第12話 偉大なる神
「マスター・・・・・・アレ、なに? なんなの?」
アレってジャンヌさんのことか? あの人をアレ呼ばわりすんな。潰されるぞ。物理的に。
「そのことは後で説明してやるよ。それよりもだっ!」
「え? あ、うん。そうだよね。マスター、ごめんなさい・・・・・・」
そんなことはどうでも良い。今はそんな事よりも大事なことがあるんだよ!
「マヨネーズ神を一刻も早く降臨させねばならん! お前はどぅする? ここで待つか?」
そうだ、マヨネーズ神を降臨させるという使命があるのだ!
「え? そんなことって・・・・・・」
あぁ~っ! めんどくせぇなコイツ。んな事なんかよりも大事なんだよ!
「あ~、もう知らん。ついてくるならついてこい。その場に居たいならそのまま居ろ」
俺っちは、我慢の限界を迎えていたため。自宅へ向かってひた走る。
普段は出さない全速力で駆け、自宅に到着すると、ドアのカギを開ける手間を省き、窓へ突っ込みぶち破る。窓の修理は後回しだ。まずはマヨネーズ神が先だっ!
台所に向かい、目についた材料を取り出し、作業台にのせる。分量はすでに心に刻んである。目分量でも問題ない。卵が少し古いが、7日程度なら大丈夫だ、ビネッガを少し多めにすればいいだけだ。
本来なら別の器に卵を割り入れて中身の状態を確認し、白身と卵黄とに分ける作業があるのだが、今は手間が惜しい。全卵を使用するタイプにする。今は速度が重要、多少風味は落ちるが問題ない。
生卵をボウルに叩き込み腐敗してないことを鼻で確認、その後にビネッガを加え、泡だて器で勢い良くかき混ぜる。
「うぉぉぉぉぉぉっ!!」
この時点でよく混ぜ合わせることが、味のまとまりにつながる。偉大なるマヨネーズ神のためなら手間は惜しめぬ。
白っぽくなったところで、植物油を少しずつ入れながらかき混ぜ続ける。そして、ここでの妥協も許されぬ。一心不乱にマヨネーズ神の降誕の儀式を続けるのだ!
ひやぁははははははっ、あと少し、あと少しでマヨネーズ神が降誕なされる!
「ぬおぉぉぉぉっ!!」
全体的に白っぽく、モッタリすれば完成だ。
完成したらあとは味見。出来立てのマヨネーズ神を指ですくい取り、己が体内に迎え入れる。
「ぐぅれぇ~~~いとぉっ!」
魂からの叫びが、自然と喉からほとばしるっ!
どうする? このまま飲み干すか、それとも簡単なサラダを作るか・・・・・・あぁぁ! 悩ましいぃっ!
まぁ、また作れば良いや、と、飲み干す方に決めた。
ボウルの淵に口を付け、指でかき込むようにマヨネーズ神を迎え入れる。
全卵を使用しているのでそこまでは濃厚ではないモノの、卵の風味が口腔内に広がり、ビネッガの酸味が鼻腔をくすぐる。そしてこの油によるナメらかな舌触り・・・・・・、あぁ、生きていて良かったと思える瞬間だ。実に素晴らしい。
マヨネーズ神の前ではすべてが平等。そして、すべての罪が許されるのだ。
アレフィのやったこと? あ? 別にいいんじゃね? どうでも。
ひとしきり堪能したら後は信者を増やすだけ。アレフィにも作ってやるか、と材料を綺麗なボウルに入れ、今度は卵黄のみを使用したマヨネーズを作り始める。
信者獲得のためには、最高のマヨネーズ神をお迎えせねばな。本来ならとれたての卵が良いのだが、昼を過ぎたこの時間帯ではすでに消費された後だろうし、また作ればいいだけの事。マヨネーズ神は状況により、いろんな側面を見せてくれる。
マヨネーズ神を、体内に迎え入れる儀式が終了したことで禁断症状も収まり、ようやく落ち着いてきた。ここまで俺っちを魅了するマヨネーズ神、罪作りな存在だぜ。
無事に完成し、マヨネーズ神が鎮座するボウルを手にもち、外に出ようとするがドアが開かない。よく見てみると鍵がかかっている。その時ふと横を見ると、ブチ破られた窓と、粉々になったガラス片が辺りに散乱していた。
俺っちは何も見なかったことにし、鍵を開けて外に出る。
外には、申し訳無さそうに佇むアレフィとアレフィの脚をぺチぺチと叩いてる、ユーカさんの姿があった。
「あら、何でも屋さん。なにか割れるような音がしたからきてみたら、この子がいて、泣いていたので慰めていたのよ」
「泣いてなんかいないよっ!」
「あら? そうかしら? 私には泣いてるように見えたけど?」
「そんなんじゃないもん」
そんなことはどうでも良い。まずはこれを食え。
「あら? マヨネーズ? 本当に好きよねぇ」
ユーカさんは『教えない方がよかったかしら』とかつぶやいているが、これを広めないなんてとんでもない!
「ほら、アレフィ。これがマヨネーズ神だ」
手の内にあるボウルをアレフィに差し出す。
「うぇぇぇ、ナニそれ~。なんかグチョッとしてて美味しく無さそう~」
うんうん、俺っちも初めて見た時はそう思ったものだ。これは、マヨネーズ神の試練なのだよ。試練を乗り越えたものだけが到達する境地。
「その大きさじゃ舐めるにも足らないだろ? ちょいと人化してみろ。大丈夫、怖くないからなぁ」
俺っちの言葉に、一応は興味はあるのか、素直に人化の術を使い、素っ裸の幼女へとトランスフォームをする。
「あら? あらあらあらあら」
あ、ユーカさんは小さくなっていくアレフィに、目を真ん丸にして驚いていた。
ジャンヌさんも人化した龍だが、この様子だと知らないみたいだな。
「あら~、可愛くなったわねぇ。ねぇ、何でも屋さん。この子、うちが貰ってもいいかしら」
幼女スタイルのアレフィを見てそんなことを言っているが、そいつは見た目はソレでも、中身は龍種なんだよなぁ。
貰ってもいいかしら、の辺りで、自分が来ていた上着をアレフィに着せて抱きしめている。そんな犬猫の子供じゃないんだから、自分の物アピールしなくても良いと思う。
「いえ、先ほども見たでしょう? 見た目はそんなナリでも、中身は龍種なんで危険ですよ」
俺っちの言葉に、ユーカさんも納得したのか『残念ねぇ』を繰り返している。
俺っちは、アレフィにボウルを見せ、自分でもマヨネーズ神を指で掬い取り、目の前でクチに入れて見せる。あぁ、やはり素晴らしい。全卵タイプとは違い味が濃厚だ。どっちも好きだが、卵黄タイプは一味違うぜ。
「ふーん、これがまよねぇずってやつなんだね」
アレフィは、指で一すくいして口に入れた、その瞬間、アレフィが固まったように見えた。
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