第3部 脇腹


 一週間後、三度目が来た。


「もう嫌だ。我々は何度こやつのバカヅラを見ねばならんのだ!」

「ボス、落ち着いて」

「これが落ち着いていられるか!」


 異星の辺境の部落の空は、今日も元気に真っ赤である。


「ちっす。またっすか」

 半狂乱の紫とそれを宥める緑も、初めて見た時は見るに耐えないほどゴツゴツに痩せていたのが、少しましになっていた。

「あんたらも脂肪、食ったんだ?」

「ええ、そうなんですよ。我々には食べきれなかったため、ああして保存方法も編み出しました」

 緑が指差した大きめのガラクタの下に、一ミリから一センチ角にまとめた脂肪の塊が数個、砂っぽい風に吹かれてぶら下がっていた。

「え、残ったんだ。意外と少食」

「地球人から見れば、そうかもしれませんね。我々の祖先は、少ない食糧でも生きていけるように作られたと、伝わっています」

「ワロス」

「これまでですと、我々は地中の虫を狩りに出かけ……」

「おい、ハッパよ」

 紫が割って入った。

「あまり親しげにするのは感心せんぞ。こやつは偽物なのだ」

「メメメメ……ボ、ボス」

 ハッパは、粘っこい汗をかいた。

「固いこと言うなよ、紫ぃ」

 瑠美は難癖をつけた。

「む、紫とは何だ。我が名はナスビだ」

「あっそ。どーでもいいわ」

 そう言ってから瑠美は、下を指差した。

「ほらぁ、部下を見てみなって」


 いつもは焦げたガラクタに隠れているカラフルなチビ共が、今日は瑠美のもとにそろりそろりと近づいて来ていた。

 彼らはまた少し大きくなり、その大きさも様々だった。中には鉛筆ほどの太さのものもいる。

 瑠美が「ちっす」と挨拶すると、「ミー」「ウィー」などと声援が返ってきた。


「ヤバーイ! カワイー! こいつら、始めはキモいと思ったけど、カワイイところもあるじゃんか」

「メメメメ……」

 ナスビはブツブツ言っている。

「とにかく、貴様は早く帰ってくれたまえ……」

「あ、また脂肪置いてく系?」

 ミー! と歓声が上がったので、瑠美は鼻高々だった。

「今回はね、脇腹。こことここ、いっちょテレポっちゃってよ」

 ペロンと服をめくる。


「ケビガベ!?」


 二匹は同時に叫んだ。チビ共はまだミーミー騒いでいる。

「貴様ッ、何故腹部がそんなに肥えている!?」

「へあ?」

 己の腹を見下ろした。ぶよんぶよんのぼよぼよだ。道理で最近、服のウエストがみっちりフィットしてきたわけだ。

「先日ボスがテレポートさせた部位が、そっくりそのまま元どおりですね」

「しくったー。つい油断して食いすぎちった」

 瑠美は脂ぎったおでこをバチンと叩いた。

「ま、いっか。今からいくらでも痩せられるしぃ」

 ハッパとナスビは唖然としている。

「地球には、そんなに食糧があるというのか……」

「ケビガベ……」

 こいつらはこれまで、よほど飢えた暮らしをしてきたのだろう。

「ねえねえ、今回はいつもよりちょっと多めにあげるよ」

 瑠美は親切に提案した。

「しかし、前回のぶんが余ってしまっていて」

「いーじゃんいーじゃん。また保存すりゃダイジョーブっしょ!」

 そう言うと、ハッパもナスビも強く辞退はしてこなかった。


 メレキト・ポーズのチビ共に見守られ、今日も瑠美の腹はパァンと小気味よい音を立ててスッキリ萎んだ。

「サンキュー!」


 脂肪のテレポートが終わると、またチビ共がうじゃうじゃ集まってきた。

「またいつでも呼んでよ。脂肪ならいくらでもやるから」

 瑠美は気前よく言った。

 こっちはいくら食べても痩せられる。こいつらは食糧をゲットできる。これぞウィンウィンの関係ってやつだ。


 ハッパは「メレキト」と言い、ナスビは複雑な心境らしくだんまりである。


「そんじゃ、またねー!」

「ミー!」


 鮮やかな赤で染まった空に、体が軽々と投げ出された。

「キャッホー!」

 瑠美は得意の絶頂であった。

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