13.
「一人じゃできなくても、みんなと力を合わせれば大丈夫! 今こそ
「みん、なと……力を……?」
「そうだよっ、みんなの想いがひとつになるんだよ!」
かすれる声を漏らす
*
「
「うん……だけど……、私一人だけじゃ、何もできなかった……」
「だから、私たちが応援に加わったんだよね?」
「うん。それで
「そうそう!」
「そう……私はずっと、梨々ちゃんのために……」
「そうだね! だからもっともっと頑張ろう、ねっ、三埜奈ちゃん!」
屈託なく笑って、また烏目さんはタブレットをタップする。
その動作に合わせるように、須奧さんが「かはっ」と咳き込む。と、何故か周囲のどよめきが大きくなった。
壁の機械がぎゅりぎゅりと不穏な作動音を掻き鳴らす。
*
「うおっ、こりゃヤバめな感じだな」
「なんて禍々しい気の濁流……」
二人とも腕で顔を覆い、強風にでも耐えるかのように姿勢を低くする。
教室後方に固まるクラスメイトたちも同様に身を伏せていた。
……そうまでされると、何やら須奧さんを中心に風のような渦のような流れが巻き起こっているように――思えてこないこともない。が、実体として何も見えないことに変わりはなかった。
見える見えないは問題ではない。
見えるもの見えないものは主観によって異なる。
他者が感じる物事と、僕が感じる物事はいつでも違っている。
見えないモノは見えない――だけれども。
*
「須奧と
布津は僕の背のやや後ろ側に立って、言鳥に問いかける。
僕を何かしらからの楯に据える立ち位置のように思うのは考えすぎか。
「憑霊体質が強制的に発露させられて、ほとんど霊と一体化していますね。おまけに複数の心霊スポットのイメージが重なって――この部屋の催眠波も、あの人たちをエネルギー源としているようです。いえ、むしろ部屋全体との相乗的な効果なのか……。どちらにしろ、今の私の体力じゃ近くまで寄ることも……」
言鳥は悔しげに唇を噛み締める。
震える手は刀と僕の腕を握っていた。
*
僕の隣で妹が困っている。
僕の
率直に言って、クラスメイトに何を言われようと僕の知ったことではない。
しかし。
それに関して妹が苦痛を覚えているというのであれば――、話は別だ。
*
「ねえ、言鳥――」
「……なに」
言鳥は不機嫌に僕を睨む。冷たく鋭利な視線が僕に突き刺さる。
しかし、半ば僕に縋りつく体勢を崩してはいないので、言鳥には悪いが、あらゆる挙動が可愛らしいふうにしか思えなかった。
「少し訊きたいのだけどさ」
「今、私、兄さんとお話している場合じゃないのだけど」
「この混乱した状況ってさ、やっぱり怪異とか、霊的な存在が原因なのかな」
「何を見れば一目で分かることを……っ! ――って、兄さんは見ても分からないんだっけ」
「いやまあ。僕には分かり得ない世界のことなのだろうとは薄々感じているよ」
「ふ、ふうん。兄さんにしては、めずらしく物分かりがいいんじゃない?」
言鳥の態度は相変わらず辛辣だった。
それもまた兄の僕にとっては見慣れた光景だ。
「そこまで分かっているのだったら兄さんは下がっていて! 私がこれから何とかしてみせるんだから!」
「何とかって?」
「そ、それは……」
言鳥は口ごもる。
少し意地の悪い質問だったろうか――と寸暇後悔の念に駆られたが、相手の反応を先読みして言葉を選べるくらいであれば、僕は鈍感とは呼ばれていないだろう。
*
「今更なんだけどさ、僕は言鳥の話をもっとよく聞いておくべきだったのかなと思ったんだ」
「本当に今更ね……。だいたい兄さんはいつも私の言うことなんか、ちっとも聞いてくれやしないじゃない」
「うん。それはごめん」
「べ、別に謝らなくてもいいのだけど……」
僕が信じるのは、妹が視えると言うものだけだ。
幽霊がいる――と妹が言うのなら、僕はその言に従おう。
他の誰の証言も声援も関係はない。
それがたとえ、近しい同級生の声であっても、あるいはあの世からの呼び声であったとしても……。
*
「言鳥が対処しようとしているのはさ、須奧さんを中心に起こっていることっていう理解でいいのかな」
「……だったら何だっていうのよ」
「うん。このクラスで須奧さんの相談を受けたのは僕だからね。もしかして僕がどこかで何か下手を打ったのかなって……」
僕の不始末に妹を巻き込んでしまったとすれば、それは僕の兄としての失態だ。
だが――、
恐らく、問題の本質はそこにはない。
「なっ――、そんなワケないでしょっ。兄さんのくせに思いあがらないで」
「うん。ごめん」
「あっ。えと、今のはそのだから、そういう意味じゃなくて……っ」
「……うん、大丈夫。分かっているよ」
「ううぅ、何が分かってるっていうのよ……」
分かっている。
言鳥が僕を守ろうとしてくれていることは、痛いほどに分かっている。
――だからこそだ。
今回、僕が依頼されたのは須奧さんというクラスメイトからの相談だった。
須奧さんは言った。
自分は幽霊であり、また、そうではない。そして、友達の女の子が同じクラスの男の子に伝えたいことがあるのだけど、どうしても伝えられなくて困っている――と。
須奧さんは心霊関係の悩みを抱えているという前提で、僕のもとへと訪れた。
しかし、彼女の話は聞けば聞くほどに不可解で曖昧模糊とした内容であった。
*
何が真実なのかは分からない。教室でない部屋が教室であるかのように擬態されていたこの空間では、何のどこからどこまでが真個の事実であるのかも不明瞭になる。
ここ数日は、僕らしくもなく迷妄の道に足を取られてしまった。
だけども――、何が起きようとも僕が信じる真理はひとつだけだ。
「言鳥が必死に僕を怪異関係の事柄から遠ざけようとしてくれていることは、何となく分かってはいたよ」
「……これだけのことがあって、ようやく〝何となく〟っていう時点で鈍すぎるのよ、兄さんは」
「うん……。それだって、言鳥がいろいろ立ち回ってくれているから気づけたことだよ。感謝してる」
「そ、そんな、別に私は、兄さんのためになんか……」
「でも――それでも、言鳥に何が見えているのかは僕には分からない」
「そんなの――当然でしょ」
「だから、教えてくれないかな」
「何をよ」
「言鳥には見えているのだろう、須奧さんと一緒にいる――〝何か〟が」
*
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