第4話 保護者(仮)
翌朝、まだ日が昇る前にいつもの習慣で目が覚めた。本来ならば日々の修練を行うところなのだが・・・・・・今日は動けそうにない。一応心配になったので呼吸を確かめようとしたのだが・・・・・・目の錯覚だろうか? 昨晩よりも大きくなってるような?
昨晩までは『プギィ』位の大きさだったのだが、今見ると『モーモゥ』位の大きさになっている。龍種族にも色々な種族がいるが、こんなに成長の早い種族は聞いたことがない。
昨晩の雨の影響か、今朝は妙に冷え込むので残り火に薪を足して火勢を強める。濡れた薪は焚火の近くに立てかけておいたので大半が乾いている。そのおかげか火付も良い。
俺っちの片腕はまだくわえ込まれているので、行動が大幅に制限されるのが辛いところだ。
そのまま暫く、焚火のパチパチと木の爆ぜる音を聞きつつ過ごす。
あ~、こいつが食うと思ってたから干し肉を大量にスープにしちまったが、残しておけばよかったぜぇ。腹減ったなぁ。
日も昇り、周囲が明るくなってきたころに、ようやく幼生体が身じろぎを始めた。
このままでは俺っちも動けないので、声をかける事にする。
「よぉ、目覚めたか? なんとか峠は越したようだな。ま、生きてるなら大丈夫だろ」
幼生体のつぶらな瞳と目が合い、なにかこう、照れくさいような感情が心を支配しようとしたとき、ガリッと言う音と共に、手に激痛が走った。
「おぎょぽっ! あばばばばばばばっ!」
思わず変な悲鳴が喉から迸り、痛みのあまり思い切り口から手を引き抜くと、ギザギザの歯形がクッキリと残り、肉が歯形の沿って引き千切られたかの様になっていた。
「お、おおおおおお前ぇ、何しやがる!?」
恩を仇で返すとかこの子とか!? いや、ちゃうちゃう、この事か!
俺っちの回復力はすさまじく、少し経つと流血がおさまってくる。傷の直りは早いが、痛いもんは痛いんだ!
幼生体は周囲を見回すと
「ま・・・・・ま・・・・・・?」
と、声を発した。
コイツ、喋るぞ?
ふむふむ、言葉を発声可能な龍種族・・・・・・脳内記憶に検索をかけると、人語を解する龍種族は4種、そのどれかまでかは分からない。
人語が解るなら意思疎通は可能かな? まぁ、一応ダメもとでやってみっか。
「あ~その、なんだ。お前さんのママと思しき方は・・・・・・・そこで岩の下敷きに・・・・・・」
目線を送ると幼生体もそちらを見て・・・・・・暫く眺めていたが、ようやく昨晩の記憶にたどり着いたのか、大粒の涙をこぼし始めた。
「ま・・・・・・ま。ま、ま・・・・・・ママッ!」
うぬぅ、相手は異種族とはいえ、このような場面はいつまでも経ってもやりきれんなぁ。
「まぁ、アレだ。あの状況でお前だけでも助かってよかった。慰めにゃならんだろうけどな」
幼生体は大粒の涙をこぼしつつもこちらを見つめた。
「ぱ・・・・・・ぱ・・・・・・?」
ん? 今何と言った?
「ぱ、ぱ?・・・・・・パパッ!?」
げぇっ! パパ!? ちょちょちょちょっ、ちょっと待て!
あるぇ~? なんでそう言う事に?
「い、いや、違うぞ! 俺っちはただの通りがかりだ。まだ独身だ! 子供は居ねぇよっ」
否定はするも、幼生体は首を傾げつつ更に続けた。
「パパ・・・・・・チガう? デも、いいニオいがスる。・・・・・・オいしいニオい?」
まだ片言だが、急速に言語野が発達していってるようだ。学習能力が極めて高く、人語を解する龍種族・・・・・・か、神龍族、暗黒龍族、闇龍族、これで3つにまで候補が絞られた。しかし、神龍はまだ良いが、あとの二つがやべぇ。どうすんだこの状況? トラブルの匂いしかしねぇよ! 龍の幼生体は、体色での判別がきかねぇらしいしなぁ。マジでどうすりゃ良いんだコレ?
「昨晩を覚えていないか? 美味しい匂いがするってねぇのは、俺っちが血を分け与えたからだろう。まぁ、緊急時だったからな」
幼生体の母親らしき存在に目を向けながらそう答えたが、何やらボタボタボタボタッて音がしはじめた。音の方向へ目をやると、潤んだ瞳で俺っちを見つめる幼生体の口から、滝のような勢いで流れ落ちる大量のよだれが!?
「ちょっ! ちょちょちょちょっと落ち着け! 分けてやりたいのはやまやまだが、まだ体力が回復していない。今与えたらこっちがくたばるわ!」
や、ヤバい! 俺っちの命の危険が危ない!
幼生体は大量のよだれを垂らしつつも、まだ本調子ではないのか、その場から動かない。
「ちょ、ちょっと待ってろ! なにか食うモノを獲ってくる。良いかその場から動くなよ? フリじゃないからな? 良いな動くなよ!? 絶対だからな!!」
俺っちは、狭い寝床で固まって動きにくい身体を無理やり動かし、立て掛けていた刀を引っ掴んでその場から逃げ・・・・・・転進を開始した。
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