第十話 柚月VS天鬼

「異能・光刀か……。聞いたことあるぞ。光の刃となった男には手が出せないから厄介だと雑魚共がわめいていたな。だが、刃には刃で斬ればいいだけだろ」


 天鬼は、妖気を解き放つと妖気がいっきに集まり刀となって形作られた。


「妖刀か……」


「そうだ。こいつなら、貴様を斬れるだろうからな」


「そう簡単に、斬らせるものか」


「やってみないとわからないだろ」


 柚月は、天鬼を前にして、霞の構えをとる。

 柚月の眼は本気だ。天鬼を本気で殺そうとしている。

 天鬼もその殺気に気付いたらしく、天鬼も瞳に殺意を宿らせ、妖刀を柚月に突きつけるように前に出す。

 二人は、相手をにらみつけ、すり足で寄っていき、ほぼ同時に地面をけった。

 柚月は、突きを放つが、天鬼も同時に突きを放つ。天鬼の妖刀は柚月の右肩を狙い、柚月の銀月はも天鬼の右肩を狙う。

 天鬼の方が早く、妖刀が柚月の肩をかすめようとした。

 だが、光の刃を身にまとった柚月を切り裂くことはできず、反対にはじかれてしまう。


「!」


「もらった!」


 柚月は、光刀にはじかれ、のけぞるような姿勢になった天鬼の隙をつく。大きく踏み込み、右わき腹から斜め上に切り裂いた。

 だが、柚月の刀捌は、終わることはない。

 柚月は突きを放ち、天鬼の心臓を狙う。

 天鬼も反応し、妖刀で防いだ。


「……確かに簡単には斬れないようだな。だが、貴様もわかっているだろう。私を簡単に殺せはしないと」


 傷を負ったいたはずの天鬼の脇腹はすでに再生されていた。天鬼は、柚月の銀月をはじき、柚月は、距離を取るように、後退する。

 柚月を斬れないことを知りながらも天鬼は笑みを浮かべ、余裕の表情を見せていた。


「ああ、その通りだな。簡単に貴様を殺すことは難しい。だが、殺す。確実に」


 柚月は闘志を燃やす。そして、再び天鬼に斬りかかった。


 柚月と天鬼が死闘を繰り広げている頃、朧は再び社へと駆け付け、術を発動しなおした。

 柚月を助ける為に、九十九の手助けとなるように、朧は、集中を切らすことなく発動した。


 柚月と天鬼は死闘を続けている。二人の実力はほぼ互角のようだ。天鬼は柚月に斬りかかるが、はじかれ、柚月は天鬼を斬るが、すぐに再生される。

 終わりの見えない戦いのようであった。

 だが、天鬼は、妖刀を薙ぎ払うように振り、柚月は銀月で受け止めようとするが、はじかれてしまい、吹き飛ばされかける。柚月は、なんとかしのぎ、足に力を入れて体制を整えた。


「どうした?息が切れているぞ?限界が来ているのか?」


「誰が!」


 柚月は、構えるが、息が荒くなっている。それに対して天鬼は余裕と言わんばかりに笑みを浮かべている。

 天鬼と互角に戦ってはいるが、天鬼の力は絶大だ。再生能力に加え、異様な妖気と多彩な刀捌で柚月をほんろうした。柚月は、天鬼を仕留めることができず、体力が削られた。


「まぁ、いい。そろそろ飽きてきたころだしな。妖刀の力……血霞ちがすみの真の力を見せてやろう」


「何……?」


 柚月は、驚いたように目を見開くと、天鬼は自分の腕を切り裂く。天鬼の血を吸った血霞は妖気に覆われると紅の血のように染まった。天鬼の腕の傷は治り再生されていた。


「私の妖刀・血霞は、血を吸うことで真の力を発揮し、切れ味が増す。人間の血、妖の血、私の血までも吸ってな。私の再生能力を使えば、貴様の光の刃など打ち砕くことなど容易なことだ」


 天鬼は再び、自分の腕を切り裂く。血霞は天鬼の血を吸った。

 それでも、柚月はひるむことなく構える。柚月はここで逃げ出すわけにはいかなかった。

 姉を妖狐に殺されて以来、柚月は誓ってきたことがあった。なんとしても朧を守る。たとえ、この身が引き裂かれ、命が消えてしまっても……。


「恐怖におびえぬようだな。実にいい!お前のような人間を待っていた!これで殺し合いができる!」


 天鬼は狂ったように笑い、構える。

 柚月は、天鬼の元へと向かっていく。天鬼は、柚月を迎え撃つかのように動かない。柚月は、銀月を振り上げるが、天鬼は、血霞で受け止める。

 だが、柚月は受け止められただけのはずなのに、はじかれたように大きくのけぞっていた。

 天鬼はその隙を逃すことはせず、柚月に斬りかかる。柚月は、銀月で受け止めようとするが、受け止めきれず、光の刃が打ち砕かれ、右腕を斬られてしまった。


「!」


 柚月は、とっさに跳躍して後ずさり距離を取るが、天鬼は、すぐさま柚月に迫り、蹴りを放つ。


「ぐっ!」


 柚月は塀に激突し、体制を崩された。

 だが、天鬼の攻撃は終わっていない。天鬼は無残にも血霞で、柚月の右の鎖骨の下あたりを貫いた。


「うああっ!」


「兄さん!」


 柚月の悲愴な叫び声を聞いた朧は術を中断させてしまい、振り向く。柚月は、血霞を抜こうと手で血霞を握るが、天鬼は、冷酷な表情を見せ、容赦なく血霞を押し込めた。


「うっ、あああっ!」


 柚月は激痛に耐えられず、顔をゆがませ、声を上げた。


「わめくな。あとでゆっくり殺してやるから、そこで待ってろ」


 天鬼は、血霞を放し、朧の元へと近づいていく。朧は、体を震わせながらも構え、天鬼に戦う姿勢を見せた。九十九も、朧の前に出て威嚇する。


「ほう。私と戦うつもりか?やってみるがいい!」


「うっ!」


 天鬼は、妖気を放ち、朧を吹き飛ばす。朧は社に激突し、倒れ込んだ。

 九十九も、飛ばされ、倒れてしまった。


「朧!」


 柚月は、焦りを感じて、血霞を抜こうとするが、血を吸っている血霞の力が増したため、柚月の体に再び激痛が走り、抜くことができなかった。

 天鬼は、ゆっくりと朧に迫り、朧は今日、初めて恐怖におびえてた。


「安心しろ。殺すことはしない。貴様には聞きたいことがある」


「聞きたいこと?」


「……九十九はどこにいる」


「!」


「九十九だと!?」


 柚月は、驚愕する。天鬼が狙っていたのは朧ではなく九十九だった。だが、九十九は朧が大事にしている小狐。天鬼となんのかかわりがあるのか、柚月にはわからなかった。

 だが、朧は動揺を隠せない。九十九について何か知っているようであった。


「どうして、九十九を?」


「……私は九十九を探していた。五年前に姿を消したあの日からずっとな。奴はどこを探しても見当たらなかった。ここにいるとはわかっていたが、結界のせいで、私は入ることができなかった。結界を打ち破ることは私でも不可能だ。探すのに苦労した」


 天鬼は淡々と語り始める。だが、その目に宿っているのは憎悪のように思え、朧は背筋に悪寒が走った。


「だが、やっと見つけた。九十九は確かにこの聖印京にいる。昨日の妖が九十九を見たからな」


「昨日の妖?あの千城家にいた妖か?」


 苦悶の表情を浮かべた柚月が問いただすと、天鬼は、にやりと笑みを浮かべる。柚月の問いに答えるかのように。


「そうだ。九十九に気付いたあの妖は、硬直して動けなくなった。だから、貴様はあの妖を殺せた。運良くな」


「じゃ、じゃあ、あの時、九十九は千城家にいたってこと?」


「そうだ。貴様を守るためにな」


 朧は、思いだしていた。昨日、自分が祈祷に行っている間、九十九がいつの間にかいなくなっていたと女房が教えてくれたことを。

 九十九は、千城家にいたのだ。妖から朧を守るために……。


「待て、貴様がなぜそれを知っている!」


 柚月はさらに問いかける。天鬼は知るはずのないことを語っていたからだ。あの場に天鬼はいなかった。

 だが、天鬼はなぜか全てを見ていたかのように語る。

 柚月の疑問に天鬼は答えた。


「……あの妖は私が生み出したいわば私の分身だ。私の目となって九十九を探していた。九十九の気配を感じ取ってはいたようだが、見つけることができなかった。だが、昨日、九十九を見つけ、殺された。そして、人間風情に殺されても妖気は自分のところに戻ってくるように私は仕向けていた。その妖気が私に告げたのだ。九十九は聖印京にいる。とな」


 天鬼は、朧の首をつかむ。朧は体をびくっとさせ、天鬼の腕をつかんだ。


「もう一度聞くぞ、小僧。九十九はどこにいる?この近くにいることは知っている。さあ、はけ。さもなければ、貴様を殺す。」


 天鬼は、爪を朧の胸につきつける。いつでも心臓をさせるぞと脅すかのように。

 だが、朧はひるむことはなかった。恐怖に怯えそうになるが、こらえて、天鬼をにらんだ。


「僕は確かに知ってる。九十九がどこにいるのか。それに、あなたが九十九に何をしたのか。僕は貴方を許せない。だから、九十九のことは絶対に言わない!」


 朧は、決意したかのように天鬼の脅しに屈せず、拒否した。

 朧の言葉を聞いた九十九は目を見開いたかのように驚いていた。


「そうか、口を割るつもりはなさそうだな。ならば、貴様には用はない。この場で殺すだけだ!」


 天鬼は、怒り狂ったかのように右手を引いて、朧の左胸をめがけて突きを放つ。柚月は、朧の名を叫び、痛みを忘れて血霞を抜こうとする。

 だが、鋭利な爪は朧に迫ってきていた。

 身動きの取れない朧は思わず目を閉じ、そらしてしまう。

 その時だった。

 九十九が、朧の元へ駆けだした。

 見る見るうちに、九十九は人の姿へと変わっていく。

 そして、間一髪で、天鬼の手をつかみ、朧を救った。柚月も朧も衝撃が走ったかのように驚いていた。

 それは、天鬼も同じであった。


「ちっ。勝手なことばっかしやがって。朧は殺させねぇぞ」


天鬼の目の前にいたのは銀色の髪に血のような赤い目を持つ妖狐であった。

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