第11話 話し合い

「あら、何でも屋さん。おひさしぶりねぇ~」


 こ、この声はジャンヌさん! あぁ、貴女が救いの女神に見えますよ!


「ジャンヌさん、お久しぶりです。不肖カイム。ただいま帰還いたしました!」


 魔王軍流の敬礼をし、彼女の声に応える。幼女の背に乗ってるのが様にならないが、あいさつは重要だ。

 しかも、この村の裏村長ともいわれている彼女に対しての礼儀は大事。幼女の背中で恥ずかしい? そんな些細な事よりも重要なのですよ! むしろ、この人を味方につけたならば他の村人なんざどうでも良いと断言できる。


「あら? この子はもしかして~?」


 やっぱり気づいてくれましたか。さすがは百戦錬磨の龍種族。年の功だよね年の功。


「そうです。ほら、アレフィ、挨拶をしないか」


 アレフィに挨拶を促すが、反応が無い。気のせいか、プルプルと震えてるような気がする。


「あらあら、お嬢ちゃん。おイタはダメですよ~。メッ!」


 なんか、ジャンヌさんの『メッ』が『っ』に聞こえたような気がするのは気のせいか?

 ジャンヌさんの『っ』に呼応するかのように、アレフィの身体が元の龍の物へと戻っていく。村人たちから『おぉっ!』っという声が上がる。これで誤解が少しでも解ければいいが。幼女バージョンであれば背中に回せた手も、本来の四足に戻れば体形の関係上維持できず、俺っちも拘束を解かれる感じで自由になった。


「あらあら、おかしいわねぇ」


 えぇ、貴女の言葉で人化が解けるとか、おかしいと思います。いったい何をしたんですか?


「何でも屋さん。この子、まだ生まれてそんなに経ってないんじゃないかしら?」

「えぇ、本人に聞いたところ、生後二か月とかなんとか言ってましたね」

「本人に聞いたの? おかしいわねぇ」

「えぇ、なにか良くは判らないのですが、人語を話せるみたいですね」


 そのおかしいといわれたアレフィを見てみるも、怯えているのか相変わらずプルプルと小刻みに震えている。お前の目の前にいるのは、『災厄の暴龍』とまで呼ばれ、魔大陸を恐怖のどん底に落とし込んだ生ける伝説だからな。同じ龍種なら何か感じるものがあるんだろうな。ま、俺っちには良く分からないけども。


「たった二か月でこの大きさになって、人の言葉が話せて、人化の術まで使えるなんて・・・・・・」


 このまま考え込ませても無意味なので、アレフィに出会った経緯をジャンヌさんに説明する。


「そんなことがあったのねぇ。たいへんだったのねぇ。イイコイイコ」


 そういいながら俺っちの頭をナデナデしてくれた。ってか、頭を撫でられて喜ぶような年じゃないんだが。

 ま、まぁ、確かに。見た目は美人だし、スタイルも超好みだし。だけど、う、嬉しくはないんですよ! 頭を撫でられてもっ!


「でも、ティターニアねぇ」

「そうなんです。ティターニアなんです」


 そう、アレフィの無駄に長い名前に出ていた『ティターニア』という名前。俺っちとジャンヌさんは、たぶんだけど、同一の存在を頭に思い描いているはずだ。



 『傾国の魔女ティターニア』と呼ばれた存在を。




「そういえば、最近は噂を聞かなかったわねぇ」

「ここ2,30年くらい噂を聞きませんでしたよねぇ」


 間違いなく同じやつのことを話してると思う。


「産卵準備にはいってたのかしら?」

「龍種の妊娠期間は判らないのですが、それくらいはかかるモノなんですか?」

「そうねぇ。個龍差はあるとおもうけど、大体それくらいかしらね」

「んじゃ、あの岩場で潰れてたのがティターニアなんでしょうかね?」

「話を聞く限りそうじゃないかしら?」

「「でも」」


 あ、かぶった。たぶん同じことを考えてると思う。


「最強最悪と呼ばれた、應龍おうりゅうティターニアが」

「そうそう死んじゃうとは思わないわよねぇ」


 そう、『應龍おうりゅうティターニア』人化した龍種族と言う噂で、長きに渡り人族の国を渡り歩き、7つの国を戦争に巻き込み滅ぼしたという傾国の魔女。人族の討伐隊を幾度となく退け、最凶と呼ばれた存在。

 それが、がけ崩れに巻き込まれて岩に押しつぶされて死んだとか、誰が信じるんだって話だわな。

 でも、しょせんはか弱い人族の国での話。

 目の前のジャンヌさんの方が格上なんだろうな。アレフィの怯えっぷりを見る限りは。


「後でそのがけ崩れの場所を教えてくれないかしら? こっちでも調べてみるわ」

「お安い御用です。残念ですが私には動かせそうにない巨岩でしたから」

「そうね。あたしならなんとかできるわね」


 しかし、そうなると・・・・・・そこでプルプルと震えてるのが、應龍ティターニアの娘と言う事になるのか?


「んじゃ、アイツはどうしましょうか?」

「アレフィちゃんねぇ。ん~、大丈夫じゃないかしら。特におかしいところとかはないんでしょ?」

「そうですねぇ、基本的には従順ですし。基本的には」

「基本的には?」


 俺っちは、村についてからのアレフィの行動を、すべてバラシてやった。

 そうすると、アレフィのプルプルとしてるのが、ガクガクブルブルくらいに大きくなった。


「あら~。そうなのね。こんなナリでも、傾国の血を引いてるのかしらねぇ」


 あぁ、そういうことか。やり方は杜撰だが、確かに誰かを陥れるには効果的だよな。あの手法。


「まぁいいわ。その件の方もあたしで調べておきます」

「ありがとうございます! ジャンヌさん!」


 俺っちは、最敬礼で礼を言う。 やっぱりこの人は頼りになるお方だぜ。


「ほらほら。みんな散って散って」


 ジャンヌさんは、手をパンパンと打ち鳴らしながら村の人を仕事へと戻してくれた。

 この場に残るのは、ブルブルと震えるアレフィと、マヨの禁断症状に震える俺っちが残された。

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