第六十七話 地獄からの来訪者
「て、天鬼様!?お、お戻りになられたのですか!?」
「ああ、そうだな。お前達が、あの鳳城朧と言う小僧を連れ去る前にな」
「……」
天鬼には、全てお見通しだったらしい。鳳城朧をさらったことも、それでおびき出して九十九を殺そうとしたことも全て知っていた。
そして、柚月の謎の力で斬られ、殺されかけたことも。
知られてしまった六鏖達は、怯え、硬直していた。
それでも、天鬼は容赦なく六鏖達に迫った。
「どうだ?殺されかけた感想は?」
「きょ、驚異的、でした……」
「だろうな。まさか、あの柚月があんな力を秘めていたとは……」
天鬼は、体を震わせる。
怒りに満ちているからだろうか。もしそうだとしたら、その怒りはどこへ向けられたものなのか、柚月や九十九に対してなのか、それとも自分達に対してなのか。
どちらにせよ、六鏖達にとって今の天鬼は恐怖の対象だ。
殺されるかもしれない。天鬼の命令に背いたのだから。
だが、直後、天鬼は意外な反応を示した。
「面白い!」
天鬼の顔は狂気を含んだ笑みを浮かべている。
まるで、柚月が強くなったことを喜んでいるようだ。
なぜ、面白いと言えるのか、なぜ、喜んでいられるのか。
今の柚月は自分達にとって脅威的だ。
自分達が死に物狂いで逃げ出してくるほどなのだから。天鬼は、喜びに満ち溢れているように高笑いをし始めた。
「面白いぞ、これで、最高の殺し合いができる!私はこれを求めていた!」
天鬼は天を仰ぎながら笑っている。
その姿はまさに狂気だ。天鬼から妖気が放たれ、六鏖達の背筋に悪寒が走る。
今まで以上にないほどの恐ろしさを秘めているように感じ、何も言えず黙ってみていることしかできなかった。
「そうだ。貴様らに見せてやろう。我が新たな刃を」
天鬼は、腰から下げていた刀を鞘から抜き取り突き刺す。
その瞬間、炎が現れ、天鬼の周りを焼き尽くした。
その炎は、漆黒の炎。まるで闇に包まれた炎のようだ。九十九の九尾の炎と違って、濃い妖気に包まれているように感じる。
六鏖達にも伝わっており、熱風が六鏖達に襲い掛かった。
「あつっ……」
「妖気って言うか、殺意の塊だね……」
「……チカヅケナイ」
六鏖達は、炎から遠ざかるように後退する。
この洞窟を焼き尽くしそうなほどだ。そんな刀が存在するとは思えなかったであろう。
天鬼は炎に焼かれても平然としていた。
六鏖達はさらに恐ろしく感じているのであった。
「天鬼様、それは……」
「これか?地獄から奪い取った刀だ。その名は、
「煉獄丸……あの妖刀ですか!」
「そうだ」
妖刀・煉獄丸の存在は六鏖も知っている。
地獄に存在する妖刀だ。幾多の妖がそれを欲しがったのだが、触れただけでも焼かれ、灰になってしまうという噂があった。
しかも、その地獄の門も開ける者は天鬼ただ一人。そして、生きて帰れたのも天鬼だけだ。
煉獄丸は、所有者までも焼き尽くすはずだが、天鬼は、平然としている。
六鏖はそれが不思議でならなかった。自分達でさえ、近づけないというのに……。
「て、天鬼様は、平気なのですか!?」
「この通りだ」
天鬼は、煉獄丸から手を放し、掌を見せる。
掌は火傷をおっている。黒く焦げ、今にも灰になりそうだ。
やはり、煉獄丸は所有者までも焼き尽くす妖刀。天鬼でさえも。
天鬼の掌はすでに再生され、傷が癒えていた。
「この程度、私にとっては火傷にもならん。あの九尾の炎と比べたらな」
天鬼は思いだしていた。
屋敷に侵入し、九十九と再会した時、九十九の九尾の炎で腕を焼かれ、一瞬で灰になった時のことを。
そのことに比べれば、煉獄丸の炎など、火傷のうちに入らないのだろう。
「案ずるな、じきに我が妖気と馴染むはずだ。馴染めばこの煉獄丸は私を焼き尽くすことはないだろう」
「そ、そうですか……」
六鏖は安堵するが、未だ恐怖に怯えている。
天鬼は馴染むと言ってはいるが、そうは思えないからだ。今にも天鬼は煉獄丸の炎に焼かれてしまうのではないかと思うほどの力を感じている。
「これで、九尾の炎に対抗できるはずだ。これで、あいつとも殺し合いができる。その日が楽しみで仕方がない」
「……」
確かに、漆黒の炎は九尾の炎に抵抗できるであろう。そして、柚月の謎の力にも。
勝機が見えたはずなのに、六鏖達は警戒を解くことができない。
その理由は、天鬼の言葉で気付かされてしまった。
「さて、貴様らは私の命令に背いた。罰として煉獄丸の餌食となってもらおうか」
「!」
六鏖達は、驚愕し、身が硬直する。
天鬼は再び、煉獄丸を手にし、引き抜いた。
天鬼は許していないのだ。自分の命にそむき九十九を殺そうとした事を。彼が許すはずがない。なぜ、それがわからなかったのであろう。浅はかな自分達を責めた。
六鏖達は、迫りくる天鬼から遠ざかろうと後退した。
「お、お待ちください!天鬼様!話を……」
「問答無用、弱き妖などいらぬ」
天鬼は、じわじわと六鏖達に迫りくる。
天鬼は、笑っているが、殺気を放っている。これは脅しではない。本当に自分達は殺されるのだと六鏖達はここでようやく気付いた。
柚月や九十九に負ける部下など天鬼には必要ないのであろう。
「待って、殺さないで!あ、あなたの妻になるわ!ね?」
「い、言う通りにするから!」
「イヤダ……シニタクナイ……」
雪代達は、必死に懇願する。
だが、天鬼は、六鏖達に迫る。いくら懇願した所で、彼の意志を変えることは不可能だ。
必要ないと感じたら、自分の部下でも斬り捨てる。
天鬼は冷酷な妖だ。それは、六鏖達もみてきた。だからこそ、天鬼の機嫌を損ねないように従っていたのだ。
だが、命令に背いてしまった。裏切り者の九十九を排除すべきだと考えたから。
六鏖達は、激しく後悔していた。指示があるまで待機していればよかったと。
だが、時すでに遅し。天鬼は構えた。
炎と熱気、そして、妖気が六鏖達の身を包んだ。
「死を恐れるものは、弱き者だ。私が最も嫌いとするものだ。生にしがみつく部下など必要ない。ここで、朽ち果てろ!」
天鬼は六鏖達に襲い掛かる。緋零が幻術をかけ、必死に抵抗し、逃げるが、漆黒の炎に囲まれ、六鏖達は逃げる術を失った。
「幻術か、俺に通用すると思っていたのか?」
「……」
「終わりだ。死ね!」
天鬼は煉獄丸で六鏖達を切り裂いた。六鏖達の悲鳴が洞窟に響き渡る。
身を切り刻まれ、漆黒の炎が、六鏖達を焼き殺す。
天鬼の顔は、狂気に満ちている。部下を殺すことに喜びを感じているようだ。
天鬼は、容赦なく六鏖達を切り刻み、六鏖達は幾度となく悲鳴を上げて、身を焦がされた。
彼らの様子を少年が、おびえながら見ていた。
四天王は天鬼によって殺されてしまった。
「つまらぬ、奴らだったな。捨て駒にしてはよくやったがな」
天鬼は、煉獄丸を鞘に納める。
もはや、六鏖達の姿は無残にも消えている。何一つ残っていない。
漆黒の炎に身を焼かれ、灰となってしまったのだ。
自ら部下を殺しても尚、平然としている天鬼。まさに、鬼そのものだ。誰も彼を止めることなどできないであろう。
天鬼は、座り、笑みを浮かべていた。
その天鬼の前に先ほどの少年が現れた。
「あ、あの、父さん……」
「
「はい」
彼の前に現れたのは、天鬼と同じ金色の髪と目を持つ少年。天鬼と同じ鬼だ。
彼は、天鬼の息子である奈鬼であった。
奈鬼は、恐る恐る天鬼に近づいていく。
奈鬼にとっても、天鬼は、恐怖の対象だ。自分も抵抗すれば四天王のように殺されてしまうであろう。
だが、聞かずにはいられなかった。どうしても、知りたいことがあったから。
「あの、よろしいのですか?四天王を……」
「構わん。あの二人を殺せぬ奴らなど使えないに等しいからな。それに、新たな部下はすでにいる」
「え?」
「来い」
天鬼に命じられ、二人の妖が現れる。
その妖は、強い妖気を放っていた。その妖気は四天王よりも強力だ。
妖気を当てられた奈鬼は、身が硬直してしまっていた。
一人は白い髪と目を持つ青年。もう一人は黒い髪と目を持つ青年であった。
「地獄にいた妖だ。あいつらよりも十分強い。あの柚月と九十九を殺せるほどのな」
「だが、あいつらはお前が殺したい奴らなのだろう?」
白い髪の青年は堂々と天鬼に尋ねる。まるで、恐れを知らないかのように。
「そうだ。だが、俺は強い奴らを探していた。あのようなくず共でなくな」
「言えてるね。あいつらじゃ、話にならない。けど、新たな四天王にするなら、あと二人足りないよ?」
黒い髪の青年も同じように天鬼に尋ねた。まるで死を恐れないかのように。
「構わん。貴様らがいれば十分だ。期待しているぞ」
「わかった」
「いいよ」
二人はうなずく。その笑みは、天鬼同様、狂気に満ちていた。
やはり、地獄にいた二人だ。天鬼同様狂っていように奈鬼は思えた。
「これで、準備は整った。あとは、どうやって、殺すかだな」
「……」
奈鬼は、黙ってしまう。
天鬼を目の前にして恐怖で何も言えなかった。
そして、ある人物の身を案じていた。
「九十九……」
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