第2部 太腿


「メメメメ……何故だ。何故またしてもこやつなのだ」

「しかし、ボス。二回試してもこいつなのですから、やはり」

「バカ言え。こやつが一族を救い、やがて破滅をもたらす地球人だと? ありえん。第一、名前が違うではないか」

「メメメメ……」

 瑠美は目を開けた。今回の空も紅く燃えている。


「ちっす。また会ったね」

 ガラクタと、その影でチロチロしているピンクや橙や青色の生き物をよけて、歩み寄る。紫と緑は非常に困惑した様子で「メメメメ」と口走った。口元の髭がうじょうじょ蠢いて、見ていると気分が悪くなる。


「貴様、コヤマ・ルミという地球人を知らないか……?」

「は? 知るわけないっしょ。地球人なんて、日本人だけで何人いると思ってんの」

「ソルリム……」

 二人はしょんぼりした。その姿があまりに哀れだったので、瑠美は興味をそそられた。

「あのさぁ、そのコヤマ・ルミに何か用でもあんの? さっき一族を救うとか言ってたけど」

「それはですね、予言があるんですよ」

 緑が教えてくれた。

「『聖女コヤマ・ルミなる地球人が、大いなる力で豊穣と平和をもたらす。乾いた大地には黄金の実が生り、一族は繁栄するだろう。しかしやがてその力は暴走し、一族を破滅へ導くだろう』というもので」

「何それ、ヤバい」


 聞けば、今がちょうどその聖女が現れる時期であるという。

 そこで二人は、破滅がもたらされる前に地球へ帰ってもらおうという方針で、テレポーテーションによる聖女の呼び出しに努めていた。

「我々の一族は他の部族との争いに敗れ、ご覧のように土地も住処も焼かれ、主食である地中の虫も灰燼に帰しました。聖女には是非とも来て頂かなくてはならないのですが……」

 失敗続き、というわけだ。


「うっわ、完全にあんたらの都合じゃん。まじウケる」

「ウケている場合か。我とて貴様などに来てもらっても困る。体の一部でもなければ帰すこともままならんのだぞ」

 ふふん、と瑠美はほくそ笑んだ。身勝手な理由で二度も呼び出されたことは迷惑極まりないが、こういう特典があるなら話は別だ。そもそも今日は大学をフケているし、迷惑も何もあったもんじゃない。

「今度は太腿の脂肪をやるよ」

 瑠美は親切に言ってやった。

「……いいのか」

「おう。その代わり、ちゃんと帰せよ」

「メレキト」

 二人はあのおかしなポーズをした。よく見ると、無数のチロチロも似たように腕を組んで、喜びに沸いていた。彼らは前回見たときより、一回り大きくなっているようだった。



 ドスン、と部屋に着地した瑠美は、顔がニヤつくのを抑えきれないでいた。

 足が見事に軽い。

「ヤバくね……? 何にも苦労しないでここまで痩せられるとか」

 こんな美味しい話があっていいのだろうか。さすがあたし。

「あいつら、また呼んでくれねーかな。このままナイスバディになれたらいいのに」

 瑠美は靴を乱暴に脱ぎ捨て、大きなベッドに倒れ込んだ。パパに頼み込んで買ってもらったこのベッドは、勢いよく寝転ぶと決まってミシリと嫌な音を立てたものだが、今日はその音は聞こえなかった。

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