第5話 『脳筋メス猿勇者』は殺処分が妥当ですわ
「簡単な話だ! 魔王城に全裸の人間がいるわけがないからだっ!!」
女勇者の主張を誰も否定できなかったために『全裸男=魔王』の構図を勇者は確信した。
初めこそ男の裸に驚いたがその正体が
「どうする、相手はやる気のようだぞ?」
「そのようですね、お兄様」
勇者の放つ気迫が部屋の空気を張りつめていく。
「……気のせいか先ほどからまもうとが私の背後に隠れ気味になっているようだが?」
「気のせいですわっ、お兄様♪」
「加えて勇者が人違いしてからまもうとがやたらと『お兄様』というワードを強調している気もするぞ?」
「チィッ……! 貴方のような勘のいい兄は嫌いですわっ」
勇者の殺気が場を支配しつつあるなかで、全裸男とまもうとは面倒ごとを押し付け合っていた。
ディモニークはいつの間にか男の腕に両腕を絡めていた。一見すると甘えている仕草に見えるが実際は男を盾にしているだけだ。ご丁寧に男が後退できないように脚も軽く絡めている。
「初めは私の裸に驚いていたというのに、随分積極的じゃないか? まもうとよ」
「命がけですからっ! 私、いま魔法を使える状態じゃありませんの」
「私は戦いとは無縁の世界の住民なんだが? どうにも出来ないぞ?」
「私のため、私の代わりに戦ってくださいお兄様。大丈夫です。きっとなんとかなりますから」
まもうとが無茶苦茶なお願いをし始めると女勇者がハッとした。
目を見開き赤面した直後に口をわなわなと震わせ天を仰いでなんということだと嘆く。
「ディモニークよ。兄妹でイタすだけには飽き足らずに、兄を人間の姿に変えて行為にいたるとは……
彼女なりに状況を整理した結果、女勇者は怒り狂い始めた。やはり魔族は
「……まもうとよ、女勇者が無茶苦茶言い始めたぞ」
「殺しましょう」
「おい……?」
先程まで勇者の相手を押し付け合っていたのが嘘のようにディモニークはゆらりと前へ進み出る。男は思わず彼女を制止するとディモニークはゆっくりと彼を見やった。ひどく目が据わっている。
「お兄様、そこを退いてください。ソイツを殺せないですわ」
「落ち着けまもうと。第一、お前は魔法を使えないのだろう?」
「奥の手があります。採算と相手の生死を問わないのなら、
「いきなり物騒な話は止めないか」
「いいえ。私、兄に次いであの女が嫌いなのです。
「……やれやれだ」
「お兄様?」
全裸男はディモニークの前へと歩み出た。経験上こうなってしまっては妹というのは言ってどうにか出来るものではない。兄が出ていかなければならない。実の妹がそうで、まもうとも同じにおいがする。
「出来る範囲でだぞ」
「えっ?」
ならば兄がするべきことは決まっている。
「お兄様がなんとかしよう」
こうして異世界からきた全裸男は女勇者と対峙した。
「私は魔王じゃないが、荒ぶっている妹は放ってはおけないのでな。お相手しよう」
「そのフザケタごっこ遊びを続けられると思うなっ! 魔王っ!!」
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