第2話「独り」
「今日は何聴きたい?」
「バイトで嫌なことあったからさ。ロックがいいな。」
「つかさはロック好きだからね。」
アユがニコリと笑った。
「じゃあつかさのお気に入りの…」
アユが指をかざし選曲をし始めた時、ふと金網前にうずくまる女の子に目を奪われた。
ちょっとご年配が好みそうな花柄のワンピース。
妙に腹部が膨れ上がっていて、その表情は無気力。
僕はすぐに彼女が誰なのかを理解した。
「苦しそうだよ、助けて上げよう。」
選曲を中断したアユが、僕の裾を小さく引く。
二人でそっと近付き、「こんにちは」と声をかけると、彼女は肩を跳ね驚いた面持ちで僕たちを見上げた。
「そりゃ急に男二人に声かけられたらねぇ」
察したアユが苦笑混じりですかさずフォローを入れる。
そうだよな、と相槌をしながら僕は屈み目線を合わせた。
彼女は少し嬉しそうに微笑んだ。
「私、人間と話すのは初めて。」
とても可愛らしい声だった。
「具合が悪いの?」
僕の問い掛けに小さく俯く。
「もう‥半年以上も待っているの。」
膨れた腹を擦り、諦めた様に笑みを零す。
「ずっと吊されていたでしょう?梅雨の季節も挟んだせいか、お腹に水が溜まって…。それだけなら良いけど。」
軽く腹部を押すと、口の端から赤茶の液がドロリと流れた。
「錆びちゃったの。もう、私は役目を果たすこともできない。」
かける言葉を探していたら、彼女が顔を持ち上げる。
「でも、あなたたちが気付いてくれたから。」
言葉を言い終えると共にそっと僕の手を握る。
「私、生まれ変われる事が出来るかな。」
「そうだね。然るべき場所に送って上げるよ。」
「それなら安心。連れて行って。」
最後の声は凛と、明るかった。
金網に吊されている彼女を持ち上げ、止め金を外し静かに傾けると、錆びた大量の水が流れ出した。
横を通り過ぎる小学生達がまじまじと僕を眺めていく。
そりゃそうだよな。こんな晴れた日に男が花柄の傘をさしているんだから。
アユがクスクスと僕を笑った。
彼女の持ち主はどんな人だったんだろう。
何故ここに置き去りにしたのだろう。
「つかさは俺を置き去りにするなよ。」
「俺はアユに依存してるからね。」
「はは、依存するなら女の子にしたらよかったのにねぇ。」
「パステルピンクや黄色のスマホを男がもっていたら気持ち悪いだろ。」
なるほど、と、アユが手を叩く。
ほんの少しの寄り道を終え、僕たちは彼女を抱き再び帰路につく。
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