第7杯 賄い飯。

メンマ宅へ帰宅。


「いらっしゃーーい!ってお兄ちゃんじゃん!お店忙しいんだから早く手伝ってよー!」


メンマの妹ナルが夕方のラーメンラッシュに追われていた。


「おう!メンマ!帰ったか!賄い食ったらさっさと手伝えよー!」


「へいへい分かってるよー!たくっこっちは帰ってきたばっかだっつうのによ……」


「賄い?何それー?」


「ああ賄いね。賄いってのは働く人に与えられる限定メニューさ!」


(いいように言ったけど俺んちの晩飯なんだよな……)


「特別メニュー!!!パクもお手伝いするからパクにも作って!!」


「もちろんよーパクちゃんの分もあるわよー」


母親がそう言いながら何かを持ってきた。


(おいおいまさかあれって……)


「ほらメンマ早くご飯装いなさい!」


(やっぱりか……)


母親が手に持っていたまるで木の欠片のようなものそれは……。


「おばちゃん!これなーに?」


「これはね鰹節っていうのよー。」


「おいしいの!?」


「ええこれをご飯にかけて、卵の黄身と旨み調味料、それとうち特性の返しをかけて食べたらとっても美味しいわよ!!」


(やっぱり猫まんまだったか……)


(いやね確かにうちの猫まんまは黄身も乗ってるし、ラーメンの返しかけてあるから確かに絶品だし、お店にラーメン親父の裏メニューって出してるくらいいい出来だけどよ……賄い兼晩飯にはちょっと手抜きなんじゃないですかね……?)


メンマの顔はげんなりしてたがパクの顔はすごく晴れやかである。


「あらやだ削り鉋忘れたわ。今とってくるから待っててね」


母が厨房にかけて行った。


「これそんなに美味しいのかなぁ……硬いけどなぁ」


(はあでもまあ店忙しいし、しょうがねぇか……さっさと食ったら手伝ってやるかな)


そんなことを考えながら数秒パクから目を離し、再びパクの方を向くと口を抑えてうずくまってるパクがいた。


「おい!パク!どうした!何か悪いもんでも食べたか?!」


焦ってパクに駆け寄り、プニプニとした両の頬を両手の平を添えるとくいッとあげ、痛がってるところを見た。


「痛ーー!すごい硬いよこれ!絶対食べ物じゃないよー!」


「あはは。何だよ……そのまま食べたら硬いに決まってるよ。母さんが今持ってくるから待っててね」


「あーーー!そういえばメンマにぃ!!」


「めっメンマにぃ?!」


「さっきささっきさパクの事パクって呼んでくれたよね!!」


「あー確かに……ごめん咄嗟だったから……」


「ううん!いいの!どちらかと言うと名前で呼んでくれた方がぱ嬉しいなぁーー!かみさまに貰った名前だからね!」


「あっそうなの……?んーじゃあパクって呼ばせてもらうね?」


「うんメンマにぃ!!」


ニコニコと上機嫌なパクは先ほどの歯の痛みもどっかに飛んでいってしまったようだ。


「あらあら仲良いのね。仲良きことは良きことーなんてねー。ほらほらご飯をこっちに持ってきなさい」


パクは素直にご飯をよそわれたお椀を母親に差し出した。


「ふふふ。あらあら不思議あら不思議ーこんなかたーい鰹節がそれーーー!」


母親が鉋で、鰹節を削り始めた。


白いご飯の小山にひらひらと消り節が舞う。


「わーーーー!何これーーーー!魔法見たーーい!」


「魔法みたいって大袈裟ね。ふふ。ほらメンマ!熱々のうちに早く準備して!」


「おっおう」


白いご覧の上にひらひらと踊る削り節の上にメンマは大蔵屋秘伝のカエシをひと回し、真ん中に窪みを作ると卵黄をちょこっと乗せ、旨み調味料を振りかけた。


「うわーー!美味しそーう!いただきまーす!」


(美味そうに食べるよなーこっちまでお腹すいてくるわ)


メンマの腹の音がなった。


メンマもパクと同じものを作ると掻き込むように食べ始めた。


「ふふふ。やっぱり賄いは猫まんまよねーパクちゃん美味しい?」


「ばくばく。ぱくぱく。うん!この世界で食べたものの中で2番目に好き!」


「へぇーじゃあ1位はなんなのかな?」


「うーんとね。1位はおにぎりでしょ!次がこれでー!その次がーハンバーグでしょ!その次がー……」


「待ってくれパク……俺のラーメンは……」


「メンマにぃのラーメンはね……まだはってんとちゅう?って感じがするから圏外!」


「あっそうなんだ……」


(うっ……確かに咄嗟に思いつきだったけど……他の客も食べてくれたし……てっきり上位だと……)


「ふふふ。じゃあパクちゃん大蔵屋のラーメン食べる?」


「いいのーー!!」


「ふふ。いいわよ。こっちいらっしゃい!!」


(えーまだ食べんの……さっきラーメン梯子して賄い食って……パクの胃袋は無尽蔵かよ……)


パクが母親に連れられ厨房へと向かった。


「さて俺も着替えて手伝わんとな」


「お兄ちゃん!!遅い!!お客さんいっぱい来てるよ!!」


「分かってるてぇーー!」


妹に急かされメンマは店内に出ていくのであった。




最後の客が帰り、夕方営業が滞りなくいつも通り終了した。


「ふー。今日もいつも通り終わったー」


「何言ってやがんだ。これから屋台の仕込みだろうが!馬鹿野郎!」


「なっ!親父!今日も行くのかよ!」


「あたりめぇーよ!大蔵屋はな!屋台こそが真の姿なんだよ!それに今日は金曜だからな!仕事終わりで飲みに来る客が沢山いるのさ!」


「それは分かるけどよ……」


「分かったらさっさと麺打たねぇか!俺が肩やっちまって大蔵屋の麺うちはおめェに任せてんだからな!」


「へいへーい。あれ?そういえばパクは?」


「あぁパクちゃんはなナルと一緒に早く寝たよ!寝る子は育つってな!」


(確かにあんだけ食って早く寝たら育つわな……)


「よしよし。あとはこの鍋を屋台に積んでっと……うぐっがーーーーー!」


突然親父がうめき声をあげて膝をついた。


「さっさすが親父!鍋はこぼしてないな!」


「馬鹿野郎ぅ……まず親の心配をしろってんだ……いたたた……」


「おっ親父……?」


(う……なんか嫌な予感が……)


「メンマ……すまん……腰やっちまったみたいだ……」


「はぁ!この大量に仕入れたスープどうすんだよ!」


「だからメンマ……」


(まっまさかな……)


「俺の代わりに今日も行ってくれねぇか?」


(やっぱり……)


「小遣いは弾むからよ……」


「この間の分もまだ貰ってないんだけど?」


「すまねぇ……ツケで頼むわ……」


(この親父……はぁ……)


「明日全休だからな……しょうがねぇから行ってやるよ……」


「おう!よろしくーー!」


テヘッと舌を出しているが50すぎの親父のそんな顔みたくなんて無い。


メンマの夜はまだまだ続くのだ。

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