第4話 満月の夜に
九月の十五夜の日、いよいよ月の
理由は月の里村で空船の発着場が見つかった事と、恒例の祭りを盛り上げるため。
失敗すれば盛り上げるどころか、みんなをがっかりさせてしまう、まあ三日前にテスト飛行で飛ぶことは確認できたので飛ばずに終わることは無いだろうけど。
午後六時約束の時間にカツラギさんが車で学校まで迎えに来てくることになっている、わたしの身代わりも来るらしい。
いつものように「屋上に行ってくる」と言って紙バックを抱え、本館三階の天空班部室に行った。
天空班(天文クラブ)の時間外部室使用は天文クラブの顧問には公認だけど学校には内緒なので灯りは点けない。
(さっさと着替えないと迎えが来ちゃうわ)
紙バックを開き昨日届いた真っ白なノースリーブのサマーセーターに膝上のミニスカート、暴れまわる私のためにちゃんとレギンスも用意してある、それがなんと金ラメ入りのキラキラゴールド、ひざ下までだから大して目立たないけど。
それとフタバを抱きかかえる為の抱っこひも、前回は服にフタバ用のポケットを縫い付けていたのだが、今回は服を支給されたので赤ちゃんの抱きベルトを見よう見まねで、短くなったトレーナーを切り継ぎ足して縫い上げたのだ、たった二日で。
(えらい!わたし)
ところで、もう一つ袋の底に真っ赤な布切れ、、何これ、誰の趣味、最後の一つが、、、まあこれは見なかった事にして。
こんな恰好をしていたら余計目立つので、この上にいつものトレーナを着る、暑いけど。
タイミングを計ったようにノックの音がして二人が入ってきた、一人は私のとよく似たトレーナーを着た背の高い色白の人、なるほど替え玉さんだ、もう一人は影丸、わたしの教育係の少し(いやずーと上と言いたい)年上の嫌味たっぷりなお姉さん。(決して飼育係ではありません)
影丸が
「居るわよ、見えない?ちょっと待って」
わたしは屋上に上がる階段の灯りを点けるため移動する。
「私たちは人間の目ですから、暗くて何も見えません、姫様は
「フクロウだけど、人間て不便な生き物ね」
灯りを点けて「こっちへ来て」と二人を呼ぶ。
影丸が「
と私にそっくりな人を紹介する。
「姫様よろしく、ってかなんで俺だけこんな場所でこんな恰好で除け者なんですか」
「これ異形の姫様に失礼ですよ」
「影丸、あなたの異形もかなり失礼なんだけど、身代わりって男性、これも失礼だわ」
「しかたが御座いません、こんなでかい女性なんて世の中には居りませんから」
「います、180センチだって居るわよ」
「世間は広いですね」
「ごめんね弥生さん、身代わりなんて要らないって言ったんだけど、総長さんが騒ぎになったら困るからって、ここは照明点けられないから屋上に上がってください、暑いですし。今度空船に乗られます?重量制限ありますけど」
乗ってみますかと言うのが効いたのか、急に機嫌が良くなって
「乗っても良いのですか、重量制限て?」
「積載重量50キロ、どう?」
「ご、50キロですか、、何とか頑張ります、姫様は大丈夫なんですか」
「これ、異形ですが一応女性ですから体重の事を聞いてはなりません」
「特に影丸にはね、わたしって見かけよりとっても軽いの、楽々パスです」
「わ、わたしだって楽々です、さ行きますよ姫様」
「ちょっと待って、これ屋上の鍵、望遠鏡使いますか」弥生さんに鍵を渡す。
「は、はいぜひ」
「上に上がって鍵を開けておいてください」
ロッカーから自分の望遠鏡のバッグを引っ張り出し肩に担いで階段を上がる、約15キロ、軽い軽い。
バッグから望遠鏡を取り出し「月ぐらいがクレーターとか見えて面白いと思うけど」と弥生さんに聞いてみると、
「あの姫様が飛ぶ場所はここから見えますか」と
「月の里村は山の陰になってる、空に舞ってる時は見えるかも知れないけど暗いから、真っ暗だけしか見えないかも知れないですよ」
「あのそれでいいですから、その方向に向けてください」
方向を勘で調整して固定する。
「倍率が高いから、視界に入らないかも知れない、入っても暗くて見えないかも」
「根性で見ます、見えなかったらこの次乗せてください」
「分かった、もう行くけど、帰ってから私が片付けるからこのままにしておいて」
彼に近寄って右手を差し出す、なんだか幽体離脱して自分を自分が見ているようでおかしな気分、握手をしてここを離れる。
ヒカル、与一、黄昏さんを拾って月の里村に入る山裾まで来た、人の気配など全くない。
車の中でカツラギさんから空船の発着場の事を聞いた、場所はこの空船を見つけた洞窟の入り口の一番高いところ、外から山に上がって降りてくるとそこに出る、
長い年月で木が生い茂り、平坦な場所で空船がすっぽりと収まる岩が有ることも、枯れ木や枯草で覆い隠されていたらしい。
そして洞窟の中には数台の空船が眠っていて、タンデム(二人乗り)の空船も見つかった、そしてそれは搭載重量もアップしていて70キロまで搭載できると説明してくれた。
「それ(タンデム機)すぐに使えるんですか」急いで聞いてみると、
「おそらく今日ガスを入れてみたはずです、具合が良ければ乗れるかもしれません」
と答えてくれる。
「やったー、ヒカル二と人で乗れる」
「えっ、でも、、、えっと70キロだと無理じゃないの私で40キロ、正確には42.5キロ、
「んー惜しい、もう少し、今わたしは30キロ前後、あ満月の頃だけ軽くなるの、後で計ってみよう」
と言うとカツラギさんが「ああ姫様、特殊ガスも見つかったんです、風船を膨らませるヘリウムみたいなガスでそれを使うと10キロほど搭載重量が増やせます」
「やったー」と私は浮かれるがヒカルは浮かない顔をしている。
「ヒカル、乗りたくないの」
「い、いえ乗りたくないなんてことは、、、ただ風が無くなると落ちてしまうとか、ただのゴムボートだとか、、」
「そっかそりゃ心配するのは当たり前ね、カツラギさん初めにシングルに乗って後からタンデムに乗り換えるってできますか」
「それは問題ないと思います、それから空船は単なるゴムボートではありません、素材が全く違います、ハサミで切ろうとしても切れませんでした、釘を刺そうとしても
「それってすごくないですか」
「凄いですよ、恐らく地球上にはほかに無い様な素材です」
「すげーそれってUFOってことでしょ」与一が興奮している。
「でも与一確認できればその時点で未確認じゃ無くなるからUFOじゃ無くなるのよ」
「そんなの空を飛んだらUFOでいんだよ」
「じゃあ飛行機は?」
「うっ、民間、、UFOだ」
「へー、じゃあ
「てこぎ、、ってセンスなさすぎパーソナルユーフォーとかマイユーフォーって言ってくれよ」
「バッカばかしい、それよりも、この先の事は一切誰にも言わないこと、もちろん親兄弟にも言ってはいけない、一家全員消滅することになるわよ」念を入れて脅しておく。
山道を上がって行くに連れ、磁力が上がってきた、久し振りで忘れていた、この場所は地磁気がやたら強く、そのうえ空気が電気を帯びている、その磁気や電気が私の体に流れ込み私の体のパワーとなる、暑い。
当たり前だ、服の上にトレーナー着たままだった、トレーナーを脱いで例の真っ赤なマントの様な物を紙袋から取り出し、影丸に聞いてみた。
「これ何?」
「ガウンだそうです、磁気避けの素材で姫様の暴走を防ぐためのものですから必ず着けてくださいね」
「ああ磁気避けね、でもどーみても真っ赤なマント、わたしパーマン三号なの、ウッキー」
「姫様?三倍ほどお歳をごまかされておりませんか、姫様の世代ではご存じないはずですが」
「DVDで見たわ、影丸だって知らないはずよ、三百年ほどサバ呼んでるんじゃない」
「私は姫様の様な
「分かったわよ」
これ以上誕生の事について踏み込んではいけない、彼女の出生について知っている者は誰も居ない、だから生年月日も仮でしかないのだ。
「やっぱりパーマンにならないとダメみたい、エネルギーと電気が貯まって火を吹きそう」
「お似合いですよ、真っ赤なマント」
「ガウンて言ってたじゃない」
「そうでした?」
影丸がとぼけた時にカツラギさんが、
「洞窟に着きました、おや雲が出てきましたねえ、雨が降らなければ良いのですが」
私たちも車を降りて空を見上げる。
「ヒカルが居るから天気は心配ないよね」
カツラギさんがどうぞこちらにと先導してくれる。
「いえそう言う訳には、わたしだって月に一、二度は雨の日もあります、でなければこの町が干上がってしまいます」
「あっなるほど、干ばつか、、農家にとっては
思わず出てしまった言葉に、カツラギさんがフォローしてくれた、
「干ばつは困りますが、晴れが三日続いても構いませんが雨が三日続くと困ります、腐ってしまったり、カビが生えたり、病気になったりいいことが有りません、そりゃ雨が降らなければ困りますが、降り過ぎても困るのです」
「あっ、す、すいません農業の事なんて何にも分かってなくて、ヒカルもごめん」
「そこが伊佐宵のいいところで御座います、素直に人の意見を聞き入れるのは大切な事でもあります」
「だって私は天文以外の事は何も知らないの、知ろうとしなかった、そんな事では月の姫にはなれないわ、農業中心の民なんだから」
「ほんとに良い方が姫様になって頂けました、街の人は良い野菜には興味がありますが農業には全く関心を持っていただけません、野菜が高くなったと嘆くだけです、ああ私もつい愚痴ってしまいました、申し訳ございません、姫様洞窟でエネルギーを一気に放出するのはお控えください、落石が起こってしまうかもしれません」
「分かってます、でもどんどん体が膨らんできそうです」
「我慢しろよ、お前一人で風船みたいに飛んで行ったら空船の意味がねえじゃん」
「あっそうだ、与一」
私は横に来た与一の腕を取ってギュと抱きしめた。
「おい、うわっ!」といって逃げようとするが私の方が力が強い、
「1、2、3」と言って腕を離す。
「伊佐宵どうしたの?」ヒカルが不審そうに尋ねてくる。
「放電したの、少しだけ」
「おまえなあ、俺は電池じゃないって言っただろ、もう少しジンワリと流せよビリッと来たぞ、死ぬかと思った」
「伊佐宵、わたしはいつでも傍に居りますから、私に流して下さい、人前でそんなことをなさっては悪い噂が立ってしまいます」
「姫様そう言う役目なら私がお引き受けいたします、
「はいはい、そう言う事は気が合うのねあなた達」(でも影丸、与一限定って?)なんだか聞いてはいけない様な気がして黙っておいた。
「じゃあヒカルも、電気じゃなくて磁気の方、おいで」
と言って腕を組むようにと右手を曲げる。
「はい」と言って恥ずかしそうに腕を組みスッと体を寄せてくる。
その仕草は<乙女>そのもの、可愛いったらありゃしない。
その様子を見ていたのか影丸も「とーてもお似合いのカップルです、与一様よりずっとお似合いです」(どうしてそんなに与一が気になるの?)
先頭を歩いてたカツラギさんが坑道の手前で止まって、
「すいませんまだ道が完成してなくて簡単な階段なので足元に気を付けて上がってください、上がれそうにない方いらっしゃいますか、全員大丈夫、じゃあ影丸ご案内して」
影丸に付いて上がる、思ったほど高くなくてすぐに広場に着いた。
そこは学校のプールくらいの大きさで真ん中の前の方に岩が有った。
「発射台が有るんです、どうぞこちらへ」
「あの岩が発射台なの?」影丸に尋ねる。
「そうです、持ってきたのか、そこにあった岩を加工したのか丁度空船がきれいに収まる様になっています」
「それで離陸が楽になるの」
「はい、風を逃がさない構造になっているそうです、今タンデム機のセッティングをやっているそうです」
「そう、とにかく飛ばなきゃならないわ」
「伊佐宵、俺はどうするんだ?今回は見物だけか」
「いつでもフォローできる様にしておいて、まだどれくらい使えるのか分からないし、飛び立って減速してしまうかも知れない、私は与一に命を預けるから大事に守ってね」
「うっ、責任重大だな」
「姫様、与一様に責任を押し付けないで下さい、この人は着地の時のフォローだけにしてください」
影丸の言葉にカツラギさんが、
「影丸それは違う、ここに居る全員が姫様をフォローしなければいけないのです」
「だから一人の人間に責任を負わすのは間違っていると申し上げているのです」
「分かったわ、皆さんでフォローよろしくお願いします」
(どうも与一の事になると影丸は
とその時、ガラガラと雷鳴が鳴り響き渡りビカッと稲妻が上空を照らした、その直後ドッサーと滝の様な雨が突然降りだした、稲妻があちこちで光ってる。
(大変!こんなに人が集まっている所に雷が落ちたら大惨事に)
「与一!飛びます、すぐ下に降りて!」
「姫様!姫様もすぐ洞窟に入ってください」カツラギさんが叫んでいる。
「カツラギ、雷を止めなければなりません、皆を助けなくて姫の資格は有りません」
「姫様!雷なんて止められる者など居ません、お止め下さい!」
「姫様、早くこちらへ」影丸が手を引いて空船の方に引っ張って行く、今は手を繋いでいるヒカルも一緒に。
「伊佐宵、皆を助けましょう、助けられるのは伊佐宵しか居りません」
「ありがとう、ヒカルまで巻き込んじゃってごめん、安全な場所で待ってて」
「姫様、タンデム機は二人で乗らないとバランスが取れません」
「伊佐宵、私も行きます、一人でなんか行かせません」
そして私とヒカルは土砂降りの雨の中船に乗り込んだ。
-----------------------------------------------------------
四話で完結の筈だったのに--終われない、あと一話いきます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます