調理に回される。
出かける際に駄龍を見てみたら、頭を下げさせられ、木剣で叩かれてた。先頭で叩いてるのはドロシーかな? あと幾人かのやんちゃな子供たち。龍の討伐を模したお遊びだろうな。ドラゴンスレイヤーの名は、今の時代になっても子供たちの憧れだ。
まぁ、あの程度は大してダメージにならないだろうと、放置。人間の怖さを学ぶいい機会だと思う。
次のエモノもアッサリ見つかる。最近、少しプギィが増えすぎかもしれない。村に被害が出る前に間引く必要があるかもなぁ。あいつら、結構凶暴だから。
そんな感じで、サクサクとプギィを狩り続ける。数を減らすためなので、普段は狩らない子供やメスも狙っていく。子供は肉のうまみが少し劣るが、肉質の柔らかさが素晴らしく、焼いて食べるのに適している。メスの大人は、少し硬いものの煮込みが美味しい。オスは、季節によっては肉に臭みが出るが、干し肉にすれば、まぁまぁ食える。物資の乏しい辺境の村では、贅沢は敵だからな。
日が傾くまでに、オス4頭、メス6頭、子供16頭を狩ることができた。1日の成果としたら、なかなかのものだと思う。これでしばらくは、食卓に肉が並ぶし、干し肉の備蓄も増やせると思う。もっとも、肉はしばらく熟成させるため、今日はプギィのモツパーティだ。内臓類は熟成が必要な肉とは違い、早く食べないと痛むしな。
広場では簡易のかまどが作られ、大鍋にモツが煮られている。一日休むことなく働いた身の上としては、とても空腹に直撃する香りだ。そして、村の貯蔵庫が開けられ、酒樽が運び出され、新たな村の住人を歓迎する宴が始まった。
俺っちとしてはそんな意図はなかったのだが、村長が『ついでにやっちゃえばいいじゃん』とか言い出したので、それを拒否しなかっただけだ。まぁ、かなりドジなやつとはいえ、一応は村が受け入れてくれたってことだな。今のところ、被害を受けてるのは俺っちだけだし。
ちなみのこの村の村長は、先々代魔王、その人だったりする。政権を奪われ、辺境に居ついた先々代魔王。そして、善政を敷いてた頃に親しくしていた一般住民たちが集まり、この村を始めたのが切っ掛けだ。悪政を始める前は、地方の小さな村の行事に、飛び入りで参加するくらいに気さくで民に慕われていたらしい。その影響もあってか、失脚した後も、王都から離れれば離れるほど、先々代の人気は高かったそうである。
種族は豚人、いわゆるオーク。その名をディートフリート・ホークウッドと言い、このホークウッド村の村長だ。俺っちは『ソンチョー』と呼んでいる。もう良い御爺ちゃんのはずだが、未だに筋肉隆々の偉丈夫で、御年667歳。脳筋系魔王と呼ばれていたのは、公然の秘密である。
んで、俺っちも酒を酌み交わす程度には仲が良かったりする。
「がはははは、おう、カイム。なかなか良い肉を刈ってきやがったな」
「ソンチョーもこれくらいやれるっしょ」
「そうはいっても、昔に比べりゃ、見る影もないくらい筋肉が落ちちまったからなぁ・・・・・・」
今でもクママを片手で捻りつぶすくらいの強さを持っている。こないだも、村に侵入したクママの頭を、簡単につぶしてたし。現役時代は、どれくらいの筋肉に埋もれていたんだろうね。
「今でも現役でしょうに」
「アッチの方もな! げはははははっ」
魔王になるほどの魔力もちだったため、豚人としての寿命をはるかに超越してるが、まだまだ現役らしい。ナニがだって? ナニがだよ。
魔力が多ければ多いほど寿命が延びるみたいだからなぁ。そういや先代もまだまだ元気だよな。猫魔の寿命は60年ほどだっていうのに、俺っちよりも年上でまだまだ現役だし。ナニがだって? 戦闘能力がだよ。
「それにしてもカイムよぉ、人の食事にはケチを付けたくはないんだがよぉ」
俺っちの手元を見ながらソンチョーは言う。
「それは無ぇ~んじゃねぇの? ソレ、モツを食ってるのかマヨネーズを食ってるのかどっちなんだ?」
俺っちの、モツ煮込みのマヨネーズ和えに文句でもあるのかな? この筋肉だるまは。
「旨いんだから良いじゃねぇか。旨いは正義! だぜ」
「本人がそれでいいなら別に構わないけどよぉ。俺様もマヨネーズは嫌いじゃねぇが、それは無いわ」
「マヨネーズは神だぞ。この神が居れば、大抵のものは旨くなる」
「モノには限度というものがな・・・・・・まぁ、いいか、また殴り合いの喧嘩になりそうだ」
マヨネーズ神の信仰を巡っての殴り合いの喧嘩は、俺っちの13勝1負1分と、大きく勝ち越している。武術家でもあり、無限とは言わないまでも高い回復力を有した俺っちに、力だけが自慢の脳筋肉だるま程度が勝てる訳が無いじゃないか。
負けているのは、殴り合いを始めた最初に、初見殺し的なのを貰って伸びただけだ。引退しても、魔王はヤバいということが判明した訳だな。
あれが実戦ならかなりヤバかった。わずか十数秒とはいえ、動けなかったわけだから。1分けは2回目の時のやつだな。慎重になりすぎて時間がかかり、ジャンヌさんに止められた。理由は、料理に埃が入るから。その理由だけで、ソンチョーと俺っちを抑え込んだのだ。うん、あの人には逆らえんな。
でも、その引き分けの後はすべて勝ち越している。そのため、最近では俺っちのマヨネーズ信仰に、クチは出すが手を出さなくなっている。
「まぁ、それは良い。しかし、お前ぇさん、龍の幼生体なんざ、どこで拾ってきたんだか」
「拾ったっつ~か、成り行きだよ成り行き。おかげで俺っちは大損だぞ?」
「あ~そうらしいな。聞いた時には大笑いしたぜ」
「チッ! 人の不幸を喜びやがって。巻き込まれて死んだらどうするんだ」
「お前ぇがそれくらいで死ぬようなタマかよ。なぁ、『国崩し』の」
「ちょっ! 誰が聴いてるか分かんねぇんだから、不用意にその二つ名を出すなよ! 今の俺っちは、辺境住まいの凄腕の傭兵ってトコなんだからよ」
『国崩し』の二つ名は、俺っちがやんちゃしてた頃の二つ名だ。今は品行方正さが売りなんだから、過去をほじくり返すなっつ~の。
「お前ぇさんなら、こんな辺境でくすぶってないで、中央に出りゃ稼ぎ放題だろうに」
俺っちの任務は、お前さんが暴走した時の備えなんだよ・・・・・・とは、さすがに本人を前にしては言えないわな。まぁ、言ったところで『そうか抑えか。よろしく頼むわ。がはははは』とか良いそうだが、確かめたいとは思わない。油断してくれた方が狩りやすいしな。
その辺りを感づかれない様に、言葉を濁す。
「もう中央のゴタゴタはうんざりだ。俺っちは辺境でくすぶって居たいんだよ」
「ま、お前ぇさんがそれでいいなら俺様も助かるがよ。今回みたいに機を見て自分で動いてくれるしな。プギィが増えてたのは俺様も気になってた。ありがとよ。それが言いたくてな」
筋肉だるまのツンデレとか、誰得なんだろうな。
「気にすんな。俺っちも村の住人だからな。それに仲のいい奴らも居るし、村に被害が出たら困る」
ツンデレは俺っちもか? と、ふと思うが、気にしないことにしよう。
男がお互いに照れあっているとか、誰得だ? この状況。
「ましゅたぁ~。にゃにしてるのぉ~」
ろれつの回らない言葉で、幼女形態のアレフィが近寄ってきた。よく見ると、顔が真っ赤で若干ふらついている。
んで、とてつもなく酒臭い。
「んふふ~、いいきもちなのら~」
フラフラしながら俺っちに倒れ込んできたので、慌てて飛びのくように素早く避ける。事務所を崩壊させた超重量にもたれかかられたら、潰れて死んじゃうわ!
アレフィは倒れても『んひひひひ』とか、変な笑い声を出しながら、モツ煮込みのマヨネーズ和えを口に運んでいる。
こやつ、酒の力を借りねばマヨネーズ神を受け入れられないとは難儀なやつめ、とは思うが、この微妙な空気から逃げ出すには最大の好機。
「誰だ! この腐れアンポンタンに酒を飲ませたのは!」
俺っちは、表向きは、アレフィに酒を飲ませたやつを探しに、その場を後にしたのであった。
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