第5話 そらふね、満月の空に。
「よいちー、風を!雲の場所までー!」
「よっしいくぞー!」
発着場の構造のためか全く風は感じなかったが、いきなりズーンと空へ放り上げられた。
ぐんぐん雨雲に近づいていく、私はフタギを抱きしめ
「いくよ、スロースタート」
徐々に風を強くしていく。
「ヒカル大丈夫」
「大丈夫、いきなりの上昇で少しビビりました、もうへっちゃらで御座います」
「ヒカル、光ってる」
「はいー?」
「体全体が光ってる」
「ほんとに、光が光る、わお!すごいのです」
「ゴーグルがどこかに有るはずなんだけど、前か左側蓋が付いてる所を見て」
ヒカルは左のやや下側に付いてる小ぶりなポケットの上蓋を開けて中からゴーグルを取り出し一つを渡してくれた。
「ヒカルも着けて、わたし前を向けないからヒカルが前を向いて状況教えて」
「あっこれ簡単に体の向きを変えられるんだ、わっ!目の前すぐに真っ黒い雲」
「雨雲だからね、電気が貯まってるわ!」
雨雲の中に突入した、私は右手を高く上げ後ろに反らす、放電(落雷)する前に私が電気を吸収する。
ヒカルが私の左肩に手を置く、バシッと火花が飛ぶ数万ボルトの電気が私の体に貯まっているためだ。
ヒカルは顔を
「私にも電気を分けて頂きます」
雲の中を火花を散らして突き進む、バシバシ音を立てて私の手に電気が吸い込まれる、極小カミナリを無限に手に受けている訳だ、そろそろ放電しなくては自分が雷様になりかねない。
一つの雲を突き抜けた、突き抜けた雲は黒い塊が徐々に空気に溶けて行く様に色が薄まり消えてゆく。
「フタギ山の上へ」
風を強くし山の頂上近くで上げていた腕を振り降ろす、ピカッ、ドーンン。
私は雷様になったのだ、木の無い頂上近くで放電させた、つまり雷を落とした訳だ。
「伊佐宵って雷様だったの」ヒカルが聞いてくる。
「違うと思う、今はアルバイト、雨雲を片付けているの」
「そうね、こんな日に雨を降らせちゃいけないわ、雷も」
「そう、もっと効率あげなくちゃ」
「私もっと電気を貯められる、物足りないくらい」
「分かった、どんどん集めて雲を消していくわ」
「フタバUターン、上から行こう」
次々と雨雲に突入して一つ一つ雨雲を消して行った。
体に貯まった電気でヒカルの体が煌々と光る、私の体からバチバチと火花が飛び後方に流れて行く。
下から見上げると光の帯がキラキラと火花をまき散らし天を駈けている様に見えているようだ。
「わーきれい、流れ星を近くで見ているみたい」
「ああ女神様じゃ、姫様には女神様が憑いておられるのじゃ」
ざわめきの中からそんな声が聞き取れる。
大きな雨雲が少し上空にあと一つ、近寄らせないとする様に雲の中でビカビカ光っている。
「フタバ、大きな雲の中を駆け抜ける、スピードを上げて」
やや低空の木に
「伊佐宵、雲の中へ入ります」
前方を見ているヒカルが教えてくれる。
「フタバ風を止めて、ヒカルわたしの腕を持って、フタバを預かってて」
フタバを光に渡し両腕を上げ後ろにそらし出来るだけ船の前方に手が行くようにする、ヒカルに落雷が落ちないように。
次の瞬間暗闇の中で周り中放電している空間に突入した、掌にバチバチ絶え間なく電気の衝撃が襲ってくる、体に溜った電気はヒカルがゆっくりと吸い取ってくれる、そのせいでヒカルはますます光を増して光で体が見えなくなっていた。
無限の様に続く電気の衝撃のせいで腕の感覚が無くなってきた、痛みも感じなくなって頭がぼーっとしてくる。
(ここは何処、私は何をやってるの)体から力が抜ける落ちようとする腕を光が支えて止めてくれた。
「伊佐宵!しっかりなさい。あなたが気を失ったら船は落ちてしまいます!」
ドン!体に柔らかな衝撃が走り、頭がスッと現実に戻った。
ヒカルが一気にエネルギーを私に送ってきたようだ。
「ごめん、気を失うとこだった、助かった」
その時頭上から真昼の様な光が降り注いで来た。
「抜けた!やったあ、あっフタバを」
勢いだけで上昇していたがもう上昇は止まり下向きにゆっくりと降りようとしていた、慌てることも無いがフタバを受け取り「フタバこれで終わり、ゆっくり風を吹かせて」
と言ったのに構わずビュウーと強い風を吹かせてしまった、さっきヒカルから貰ったエネルギーのせいだ、コントロールできず大量のエネルギーを与えてしまったから。
慌てて上昇気味に向きを変え上空に駈け上がる。
体に貯まった電気が自然に放出されバチバチと火花が飛ぶが、船を離れるとキラキラ光る帯が尾を引くように流れている。
大きく左旋回して広場の上空に戻ってくると広場では大騒ぎになっていた。
「竜だ、光る竜が天に昇って行った」
「神様だ、ありがてえ、神様がおいでになった」
「光る竜みたいだったわ」
「つきひめさまー」
「姫様ありがとう」
上空で何回か旋回してやっとスピードが落ちたので高度を下げ地上10メートルあたりで手を振って声援に応える。
横を見るとヒカルの輝きがぐっと下がりヒカルはぐったりとしていた、支柱に固定されて居るので倒れずにいたようだ。
「ヒカル!」手をゆすっても起きない。
大変、きっと無理をさせ過ぎたのだ、大急ぎで発着場の方に向きを変える。
それでも大勢の人が声援を送ってくれるので手だけは降って、すぐに着陸態勢に入る。
発着場の上に来ると上向きの風が吹き出した、そこに留まると勝手にゆっくりと下降を始める。
もう後は誰かに任せて良い様だ。
力を抜くとほんとに倒れそうだ、いくらエネルギーをもらっても疲れは残る。
ヒカルの事が心配だったが着地した途端、気を失ったのか、眠ったのか意識が途切れてしまった。
気が付いたのはほんの30分後の事らしい、私は飛び起きてお祭りがどうなったかを
「まだ続いております、今は総長が皆にお話をしております、姫様みんなの前にお立ちできますか」
「あっ、ヒカルは?」
「そちらでお休みなさってます、大層お疲れになったのでしょう」
「あの、寝てるだけ、気を失なったりしていないの」
「それは分かりませんが、苦しがったりはされておりませんので、大丈夫だろうと、医者の見習のものが申しておりました」
「あっ見習さんが居るんだ」
私はヒカルのそばへ行き膝を着いた。
小さな声で「ヒカル」と呼んで腕をゆすってみた。
ヒカルは薄く目を開け少し微笑むとすぐ眼を閉じ眠ってしまった。
総長さんのお話が終わったのだろうか、月姫様と大勢の呼ぶ声が聞こえてくる。
わたしはヒカルを抱きかかえ、
「皆に挨拶に行きます」
「ヒカル様を連れて行かれるなら私がお
「ううん大丈夫、こんなになるまで働いてくれたの、わたしが連れて行きます」
わたしはヒカルを抱きかかえ、与一と黄昏さんを引き連れ舞台へ向かった。
皆の姿が見えた時大歓声が私たちを迎えてくれた。
そらふね、満月の夜に。 一葉(いちよう) @Ichi-you
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