第六十八話 かつての仲間

 柚月達、特殊部隊は、戦いに復帰し、任務を遂行していた。

 といっても、四天王が靜美塔から逃げて、行方不明になって以来、妖の出現率は減少。被害もなくなっていた。

 妖達との戦いは続いてはいたが、戦いを有利に進めている。

 柚月が矢代から受け取った新たな宝刀・真月を見事に使いこなしており、妖達に効果的であるからだ。

 そして、九十九との連携が取れるようになったことも理由の一つであろう。

 反発し合っていた二人であったが、四天王の件以来、憎まれ口を叩きつつも、以前よりも連携が取れるようになっている。

 一時的ではあるが、彼らのおかげで聖印京に平穏がもたらされたと言っても過言ではないだろう。

 いずれ、天鬼を討伐できる日が来るかもしれないと人々は特殊部隊に期待を寄せるようになっていた。


「よし、妖は、無事討伐で来たな」


「皆、お疲れ様」


 柚月の元に綾姫達が集まる。

 誰一人、傷つくことなく、倒れることもなく勝利をおさめた。

 彼らの団結力も一層強まっているように全員が感じていた。


「ま、これくらい楽勝だぜ」


「九十九、油断は禁物だぞ」


「わかってるって」


 余裕の笑みを浮かべる九十九に対して、柚月は指摘するが九十九は依然として気にしていない。

 柚月は、注意を促し、九十九にも熱が入り、言い合いとなってしまうが、朧達は、楽しそうに見ている。

 いや、安心して見守っているのであろう。今の彼らは喧嘩友達と言ったところだ。それも、とても仲の良い。


「二人とも仲いいよね~」


「はい。本当良かったです」


「一時はどうなるかと思ったもんな」


 朧達は、以前の時のことを思い返す。

 九十九も勝手な行動が目立ち、柚月は九十九に対して苛立ちを隠せずにいた。

 不穏な空気が漂い、朧は、悩んだ日々もあった。

 だが、今は違う。柚月も九十九も互いを認め合っている。朧はそれがうれしくてたまらなかった。

 そんな時であった。

 夏乃が何かに気付いたようであった。


「みなさん、誰か来るようですよ」


「わかった。九十九」


「おう」


 夏乃が足音に気付き、柚月は九十九に狐に化けるよう促した。

 彼の存在は知られてはならない。それは、九十九も承知している。

 柚月に言われた九十九はすぐに狐に化け、朧の肩に寝そべるように立ち止まった。

 その直後、足音が止まる。

 その理由は、討伐隊・第一部隊・第一班の譲鴛じょうえん達が柚月達を発見し、立ち止まったからであった。


「柚月!?」


「譲鴛!どうしたんだ?」


「いや、この辺りの討伐を任されてたんだ。任務も終わったし戻ろうと思ったら、他の部隊が戦ってたみたいだから、応援に駆け付けたんだが、柚月達だったんだな」


「ああ。こちらも任務でな」


 懐かしい顔ぶれに柚月は驚く。だが、譲鴛達も同じのようだ。

 かつての隊長・柚月と遭遇するとは思いもよらなかったであろう。

 譲鴛達が柚月達と会ったのは、彼らが柚月達を救出しに靜美塔へ向かった時のことであった。

 あの時は、柚月達は重傷であり、長い休暇をとっていたため、彼らの身を案じていたのだが、どうやらその必要はもうないらしい。

 彼らの様子を見て、譲鴛達は安堵していた。


「調子はどうだ?」


「順調だ。そっちは?」


「なんとかな。でも、お前がいなくなってみんな寂しがってんたんだぞ?特に春風がな。遠いところに行ったみたいだって」


「お、お止めください、隊長!」


 春風は、照れながら慌てて譲鴛を止める。

 柚月を慕っていた春風は、彼が隊長を降りてからというもの、柚月がいなくなって寂しさを覚えたようであった。

 譲鴛達も春風を心配していたのだが、柚月が再び戻ってこれるように、自分達が頑張らなければならないという答えを出したようで、それ以来、彼は、譲鴛達と共に戦い続けてきた。

 柚月の帰りを待ちながら……。


「そうか。すまなかったな、春風」


「い、いえ、柚月様に会えてうれしいです」


「俺もだ」


 柚月は、春風の頭を撫で、春風は、顔を赤らめる。

 まるで、あの頃に戻ったようだ。強くて、優しくて、暖かい憧れの柚月が目の前にいる。

 春風は心が穏やかに感じた。

 そのためか、うれしくて涙が、出そうになるが、柚月の前で泣けるはずもなく、必死で涙を止めていた。

 彼の様子を見ていた譲鴛達も穏やかな気持ちになったのであった。


「譲鴛達の方も任務は終わったんだよな?」


「そうだな」


「なら、一緒に戻らないか?情報共有もしたいし」


「それ、いいな」


 柚月の提案を聞いて真っ先に富んできたのは宗康だ。

 宗康も柚月を慕っている人物の一人、柚月と行動を共にできると聞いてうれしくなったのであろう。


「柚月様のお共ができるんですか!?護衛いたします!」


「ずるいわよ、宗康!私も護衛いたします!」


「やめなさい。宗康、綾女。柚月様が困ってるわよ」


 柚月を慕っているのは、彼らだけではない。綾女も柚月を慕っている。

 抜け駆けされたように思えた綾女は、対抗するかのように柚月の元へ駆け寄る。

 二人のやり取りを見ていた真純は、あきれたようにため息をつき、制止させた。

 このやり取りも久しぶりだ。

 そんなに月日がたっていないはずなのに昔の事のように思える。

 柚月は、ふと笑みをこぼしていた。


「いいさ、真純。久々に会えたんだ。一緒に行こう」


「はい!」


 譲鴛達に囲まれて柚月は、聖印京へと戻る。

 朧達も柚月についていくように歩き始めた。かつての部下と楽しそうに話している柚月を見守りながら。


「兄さん、慕われてるね」


「みてぇだな。意外と」


「そういうこと言うとまた怒られるよ」


「別に、気にしねぇ」


 朧も嬉しそうだ。

 あんなに慕われている柚月を見るのは初めてなのだろう。

 それほど、柚月は、偉大なことをしてきたのだと思うとうれしく思う。

 九十九は、素直じゃないのか、さらりと嫌味を呟く。

 だが、九十九の心情に気付いている朧は、九十九の頭を撫でながら、注意したのであった。それも、楽しそうに。


 

 聖印京に戻り、北聖地区に入った柚月達は、ここで譲鴛達と別れることとなった。

 別れを惜しむように譲鴛達と話している柚月。

 朧達は、少し距離を置いて柚月を見守っていた。


「じゃあ、俺達は、これで」


「ああ」


 譲鴛達は、宿舎に戻ろうとするのだが、春風はどこか寂しそうだ。

 柚月と別れたくないのだろう。

 春風は、柚月の元へ駆け寄った。


「ゆ、柚月様。あの、お聞きしたいことが……」


「どうした?」


「討伐隊には戻られないのですか?」


「え?」


 春風に問われて戸惑う柚月。

 譲鴛達も驚いているようだ。

 困っている柚月を助けるかのように、譲鴛は、春風の元へ駆け寄った。


「春風」


「わかってます。でも、気になって」


 もちろん、春風もまだ戻れないことはわかっている。

 譲鴛が隊長と言うのが不満というわけではない。

 だが、柚月には戻ってきてほしいのだ。柚月と共に戦いたい。憧れの柚月に近づくためには、柚月にいて欲しい。

 そんな想いがあふれだし、止められなくなってしまった。

 柚月も春風の想いは十分わかっている。自分を慕っているからだと。

 柚月は、申し訳なさそうに春風に話しかけた。


「……すまない。今はまだ戻れないんだ」


「朧様を守るため、ですか?」


「ああ。朧は狙われてるからな」


 確かに、朧は天鬼に狙われていた。

 だが、実際に狙われていたのは九十九の方だ。それに、今は九十九の存在を知られないように、朧を守るために特殊部隊にいなければならない。

 柚月は春風達にうそをついているようで、心苦しかった。

 だが、これも二人のためだと柚月は心の中で言い聞かせ、断ったのであった。

 それでも、胸の奥がずきずきと痛んだ。

 断られてしまった春風が、落ち込んでいるように見えた。


「そう、ですよね。すみませんでした」


「いや、いいんだ。いつか、戻りたいと思ってる。また、皆で一緒に戦いたい」


「はい!待ってます!いつまでも!」


「……ありがとう。じゃあ」


 柚月はその場から立ち去る。

 春風は柚月をいつまでも見送っているのだが、彼の顔は今は見れない。

 自分の心情に春風や譲鴛が気付いてしまうかもしれないと思ったからだ。

 柚月は、自分を待っている朧たちの元にたどり着いた。


「兄さん、討伐隊の人と何話してたの?」


「今後の任務についてだ」


「そっか」


 今度は朧達にもうそをついてしまった。

 だが、先ほどの話をしたら、朧は自分を責めるであろう。

 本当のことを話すわけにはいかない。

 これも、朧を守るためだと言い聞かせた。


「行くぞ」


「うん」


 柚月達も、離れへ戻るため、歩きだす。

 すると、九十九があることに気付いた。

 それは、誰かに見られている気がしたからだった。


「ん?」


 視線が気になり、九十九は振り向く。

 その視線の主は春風だ。

 一瞬だけだったが、朧を見ているように思えた九十九なのであった。

 だが、彼が見ているのは柚月だったのかもしれないと九十九は、思った。


――気のせいか……。


 きっと、柚月を見ていたのだろうと九十九は気にせずに、前を見る。

 だが、九十九はこの事で後悔することになる。

 この時点で、春風が朧に嫉妬していたことに気付けばよかったと。



 獄央山の洞窟で天鬼は、座りながら入口の方を真っ直ぐ見ていた。

 だが、彼の表情は退屈そうに見える。

 呆然と眺めているだけのようだ。何も変化がない世の中を見ているかのように……。

 奈鬼は、天鬼の側にいるのだが、何も言えない。天鬼は、なぜ外を見ているのか。聞くこともできず、ただ黙って天鬼を見ていた。

 すると、黒い髪の青年が天鬼の元へと歩み寄った。


「ねぇ、天鬼」


「なんだ?」


「誰か来たみたいだけど、殺していい?」


「誰か?」


 黒い髪の青年に指摘され、天鬼は目を閉じる。

 誰がこの洞窟に来たのかわかったようだ。

 天鬼は目を開け、不敵な笑みを浮かべた。


「いや、殺すな」


「なんで?」


「何でもだ」


「えー」


 黒い髪の青年は、不満げな様子だ。

 天鬼の言うことを聞きそうにない。

 だが、彼を制止するかのように白い髪の青年が、黒い髪の青年の肩に手を置いた。


「天鬼の言うことは聞くべきだ。でないと、あいつらみたいになるぞ」


「そうだったね」


 白い髪の青年と黒い髪の青年は、四天王が燃やされた跡を見る。

 もうすでに、灰もなくなっている。彼らの痕跡はもうすでにどこにもなかった。


「で、どんな奴が来るんだ?」


「ただの客だ」


「客、ね」


「……」


 天鬼は、ただの客が来ると言うが、白い髪の青年はそう思っていない。

 だが、面白そうに入口の方を見ている。出迎えるかのように。

 奈鬼は、不安に駆られ、入口の方を見ていた。

 足音が近づいてくる。

 それでも、天鬼は動こうとはしなかった。


「来たみたいだな」


「ああ」


 気配がさらに近づいてくる。

 すると、何者かが、天鬼の元へ現れたようだ。

 その人物を見るなり、奈鬼は驚き、天鬼は笑みを浮かべたまま立ち上がった。


「まさか、お前が来るとは思ってもみなかったぞ。……鳳城真谷」


 なんと、天鬼の前に現れたのは、真谷であった。

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