第3話「灯火」
「へんなの、お昼なのに電気がついてるよ。」
友達が足を止めて指差す。
僕はその先に視線を合わせた。昼間なのに電柱に備え付けられた電灯が光っている。
それが妙に可笑しくて友達と二人でケラケラと笑いながら帰宅した。
これは小学生の頃の話。
田舎道。狭い道路は砂利道。歩道と車道は一体となっていて、路肩には草が生い茂っている。
田畑に囲まれたのどかな風景。
僕の通学路は半分以上がその光景だった。
次の日、友達が部活のため僕は1人で下校した。
見慣れた景色をぼんやりと眺めながら真っ直ぐと家に向かう。
携帯もポータブルゲームも無い時代、1人の下校は時間をもてあましてとてもつまらなかった。
昨日友達が指差した電灯にさしかかり電柱を見上げると、今日も変わらずその電灯は光を灯していた。
電柱の隣には穏やかな表情をした中年の女性が座っていた。
「こんにちは。」
「あら、こんにちは。」
僕の挨拶に驚いたように返す。
女性は僕の位置を捜すようにキョロキョロと見渡した。
「おばさん、なんでお昼なのに電気をつけてるの?」
「ふふ、それはね、おばさん目が見えないからお昼と夜の区別ができないの。夜に電気がついていないと危ないでしょう?だから一日中光っているのよ?」
「そうなんだ、すごいね!」
子供ながらに納得し先日「変だね」と笑ったことを謝ると、女性は優しく「いいのよ」と笑って応えてくれた。
数日後、僕は学校から飛び出した。
以前友達に「見える」ことを話した際に気味悪がられ馬鹿にされ、それ以来僕は1人で「見える」世界を見続けている。
電灯の女性が気になっていて話しかけたかったが、友達との下校だったために機会を逃し続けていた。
今日は待ち望んだ1人の下校。足取りは軽やか、僕は休むことなく女性の下へと走り続けた。
息を切らしながら電柱の下で辺りを探る。女性の姿が見当たらない。
おかしいな?と見上げると電灯が消えていた。
「おばさん?どこ?」
僕が呼ぶと、電柱の隣から青年が現れる。
「こんにちは、あの、おばさん知りませんか?」
僕の問いに青年が頷いた。
「彼女はね、視力を失ってから光り続けていたから。寿命がきてしまったんだよ。」
「じゅみょう?」
「…いっぱい光ってたでしょう?だから長いお休みを貰って、僕がかわりにきたんだよ。」
「そっか、おばさん頑張っていたもんね?いつ戻ってくるの?」
「…そうだね。もしかしたら別の場所にいったかもしれないね。」
「せっかくお話できたのになぁ。」
残念がる僕を青年がそっと撫でた。
青空に溶ける白熱灯の光。あの日から僕は昼に灯る街灯が愛しくなった。
僕たちが道に迷わないように。精一杯自分を削り照らしてくれている。
昼に光る姿は滑稽かもしれない、それでも僕はその姿を愛して止まない。
みえるひと 遊嵐 @youlan
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