2.



 友人が言うところによるのであるが、僕が怪異妖怪の研究に血道を上げているというのは、大きく違わないまでもむろん虚名である。ただ僕は、僕の妹のことを知るために各種方面から考えているあいだに、自然そんな点にも心づいたに過ぎない。


 従って、怪異というものに関し何らかの結論を持っているかと問われればまあ、そんなものはない。

 即座にそう断言する。



                  *



 人に怪異について尋ねるとたいがい「お化けは在るか無いか」、「在るとすればその理由は何か」――という話になりがちであるけれども、妹曰く、怪異の側に人間のロジックなどという考えは毛頭なく、よってどんな不理屈不条理でも現れる。


 それが怪異であると、妹は言う。


 そのように説くとおおよそ解せぬといった顔をされるのは僕がおかしいのか世人がおかしいのかは存じ上げないが、とにかくがあるということでひとつ聴いていただきたい。



                  *



 怪異妖怪幽霊に遭遇したという話は、古今東西いくらでもある。

 だが聞くに、それら無数の体験談を解釈づけて結ぼうにも、それらの多くはばらばらで共通点に乏しく、一個の世界の話とは受け取りがたい。


 なるほど虚誕ではないのだろう。

 少なくともそれを語った本人はまさしくかように信じていたのだと思う。


 しかしそれを以てそれら怪異談が語り手の妄言でないとする根拠に薄い。

 それらの話を集めれば集めるほど、怪異を一様に信じることは難しくなる。



                  *



 しかし誤解をされては困るのは、たとえ怪異理解に都合のよろしい好材料が得られないからといって、それで世の不思議の勢いにさして影響はないということである。かえって怪異の怪異たる性質が深く感じられると言ってもよい。



                  *



 僕には幽霊や妖怪が見えない。

 怪異の一切が見えないし聞こえない。


 だけれども、たまたま僕が、あるいはこれを読んでいる読者諸賢がそれを見なかったとしても、それで怪異談のすべてを否定してしまえるような簡単なことでは、まったくないのである。



                  *



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