第13話 信仰の違い

「うえぇぇぇぇっ、ナニこれ~・・・・・・」


 アレフィは、マヨネーズ神を口にすると同時に、そんなことをほざきやがった。


「ドロッと脂っぽくて、鼻に嫌なにおいがくっついたような気がして、ボクは苦手だなぁ」

「あ~、そうよねぇ。マヨネーズは好みが判れるわよねぇ」

「な、なんやてぇっ!」


 ユーカさんは納得顔だが、俺っちには理解できない。マヨネーズ神を嫌う者がこの世に存在したとは! ダメだ、理解できない。


「ってか、おまえ、生肉から木材まで何でも食べるやろっ! なんでマヨネーズ神だけをダメ出しするんやっ!」

「苦手なものは苦手だもん」


 クッ! コイツの価値観が分かんねぇ。龍種と人とでは、到底分かり合えないと言う事か!?


「何でも屋さん。マヨネーズは人間でも嫌いなひとはいるわよ」

「な、なんやてぇっ!?」


 人族にも嫌いなやつがいるだとぉっ! そんな馬鹿な・・・・・・。

 クッ! たしかに、人にも色んな趣味のやつがいるからな。理解はできぬが理解した。

 

 うむ、仕方ない。嫌いなやつがいるのは判った。だが、我が信仰心には欠片も曇りはないわ!

 俺っちは、残りのマヨネーズ神を体内に招き入れ、その余韻を堪能する。


「うえぇぇぇぇぇぇ。あれを丸呑みできるマスターが、ボクには理解できないよ・・・・・・」 


 チッ! コイツが神を否定するとはな。異端審問にかけてやろうか。具体的には、タライ一杯のマヨネーズ神に漬け込むとか。このままじゃ、主従関係も見直しかなぁ。

 まぁいい、コイツはほっといて、窓の修理と片づけをしないとな。


「あ、ユーカさん、申し訳ないのですが、こいつをしばらく見ていてもらっていいですか? 少し片づけをしないといけなくてですね」


 と、割れた窓を見ながらお願いする。

 俺っちの言葉に、ユーカさんは表情を輝かせた。


「あら、いいわよ。しばらくじゃなくても。アレフィちゃん、うちの子にならない?」


 ユーカさん、その話はさっき断ったでしょ? と、言いかけたが、マヨネーズ神を否定したアイツには未練はない。それも良いかもしれないと、思ったのは事実だ。


「それならヨロシクお願いします。良いなアレフィ、人化の術を解くなよ。ユーカさんの家族にも危害を加えることを禁じる。もし破ったら、ジャンヌさんに言いつけるからな」


 え? 強者の威を借る弱者? 良いんだよ。利用できるものは何でも利用して任務を達成する。傭兵としては正しい考え方だ。

 アレフィは、またプルプルと震え始めたが、それは肯定したモノとして受け取る。


 俺っちは、その場にアレフィとユーカさんを残し、家に併設されてる傭兵事務所へ向かった。




 片付けの前にまずは、やらねばならないことがある。依頼受付ポストの確認だ。

 俺っちは基本的にソロ活動のため、不在中は依頼したいことを紙に書いてポストに入れて貰うことになっている。

 見てみると、そこそこの紙が溜まっていた。


「あ~、やっぱ結構あるなぁ。7日も不在にしてりゃそうなるか」


 少しぼやきを入れつつ整理する。


「これとこれはすぐに終わるな。これはまぁ、もう少し後でもいいだろう。あれ? この便せんは、もしや・・・・・・」


 この紋章は魔王軍のモノ、そしてこの横にある封蝋は魔王城を示す紋章。俺っちは嫌な予感がしたので、封を開けてみた。

 予想通りと言うかなんというか、魔王直々の召喚命令である。


「やれやれ、しばらく戦争とか紛争とかは無かったんだがなぁ」


 そう、ここ2.30年ほどは人族との間の戦争はなかったのだ。なぜ今になってそのようなことになったのかと、考えてみるが、思い当たることは無くはない。


 應龍ティターニアと思われるモノの死である。

 

 長らく続いた人族との停戦により、把握できたことがある。魔族と人族とが戦争になった直接の原因究明。そして、その要因となった、とある龍種の存在。魔族が人族の土地に入れるようになったからこそできた、應龍ティターニアの追跡。

 それで把握したところによれば、何らかの方法で人族を操り、魔族との戦争を引き起こしたとされている。

 そして、30年ほど前の突然の失踪。

 俺っちの予測としては、誰かとの間で子をもうけ、人族では討伐対象になっていたため、魔大陸に渡り出産。そして、何らかの要因によりがけ崩れに巻き込まれて死去。死んだことで、何らかの方法で動きを封じていた人族、が動き出したってぇ感じか?

 人族との間に休戦協定が結ばれたのも、ティターニアが姿を消して少し経ったあたりからだしな。そこそこ良い線をついているんじゃないかと思う。


 しっかし、生きてるときは当然のこと、死んだ後も誰かに迷惑をかけるとか、傾国の魔女らしいよな。迷惑と言えば、神を否定したあの存在。アレも迷惑だが。

 いっそのこと、マジにユーカさんに預けちまうか。

 

 ま、どのみち魔王の召喚状は後回しだ。俺っちはこの村に住居を構える村の一員。村の依頼を優先するのは当然のこと、魔王なんざ放っておいても問題ない。



 あれこれ考えながらも体が動く。俺っちは家の裏手の廃材置き場から、木材を抜き出し、窓の修理に取り掛かる。

 村にはガラス職人はいないから、職人のいる街から取り寄せかなぁ。

 面倒だが、緊急事態であったためと割り切るしかない。そう、理屈ではないのだよ、理屈では。


 飛び散った木片やガラス片を片付け、窓をふさぎ、簡単な修理を行う。

 とりあえず、雨風が吹き込まなければ問題ない。


 しっかし、マヨネーズ神が否定されるとはな・・・・・・アレフィに、これからどうやって接すればいいのかわからねぇ。

 

 そうぼやきながら、依頼書の整理に勤しむのであった。

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