第8杯 2度目の屋台営業。
夕方営業が終わり、夜の仕込みが始まった。
本日の屋台ラーメンのお品書きは。
元祖大蔵屋ラーメン。
秘伝の醤油ダレに丸鶏と昆布等(もう一つは親父の企業秘密)を合わせたスープにナルト、メンマ、焼豚チャーシュー、ネギを添えた1杯。
麺は卵ちぢれ麺である。
メンマ特製豚骨カツオラーメン。
鰹節を山形県から取り寄せた甘め強めの濃口醤油に付け3日かけて出汁をとったタレと豚骨を粉々に砕いた白湯スープを合わせた濃厚スープに白髪ネギ、紅しょうが、鶏の解し肉の塩チャーシューを添えた1杯。
麺は加水率低めの細麺を使ってパツパツとした食感を実現。自信ある1杯である。
ニンニクを効かせた特製餃子。
その他お酒は瓶ビール、焼酎、日本酒、ハイボール、リキュール数種を取り揃えている。
「さてと仕込みは完了っと……あとは屋台の準備だな」
店の裏手に止めてある屋台を引っ張り出してくる。
木製で至る所にガタが来ている。
プロパンガスでつけるコンロも3回に1回はつかないこともあるし、貯水タンクもとうに壊れたから市販のスポーツ用のものを使用している。引くとギイギイなり、形を保っているのが不思議なくらいだ。
「こいつも稼いでんだから買い換えればいいのによ……」
何回か親父に提案したが「馬鹿野郎!俺の相棒をバカにすんのか!」って怒られた。
「これを引いていくこっちのみにもなってくれや……」
そうぼやきつつもメンマは支度をするのだった。
「さてっと行きますか!」
「うん行こう!」
「おう!ってパク!?」
屋台を引こうと気合を入れたところまさかの返事が返ってきた。
赤色のパーカーのフードを被り、白いハーフパンツを履き、黒タイツと白のスニーカーを身にまとったパクが目を輝かせてこちらを見ていた。
服は妹のお古を貰ったらしい。(タイツとスニーカーは母が買ってきたらしい)
金髪少女がフード被りながら上目遣いでこちらを見てる姿はそういう趣味がないメンマでもとても可愛い。
「パクも行くー!」
その言葉に先日補導されたことを思い出す。
「だめだめ!また俺が捕まる……」
「それなら大丈夫だよ!」
「大丈夫って……」
「いいから連れてって!連れてって!連れてって!」
駄々を捏ねる。(22時……)
「分かった分かった分かったよ!俺の側から離れるなよ」
「うん!」
「よしよしじゃあ行くか!」
「うん!!」
屋台営業が始まった。
常連のおっさん。
「おう!今日はメンマ坊の日か!まあとりあえずラーメン(親父)1杯な!あと餃子貰えるかい!ん?おお今日もパクちゃん手伝ってんのか偉いねーー」
夜のお仕事をしているお姉さん。
「あ!パクちゃーん。またお手伝いしてるのね!はいこれあげるーお客さんにチョコもらったんだけど私甘いのあんまり好きじゃないのよね。あっ私ハイボールとラーメン(親父)頂戴ね!」
ちょっと怖いお仕事をしている顔に傷があるお兄さん?+お付の子分×2。
「おうおう兄貴にラーメン(親父)とビールな!大至急!」
「ダメだよ!順番は守んなきゃ!」
「あ?なんだこのちっちぇーのは?」
「馬鹿野郎!」
子分1が子分2にぶん殴られた。
「パクさんになんて口利きやがる!兄貴の認めたお方だぞ!」
「へ?マジすか……すいやせん!許してくだせぇ!」
「こいつまだ入って日があせーんです許してやってくれ」
「うんいいよ!」
パクはあっさり許した。
「兄貴がな落とした財布をなこの子は事務所まで持ってきてくれたんだぞ!すげー勇気だよな!まぁでも旦那の知り合いなら納得だわな」
「へぇーそうなんすか……俺も最初あそこ入る時心臓止まるかと思いましたよ……パクさん!いや姉さんと呼ばせてくだせぇ」
「おい!!!おめぇら邪魔してんなよ!こっちきとけ!!」
「「すいません!」」
トコトコと席に戻って言った。
お巡りさん。
「どうもーお疲れ様です……」
(やばっ……この前のお巡りさんだ……)
「お巡りさんこんばんは!」
「パクちゃーん今日も手伝ってたのご苦労様です!」
パクとお巡りさんは敬礼しあってた。
「あ!息子くんこの間はごめんね!ラーメン(親父)と餃子3セットテイクアウトお願い!」
その他にも色々な人が屋台を訪れた。
みな一様にパクに何かものを持ってきたり、とても親しくしている。
「パク……もしかして結構手伝ってる?」
「うん!毎日おじちゃんと来てるよ!」
(マジかよ……毎日……)
「うん……そうなんだ……うん……」
メンマはなんか凄いやるせない気持ちになった。
「よしそれならガンガン売るぞ!!」
「うん!」
その日は閉店までお客さんが途切れるようなことはなく屋台営業は滞りなく終わった。
「いやーパクのお陰なのかなぁ今日は忙しかったよ……さてと店じまいして帰ろうか」
「ふふふーまだ帰らせないよ!メンマにぃ!」
「へ?」
「異世界渡航!!発動!!」
パクを中心とした5m程に魔法陣が描かれるとメンマ、パク、屋台諸々はこの世界から姿を消したのである。
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