5.
「時間も限られていることですし、本題に参りましょう」
そう言い置くと、
「
須奧さんの相談から腑分けできる要素。
幽霊、恋愛、宇宙――。
この三つが際立ったキーワードだと、僕は考えた。
*
「折角ですから、ええ、その暮樫さんの論点整理に沿ってお話ししましょうか」
針見先輩がふんわりと語りかける。それはあたかもこれからお茶会でも始めようかというような――そんな気さくな物腰であった。
しかし、対する僕はどうしようもない煮え切らなさを抱えていた。
「えっと――……」
「……どうかしましたか?」
「僕が言うのも何ですけど……それでよいのかと思ってしまいまして」
「あら。と、言いますと?」
「それは――」
*
事ここに至って、僕には迷いがあった。
いざ問題に進捗が見えそうな段階に及んで、
抽出した三つのキーワードのうち、【幽霊】というのはあくまで「私、幽霊なんです」という須奧さんのたったひと言にしか拠らない(しかも直後に発言した本人が否定している)。
【恋愛】も、聞いた限りでは須奧さんの話の内容が、怪異相談というよりも恋愛相談に近いのではないか――と、僕が便宜的かつ一方的に仮定しただけのものだ。こちらは須奧さんが直接に証言したことですらない。
また、【宇宙】についても……彼女の相談の中でとくに強く印象的だった言葉という以上の理由は、今のところない。
*
すべては憶測に過ぎなかった。
僕は怪談分野の知識には多少詳しいという自負はあっても、決して推理能力に長じているわけではない。人の悩み相談に満足に応えられるとは到底思えない。
薄弱な論拠で他人の内情へ踏み込んでしまってよいものか――。
自分が為そうとしていることへ、不安が拭えなかったのである。
*
「……優しいのですね、暮樫さんは」
針見先輩は言った。
「そんなことは……ないです」
僕は他人に関心がない。
それは誰より僕自身が自覚するところだ。
僕が大事なのは妹だけだ。
妹以外の人間に向ける興味など、僕は長く持ち合わせてこなかった。
「いえ、さすがは私が見込んだ人材です」
「人材……?」
「あまりご自分を卑下なさることはないという意味ですよ」
先輩の声音は柔らかい。
「ええ、それにですね。そうまで思っていてもなお、相談を受けたからにはと解決に挑もうとする、ええ、ご自身の可能な範囲で解決に挑もうとする――その姿勢を、私は評価したいですね」
*
……なんだかクラスメイトからの相談内容に頭を悩ませていたのが、いつのまにか僕が針見先輩からカウンセリングを受けているような状況になっていた。どうもこの人と話していると、毎度立場がすげ替えられる傾向にある。
先輩が特別に話巧みなのか、僕が特別に話下手なのか。
もしくはその両方か。
その判断は今は保留させていただくが、少なくとも今回の件で針見先輩を頼ったことは正解であったのだと思いたい。
*
そんなことをぐるぐると考えて僕が何も言い出せずにいるうちに針見先輩は何かを思いついたらしく、しばらく寄せていた眉根をすんと緩ませた。
「しかしそうですね……では、少し補助線を引いてみましょう」
補助線?
頭上に疑問符を浮かべる僕の前で、先輩は次の言葉を切り出す。
「暮樫さんは千里眼事件――というのをご存知でしょうか」
*
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