Death for Live

竜胆ガク

Memory,0 Prologue

おかしな夢を見ている。ありえない夢だ。

 今、ニュースに写っているのは、血まみれの俺自身。

 そんなはずはない。

 いつものように朝は学校へ行き、夕方頃には帰ってきて何気なくテレビを付けたところだ。

 今、俺はここにいる。

 なのに何故、テレビの向こう側に俺は倒れているのだろうか。

 そう、夢だと気づいたのはこの時だ。

 俺がここにいるのに、向こう側にいるはずが無い。

 体は、たった一つしかない…

 「そう、たった一つしかない」

 どこからか女の声がした。

 母のものでもなく、姉貴でも、妹でもない。全く、無知の声だ。

 振り向くと、女はそこにいた。

 若い。せいぜい俺と同じか、少し上だろう。

 しかし、その瞳にはそれ以上の年季を感じた。

 どうして知らぬ女が、俺の家にいるのか。 

 「あんた誰だ?どうやって入った」

 確か、しっかりと鍵を掛けたはずだ。だが、鍵を開ける音は聞こえなかった。

 俺はできる限り脅すように言ったつもりだったが、女にためらう素振りはなかった。それどころか、さらに堂々たる雰囲気を強めた。

 「そりゃもう簡単さ。お前がやったことと同じように入ったさ」

 後ろをずっとつけられていたのか…いや、ありえない。帰り道は俺ひとりだったはずだ。数人とはすれ違いはしたものの、足音は俺ひとりのものだったたず。

 「俺と同じように?はっ、あんた頭おかしいのか?」

 「お前も飲み込みが悪いなぁ。そろそろ自分の状況ってのを察しろよ」

 どうも口が悪いこの女は、自分が有利な立ち位置にいると思っているようだ。警察を呼べば不法侵入の罪で逮捕できる。まぁ、この女が相当のやり手であり、この状況を脱したなら話は別だが。

 「あぁ、ニュースでドッペルゲンガーを見ちまって、そろそろ俺は死ぬのだろうという予言は見えるぜ。だが、残念ながらドッペルゲンガーの方が先に死んじまったみたいだがな」

 そう言うと女は「ほう」と、初めて興味を見せた。

 「…天然物の馬鹿みたいだな、お前」

 しかし、その後出てきた言葉にはなんの変化もなかった。

 「いいか、よく聞け小僧。死んだのはドッペルゲンガーなんかじゃなく、正真正銘お前自身だ」

 「馬鹿なことを言うなよ。俺はここにいるんだぞ?たしかにニュースでは俺に似た奴が写ってるが、俺はここまで帰ってきて、テレビを付けたのが何よりの証拠だ」

 そこまで言い放った後で気づいた、女のその不気味な笑みに思わず恐怖を感じてしまった。

 そして女は続ける。

 「じゃあ見せてもらおうか。その証拠とやらを」

 「あぁ、見ろよ。ほら、あんたの前に広がるこの…嘘だろ…」

 振り向いて見えた景色に、テレビなどなかった。

 それどころか、見慣れたテーブルも、椅子も、ソファもない。そして終いには、女が座っていたはずのキッチンのカウンターもなかった。

 真っ白な空間に、ぼんやりと血にまみれた俺が倒れているのが見えるだけ。

 「さぁ、お前の言う証拠とやらはどこだ?あ?言っとくが、私はずっとこの景色を見ていた。お前が一人でつぶやき、自分の死体を上から見下ろしている様をな」

 ぞくりと冷たい風が撫でるように全身から血の気が引く。どんどん寒くなり、ついには体はがくがく震え出す。

 「死んだ恐怖はどうだい?…ははは、なかなか美味いだろう?」

 「あんた…正気か…?」

 その質問に女はきょとんとした。

 「私もお前も、既に正気なんてもんねぇよ。そうさなぁ、あるとしたら狂気…だろうな」

 女はクククと笑う。

 「さて、実はこんな無駄話してる時間はそろそろねぇんだ。お前が死んでくれたお陰で、その匂いを嗅ぎつけてアルマダが溢れてきちまってよぉ」

 「アルマダ…?ふんっ、どこの中二病だ」

 「残念だが、こっからは真面目な話だ。いまからすぐ、お前を生き返らせる。一般人がアルマダの被害に遭う前に、お前が後片付けをするんだ」

 「生き返らせる、だって?」

 「おう、そうだ。お前を無理やり生き返らせて、沢山の人を助けるお仕事だ」

 「あんたほんとに大丈夫かよ…」

 「ぐだぐだ言ってんじゃねぇよ、一般人には奴らが見えない。だが逆にあいつらが人間を喰うなんて容易いことよ。そして、それに対抗できるのは一度死んだ人間、リバイバーだけだ。そして、これからお前もそれに仲間入りさ」

 「おいまてまて!だから一体何の話だ、死んだの生き返らせるだのっ、そもそよアルマダってなんなんだよ!」

 「んなもん自分で見てこれば分かる!お前の返事の有無は問わん。既にお前のリバイヴは始まってるからな」

 「んなっ…!」

 「…ようこそ、死後の現実へ!」

 体が宙に浮くような感覚に包まれ、目の前がチカチカと弾けた。

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