第15話 予想外の出来事

 アレフィについて分かったことがある。

 それは、人化中は、一般的な人族並みしか食べないと言う事だ。今のアレフィは幼女並みの大きさ、そしてその食欲も幼女並み。

 まぁ、この年くらいの幼女が、硬い干し肉をモッシャモッシャ食べてるのは違和感があるが。

 そして、干し肉のマヨネーズ和えは拒否られた。解せぬ・・・・・・。


 龍に戻っている時にお腹いっぱい食べて、そのあと人化したらどうなるんだろ? 謎だ、今度試してみよう。実験は大事だよね、龍に関しての生態は良く分からないし。まさかジャンヌさんに聞く訳にもいかないしな。


 食事のあとアレフィには、自宅のベッドのある部屋をあてがい、俺っちは事務所で寝ることにした。まぁ、いろいろと考えることもあるだろうし、一人にすることも必要な事だろう。



 事務所のソファに横たわると、いろんなことが思い起こされる。なんか慌ただしい一週間だったなぁ、と。

 しっかし、ジャンヌさんの素性は意外と知られてないよな。あれか、先々代が悪い噂を封じたのかね? 一時期は、かなりの暴君になってたそうだし。凄腕の傭兵である俺っちが、こんな辺境の村に居るのは、元魔王と現邪龍の監視を先代の魔王様に頼まれたからなんだよなぁ。正しくは、先々代の魔王が暴走した時の討伐任務か。ジャンヌさんに関しては無視して逃げても良いらしいから、やりようはある。

 ま、いろいろ制約があるみたいだし、『血の盟約』だっけか? 伝承を信じるならば、先々代に直接手出ししない限りは、何も問題ないだろう。やる時は、不意を突いて一撃で決めれば何とかなるんじゃないかな? そして、即退散。うん、たぶん何とかなるはず。

 ジャンヌさんは何の意図があるかは知らないけど、俺っち家に招き入れたいみたいなんだよね。ま、何があるか分からない敵地に、不用意に乗り込むとかありえない話だよな。不意を打たれたら、さすがの俺っちも死んじゃうだろうし。

 

「あ~、今日は久しぶりに屋根のある場所で寝られるなぁ」


 野宿は慣れてるが、やはり屋根のある場所は良い。ベッドじゃなくソファであっても快適だよな、と思い、毛布を取ろうとするとなにやら視線を感じる。そっちを見ると、アレフィが柱の陰から顔だけをのぞかせてこっちを見ていた。

 声をかけようと口を開いたら、アレフィから声をかけてきた。


「マスター、一緒に寝てもい~い?」


 一瞬、何言ってんだコイツ? と、思ったが、よくよく考えれば、強靭な龍種とはいえ生後二か月。昼間ではなにやら策をめぐらし、狡猾な一面を見せていたから失念してたが、ユーカさんのところで家族団らんの雰囲気にあてられ、寂しくなったんじゃないかと推測。

 龍の精神構造が、一体どうなってるのか皆目見当はつかないが、これから相棒になるかもしれない存在だと思い直し、迎え入れることにした。


「おう、いいぜ。ソファは狭いが、人化を解かなきゃ何とかなるだろ」


 俺っちの言葉に、満面の笑みを浮かべたアレフィが駆け込むように走ってきた。

 『ゴスッ、ゴスッ、ゴスッ』

 ん? 何この音?

 『ズダンッ!』

 アレフィがジャンプをした瞬間、俺っちの危機察知能力が最大級の警鐘を鳴らした。ここに居たらヤバいと。

 俺っちは自分の直感を信じることにして、ソファーから転げ落ちるように飛びのいた。 

 アレフィは、綺麗な放物線を描きながら『え? なんで避けるの?』みたいな表情をしていたが、そのまま見守ってると、『メキョッ』と言う音と共にソファにめり込み『バキバキバキッ』と床を砕きながら沈んでいく。そして、事務所の地下にある保存庫の基礎を打ち砕いたようで『ズゴゴゴゴ』と地響きと共に事務所が傾いていく。


「ウゲッ! なんじゃこりゃ~っ!」


 寝入りばなと言う事もあり、完全に油断をしていた。あんな甘っちょろいことを同意した自分に、激しく猛省。しかし、すべては後の祭りだ。


 事務所においてある棚が崩れ、多数の書類が散らばり、アレフィが沈んでいった穴に色んなモノが落ちていく。

 そして、床から突き上げるような衝撃が発生し、俺っちは吹き飛ばされ、運よく窓から外へたたき出された。

 アレフィが気絶したのか、人化の術が解けたらしい10メルトを超す銀色の物体が、事務所を下から突き上げる様にしながら完全に破壊していく。

 『ズゴゴゴゴ』と言う地響きと共に崩壊していく事務所を見て、俺っちは巻き込まれなかったことに安堵をしたが、それと同時に絶望感が心を支配していく。

 しばし呆然してると、周囲の家の明かりが灯り、人が集まり始めた。

 アレフィは完全に目を回したのか、または息を引き取ったのか、ピクリとも動かない。

 俺っちが呆然としてると、すぐ隣にジャンヌさんが来ていた。


「あら~、あの子やっちゃったのねぇ~。実は私たちって、人化をしても体重は変わらないのよね。うちはしっかり強化してあるから大丈夫だけど。教えてなくてごめんなさいね」


 と、ジャンヌさんは『うふ、テヘペロ』みたいな感じで言ってるが、それは早く教えて欲しかった情報だ。知ってれば外で寝かせたのに。

 俺っちは、アレフィを迎え入れたことで発生した惨劇に、脱力感に見舞われるのだった。








「ごべんなざーい、ごべんなざーい」


 『トンカン、トンカン』という音を背景に、アレフィは人化をしたうえで正座中だ。正座はお師匠さんに教わった反省法で、これがまた、慣れてない人間には凄まじく効く。


「ごべんなざーい。あじがいだいー」


 アレフィの胸には『反省中』とかかれた札が下がっており、背中には『エサを与えないでください』と札がかけられている。

 アイツの昨晩の不用意な行為は、悪気はないとはいえさすがに許せない。不運をつかさどる神は存在するのか? もしくは、目の前で泣き言をあげているのが疫病神そのものなのか?

 


 

 結局、今回の被害は、事務所全壊と自宅の一部損壊。俺っちは、丸一晩放心した後、放心していても仕方がないので復旧作業に移ることにした。

 アレフィは気絶したのか安眠したのか、翌朝には目を覚ましたのでジャンヌさんを交えて説教を行った。ジャンヌさんからは、人化した龍の心得みたいなのを叩き込まれ、アレフィは真っ青になりながら聞いていた。その内容を要約すると、親が居ないから教えてもらってないとはいえ、不慣れで危険な術を不用意に使うなってことだね。今は、反省のための正座の真っ最中だ。

 普段の行いがよかったのか、村のみんなが復旧作業に参加してくれている。やはり、普段の評判って大事だよね。昨日はアレフィに、その大事な評判を地の底に叩き落とされそうになったけども。



 自宅兼事務所に関しては、ぶっちゃけた話、連日の休みのない任務で、自宅に帰ることはほとんどなく、ただ寝るだけの場所で、自宅も事務所もかなり簡素な造りになってはいたんだよな。耐久力の無さ、それが招いた結果でもある。実際、ユーカさんは問題なく耐えてたみたいだし。

 今回の失敗も踏まえ、基礎も含めしっかりと立て直す予定だ。また、些細でくだらないことで家を崩壊させたくはないからな。

 あ~、せっかく貯めた貯金の大半が、今回の件でスパーンと勢いよく飛びたっていきそうな感じだ。今までは余裕もあり薄利多売の経営方針だったが、薄利ヤバいに代わった瞬間だ。かといって、依頼金の引き上げとかは、そうそうできない話だしなぁ。


 駄龍の『ごべんなざーい』と言う泣き声を背景に、事務所の完全復旧作業と自宅の修復と強化は進められるのであった。

 

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