8.



 かくして。

 写真撮影は無事終了し、みなが自席に戻る。


 途中で教室に入ってきた担任の戸國とくに先生までもが撮影に協力的であったのはどういうことかと思ったが……、まあ、洞ノ木どうのき君のあの性格と気迫を以てすれば、教師一人説得するなど容易たやすいことなのだろう。



                  *



「うむ。よく写っているな!」


 ホームルーム後、洞ノ木君から写真を受け取る。

 見た通り、あれはインスタントタイプのカメラだったようだ。


 写真の中では黒板前に集まったクラスメイトたちが笑っている。

 それぞれが画面に収まるように屈んだり背伸びをしたり、またくっつき合うようにして並んでカメラを見ていた。

 あの短時間によく無理なく撮れたものと感心する。

 我がクラスの結束力は存外に高いのかもしれない。


 そして問題の幽霊――須奧すおう三埜奈みのなの姿もまた、異状なくそこにあった。



                  *



「それでどうだった暮樫くれがし、須奧が写っているのは見えているか?」と、洞ノ木君。

「どうなのよどうなのよ?」と、烏目からすめさん。


 この二人のノリにはいまいちついていけない。


「あ、うん。ちゃんと写っているね」


 クラスメイトが集まる前列中央で、僕と須奧さんは隣り合って写っていた。

 まるで僕たち二人をその他のクラスメイト全員が囲んでいるかのようだ。



                  *



「あれ。でもここ、須奧さんの横、なんか空いているね」


 写真の誰もがおおよそ狭苦しく身を寄せ合っているところ、須奧さんとその次の生徒との間だけがちょうど一人分ほどスペースがあった。


「ああ、これは……偶然に空きが出来てしまったのだな。たまにあることさ」


 洞ノ木君は事もなげに言った。

 そんなものだろうか。


 しかしやはり気になってしまうのは――背景の大部分を占める

 僕の机の前で写真を眺める二人は、そこを少しも指摘する気配もない。



                  *



「あ、あのさ……ちょっと、いいかな?」


 平然としている二人に、僕は思い切って目玉模様について訊いてみる。

 すると返ってきたのは意外な答えだった。


「ああ、このマークか? これはな、


 団結の象徴……?


「そうさ。俺が考えたのさ、いいだろう?」

「えーっ、私も一緒に考えたでしょー!」

「ははっ、そうさな。俺と烏目でデザインしたんだ」


 なんと。

 目玉模様はこの二人の発案だった。

 それもクラス団結の象徴とは……僕にはよく分からない発想である。



                  *



「だけどさ、とりあえずは撮影は上手くいってよかったよ、なあ」

「ねっ、よかったよね!」


 二人が満ち足りたように言う。

 なんだか、――そんなふうにも取れる物言いであった。



                  *



「あとそうだ、暮樫――」


 ふっと思い出した具合で、洞ノ木君は続けた。


「暮樫、次は是非ともきみの妹さんもつれてきてくれ」

「妹? 言鳥ことりのこと?」

「そう、暮樫言鳥さんな」


 唐突に妹の名前を出されて、僕は些か面食らう。

 言鳥がいったいどうしたというのだろうか。


「それは……言鳥をこのクラスにつれてくるってことかい?」

「ああ」


 きっと、楽しいことになるだろうさ――。

 洞ノ木悠星ゆうせいは、爽やかな笑みを崩さずにそう言ったのだった。



                  *


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