第6話 成長

「ハッ! ここは・・・・・・あ、そうか。そうだったよな」

 

どれくらい寝ていただろうか、なぜか頭が痛い。この痛みは何なんだろうか? まるで、後頭部をこん棒で殴られて昏倒した後かのように頭が痛い。

 岩の隙間から光が漏れている。空気の質からすると夜明け、そしてこの光は日の出なのだろう。眩しさを感じ目を開けると、そこは岩場のようなところだった。

 記憶を思い起こして、ようやく自分の状況を把握する。


「あ、そうだ! あの食いしん坊は?」


 幼生体が寝てたと思われる場所には、くすんだ銀色っぽい、何か鉱物を思わせるような大きな物体が横たわっていた。よく見ると、規則正しく膨らんだり萎んだりしている。

 少し離れて全体像を見てみると、頭から尾の先端までの全長が10メルトは有ろうかと言う龍種族が横たわって、健やかな眠りについていた。


「あ、あ、あるぅぇ~~? こ、こんな大きさだったかなぁ~ん?」


 思わず自分の記憶を疑うが、間違いなく昨日まではせいぜい3~4メルト程だったはずである。


「も、もしや、数日から数週間もの間、意識を失ってたとか!?」


 にしては、それほどの飢餓感はない。通常では考えられないほどには空腹には違いなかったが。んでも、なんでこんなに空腹なんだ? 俺っち、昨晩食ったよな? あるぅぇ~? 食った記憶はあるんだがなぁ。


 頭をひねりつつしばらく呆然と眺めていると、その龍種族も目覚めたのか寝返りを打ちつつ周囲の岩を粉砕していた。っつぅか、寝返りだけでそれかよ! 凶悪な存在だな。


「あ、マスター、おはよう!」


 妙に甲高い、それでいて可愛らしい声が挨拶をしてきた。

 だが、周囲には誰もいない。


「ここだよ、ここここ。ボクだよ」


 声は龍種族から聞こえてくるような錯覚がある。うん、錯覚だな。頭も痛いし空腹だし、幻聴の類かもしれない。


「ははははは、どこに隠れてるんだぃ? ここかな? いや、ここだろう?」


 俺っちは周囲の茂みを漁ったり、目の前の石を持ち上げて確認してみるが何もいない。


「もぅ! ボクだってばっ!」


 苛立ったのか、尾をバシンバシンと地面に打ち付けていた。

 ちょ! 岩の破片が飛んできてあぶなっ! っつぅか、痛ぇっ! 判った、判ったから!

 手でやめるように訴えたら、尻尾を地面に叩きつけるのは止めてくれた。


「あぁ、お前か・・・・・・すこし目を離した隙に膨らんだなぁ・・・・・・あぁ、そうだ。幻術か何かだろ?」


 つい、現実逃避してしまったが、それは致し方ない事ではなかろうか?

 やはり信じられん。2日ほど前、発見した時には2メルト位が、今や10メルト近いんだぜ? 生物としても明らかにありえん。


「もぅっ! マスターのおかげで成長したんだってば!」


 ん? なんだ? 俺っちのおかげ?


「なんで俺っちのおかげかは知らんが。まぁ、それはおいといてだ。そのマスターとかって何だ?」


 一応、聞いてみる。


「え?『血の盟約』を結んだでしょ? マスターが嫌なら・・・・・・ご主人様、のが良~い?」


 いやいやいや、んな可愛らしい声で、んな呼ばれかたしたら悶死するわぃ! ってか、周囲の目に耐えられんわ! たとえ見た目がコレでも、モテない奴らから呪われるわっ!


「あ~、あれだ。どちらかってぇ~とマスターで良い。ってか、マスターが良い。それと、『血の盟約』ってなんだ?」


 んな知識は俺っちの知識と記憶にゃぁねえぞ。


「あれれ? 知ってて血を与えてくれたんじゃないの? ボク達みたいな『龍種族』は命を懸けて血肉を分け与えてくれた者を『盟約者』として共に生涯を歩む存在として登録するんだよ?」


 なんかいきなり話が大きくなったな。


「生涯?」

「うん。生涯」

「具体的には?」

「どちらかの肉体が朽ちるまで、つがいとして共に歩むんだよ?」


 まて、つがい・・・・・・だと? え? つがい? つがいつがいつがい・・・・・・? つがいって、あのつがい? まさか、夫婦って事? え? こいつメスなの? オスってことはないよな? いや、世の中、色んな趣味のやつがいるからなぁ。


「ちょ、お前、ちょとまて。歳は幾つだ? あと、メスなのか?」


 気が付いたら無駄に膨らんでたが、どう考えてもコイツ、子供だろうに。


「もうっ! 見たらわかるでしょ? どこから見ても女の子じゃない! それに女の子に向かってメスとかって酷いんじゃない?」


 分からんから聞いたのだが。そうか、メスかぁ。


「あ、それと、ボクはお前って名前じゃないよ。ボクには『アレフィアット・リュシエール・フューリュー・スレイ・ティターニァ・グレイランド』って名前があるんだよ?」

「え? ながっ! もう一度・・・・・・」

「もう!『アレフィアット・リュシエール・フューリュー・スレイ・ティターニァ・グレイランド』だってばっ!」


 なんだよその無駄に長い名前は! 早口言葉かよ!

 はぁ、適当に言ってたわけじゃないのね。しっかし、長い名前だ。どこの王族だよ。

 え~と、アレフィエット、リュシュ、フース、ティターヌア、グレランドだっけ? がぁっ! んなもん覚えきれるかぁっ!

 んでも、どっかで聞いたことがあるんだよなぁ。ティターヌア、いやティターニアか。んん? ティターニア? 龍でティターニア? え? あのティターニアか!? いやいや、まさかなぁ。  


「まぁ、アレだ。長いから『アレフィ』で良いかな?」

 

 正直な話、よく覚えてないしな。

 

「ん~~~~~・・・・・・まぁ良いか。マスターだけだからね、そんな略称で呼ばせるのは! 本来ならフルネームで呼び合うのがボクの一族の流儀なんだからね!」


 え? 毎回フルネームで呼び合うのん? 面倒な一族だな。

 そういや肝心なことを話してないな。


「んで、アレフィの歳はいくつなんだ?」

「ん~生まれて2ヵ月くらい?」


 赤ん坊かよっ!


「ちょっ! 俺っちてば、456歳なんだがっ!」


 何、この歳の差夫婦・・・・・・ってか、そんな問題じゃねぇっ!!


「へぇ~とっても年上なんだね。良いよ、ボクは気にしないから」


 こっちが気にするんだ! こっちが!! んな年の子供を妻にとか、完全に幼女愛好家とか思われるじゃん! ノーマルなのに! 俺っちは、ボンキュッボンが好きなの!


「っつ~か、生まれて2ヵ月なのに、なんでそんなに育ったんだ?」


 それが知りたい。そんな種族は聞いたことがない。


「え? マスターの血のせいじゃないの? すっごい濃縮魔力で、アレはとっても美味しかったなぁ・・・・・・」

 

 濃縮魔力ってなんだよ、濃縮魔力って! 濃縮果汁みたいなものか? 

 少し視線を外したところで、ボタボタボタボタと音が聞こえてくる。そういや、前にもあったな。ナニこのデジャヴ?

 アレフィがこっちを見る目が潤んでるように見え、その口からは滝のようなよだれが・・・・・・。


「ちょ! やめやめやめやめ~ぃ! その妄想禁止!」


 俺っちは両手を交差し、大きく振りつつ禁止令を出す。マルカジリ、ダメゼッタイ!


「え~~~~~っ! ぶ~! ぶ~! ぶ~! 」

「アホかっ! そんな図体の奴に与えたら、俺っちが干からびちゃうわ!」


 俺っちの血か・・・・・・しかし、濃縮? 何なんだかな。変な成分とか入ってるのかね? 魔力が血に溶け込んでるとか? 疲労時に自分の血を飲めば回復したりは・・・・・・まぁ、無いよな、自分の血なんだし。


「まぁ、あれだ、俺っちの血の事はど~でも良い。んで、これからアレフィはどうするんだ? このまま森で暮らすのか?」

「え? マスターに付いて行くにきまってるじゃない?」

「ちょ! そんな大きな身体は俺っちの家には入らんぞ?」


 っつ~か、村とかでも邪魔になるだろ? あんまり大きくない村だし。


「あ、大丈夫。そのあたりは何とかなるから」


 あ、なるほど、村へは入らずに付近で待機とかするんだな。あ~見えて龍種だし、雨に打たれるくらいなんでもないだろうしな。


「あ、何とかなるのか。じゃ、良いか」

「うん、良いと思うよ」

 

 良いことは何一つとてないが、とりあえずは話は纏まった。助けた以上は、後は知らんっつ~訳にもいかんよなぁ。ま、つがい云々は後々考えればいいか。

 あ”~~~~っ! 斜め上のトラブルとか、誰が予想できるんだっ! てぇ話だよな。

 村に連れて帰るのは納得はしないが、まぁ良い。でも、アレフィの歳は隠し通さないとな。今まで村で構築してきた俺っちへの信用と信頼がヤバい。


「じゃ、行くか。はぁ~、予定外に時間をとっちまったなぁ。仕事があふれてなきゃいいんだが」


 まぁ、不測の事態ってのは、予測できないから不測って言うんだしな。


「うん、マスターごめんね・・・・・・ボクの為に時間を使わせて・・・・・・」


 状況的に、上目使いで申し訳なさそうにしてる・・・・・・んだと思うが、完全に上から目線でねめつける様に睨んでるとしか感じないからね? その高さからだと!


「まぁ、良い。帰ろう」


 俺っちは荷物を手早く纏め・・・・・・纏め・・・・・・あれ? おかしいぞ? あんるぅぇ~? 何やら分からないが、毛布が血塗れになっていた。

 血塗れになる要素は何もなかったはずだと、『おっかしぃなぁ』と首を捻っていると、アレフィが申し訳なさそうに言った。


「あ、ごめん。口に付いた血が不快だったからそれで拭いちゃった。マスターの血なら大歓迎だけど、アレの血は臭みがあったから・・・・・・」


 そう言いつつ、毛皮を残して完食された、野生種の残骸の方を見る。


「お前、アレ、完食してるじゃん!? 臭みがあるのに完食したのか!? えぇ! おいっ!」


 俺っちの言葉に、アレフィはあさっての方を向き聞こえないふりをしていた。


「チッ! まぁいい、帰るとするか」

 

 ふぅ、こいつの相手をするのは疲れる・・・・・・色々と。

 

「あ、ボクの背に乗って良いよ。ボクの本気、見せてあげるから!」


 え? 乗せてくれるの?


「ってか、お前、生後2ヵ月だろ? 大丈夫なのか?」


 図体だけはでかいが、中身は子供だろ? いや、マジに。


「心は子供でも身体は大人! 大丈夫だから任せてよねっ!」 


 それ、色々とマズいだろ? 見た目は問題なくとも、幼女の背中に乗るとか、マジないわ~。

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