第10話 緊急事態
俺っちは急いでいた。
「アレフィ急げ! このままじゃ間に合わなくなる!」
俺っちは焦っていた。
「マズい。マズいぞ・・・・・・」
こんな窮地は、今まで生きてきた中で訪れたことはない。
「早く、もっと早く! お前の最速を見せてみろ!」
一刻でも早く村に戻らなければ・・・・・・。
「もぉ~、どうしたのさ~。今まではそんなに速く走るなって言っておいてさ~」
切れてしまう・・・・・・切れてしまうのだ!
このままでは禁断症状が!
「早く、早くしないと間に合わなくなる・・・・・・」
駄目だ・・・・・・震えがしてきやがった。クッ! 一刻も早くあれをクチにしなければ!
「マスター大丈夫? なんかハァハァしてるけど」
このままじゃ、耐えられそうにない。
「足らねぇんだよ! わかるかなぁ? わっかんねぇだろうなぁっ!?」
「なにがさ! さっきから、訳が分からないよ」
偉大なる神と呼ぶにふさわしき存在。あああれを、くくくくちにしなければばばばば!
「まままままよ・・・・・・」
「まままままよ?」
そう、その偉大なる御方の名前は・・・・・・。
「マヨネーズだよ! マヨネーズ成分が足らねぇんだよっ!! あぁぁぁぁああああぁっ!」
「まよね~ずだよ? ナニそれ美味しいの?」
輸送任務を承り今日で7日目。準備したマヨネーズは任務中にすべて食べきった。
直ぐに帰宅する予定だったから余分は持ってなかったんだよなぁ・・・・・・失敗したぜ。
あぁ、もう限界だ! これ以上耐えられねぇっ!
「あぁぁぁああ、その卵黄の濃厚な風味にビネッガの刺激が鼻に抜け、まったりとした油分で全体を整える! 肉にかけても良し! パスタに絡めても良し! そのまま飲んでも良し! あぁっ、ああぁっ、あああああっ! 」
「・・・・・・マスター、なんだか怖いよ?」
ってんめぇ! なんだその醒めた態度は! マヨネーズ神のバチが当たるぞっ!
「マヨネーズは神! そしてそれを持ち込んだヨーコさんは女神! アレフィ! ここ大事な。覚えておけよっ!」
「う、うん。なんだか良く分からないけど分かったよ」
ダメだ。もう耐えられねぇ! あの時の木の薄皮も、マヨネーズ神があれば美味しく食べられたのにっ! そして、普通に美味しい肉も、マヨネーズ神があればさらに美味しくなったのにっ!
どうしてかの神は長持ちしないんだ! 作りたてのマヨネーズはまさに神! ビネッガと油を多めにすれば日持ちはする。しかしそれだと風味が犠牲に! 風味を追求すれば今度は保存が利かねぇ。クソッ! どうして物は腐敗しやがるんだ! 腐らないなら樽で持ち運ぶものを! 腐敗をつかさどる神が居るならば、神殺しの名もあえて受け入れようぞ!
「マヨマヨマヨマヨマヨ・・・・・・」
「うひぃ、マスターが怖いよぅ・・・・・・」
ふはははははは、村に帰ったらば、マヨネーズのフルコースで洗脳してやるぞ。ありがたく思うんだなっ!
俺っちが禁断症状に震えていると、急がせた甲斐があったのか、周囲の景色がようやく見慣れたモノになってきた。
よっしゃぁ! 愛しい愛しいマヨネーズちゃぁ~ん、すぐに食べてあげるからねぇ~ん。
「よし、アレフィ。あそこが目的の村だ。良いぞ、止まってくれ」
そのまま乗り込んでマヨネーズ神とご対面したいところだが、アレフィは人種からみたら巨大な龍種族。このまま乗り込んで子供らをプチったらやべぇ。
俺っちは静止を命じたはずだがアレフィは止まらずにそのまま走り続けた。
「ちょちょちょ! おまっ! 止まれっつってんだろ?」
アレフィは止まらず、村の周囲を囲む塀を飛び越え村に侵入をする。
「きゃおぉぉぉぉぉぉ~~~~~んっ」
村の中央広場についた辺りで、アレフィは可愛らしくも大きな声で叫んだ。
叫ぶと同時に、アレフィの身体が縮み始める。
「え? ナニコレ。なんで縮むのん?」
俺っちの疑問をよそに、アレフィの身体は縮み続け、1頭の龍は1人の幼女に変貌をとげた。
「え? 人化の術だと! コイツ、生後2か月って話じゃなかったっけか?」
俺っちの疑問も当然のことである。龍種の人化の術は、成長した龍種だけが持つ特殊技能だからだ。ちなみに先々代の魔王の奥さんであるジャンヌさんも、とある龍種が人化した姿だったりもする。
「おま! アレフィ、人化できたの? お前さん」
「うん。なんかできる気がしたんだよねぇ~」
出来る気がしたからと言って、主人である俺っちに何も相談せずに実行するとか、こいつには主従の関係がどういうモノかを説明しないといけないな。まさか、つがいだから対等な関係とか考えてるのかね? いや、まさかなぁ。
アレフィが叫んだ影響か、それとも龍種が村に飛び込んだのを目撃したのか、村の広場に向かう人々の気配が増えてきた。
そして、俺はその時初めて気が付いたのだ。
アレフィが素っ裸だということに!
「良いからおろせ! あ、おま、なんで俺っちの足を抱え込んでるんだ?」
やばい。このままではやばい!
「ちょ! おま、おろせ! はやく!」
俺っちはこう見えてもかなり鍛えこんでてガッシリとした見た目だ。いわゆる、細マッチョと言った体型だ。
背負い鞄もあるし、軽量化されてるとはいえ鎧も着込んでるし、刀も槍も持っている。つまりは完全武装だ。
完全武装したガッシリ体型の男が、裸の幼女の背中に乗っている。
どこから見ても事案発生じゃねぇかぁぁぁぁぁっ!!
「おろせ~~~っ! 何でもいいからおろしやがれ~~っ!」
慌てる俺っちに対しアレフィのやつは。
「ちょっ! ごしゅじんさまぁ~。あばれるとあぶないですよぉ~」
おまっ! さっきまで『マスター』って呼んでたじゃねぇか! しかもなんだその甘えたような声はっ!
「ごしゅじんさまはぁ~、ボクのごしゅじんさまなんだからぁ~、おせなかにのせるのはとうぜんですよぉ~」
ちょっ! 人が見てる人がぁっ! 自力でおり・・・・・・・られねぇ! がぁぁぁぁ! コイツ、力が強ぇ~~~。見た目が幼女でも龍種ってことか!?
「いままでもぉ~、ボクのぉ~、せなかにぃ~、ずっとのってたじゃないですかぁ~」
ぎゃぁぁぁぁぁぁっ! ヤメロッ! 今まで苦労して築き上げたイメージが。クールで仕事のできるイメージがぁぁぁぁっ! 村の人の視線が痛いっ! 視線が痛いとはこういうことかぁ!
「だからぁ~、これからもぉ~、のせるからぁ~、だいじょうぶですよぉ~」
これはあれか? 今までさんざんに馬鹿にしたことへのこいつなりの復讐か!?
悪かった。俺が悪かったからぁ~!
俺っちはひとり、アレフィの上で羞恥に悶絶するのであった。
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