第5杯 麺活

朝起きると布団の中に自分以外のなにかがいる。


これは髪の毛だろうかさらさらでツヤツヤの長い髪の毛。


その髪の中にはモチモチとしてプニュプニュの人肌の感触。


これより下はむやみに触らない方がいいだろう。


俺はどこかのハーレム漫画の主人公ではないのだ。


静かにベットから降りると布団を両手でつかみ剥ぎ取った。


「……」


そこには気持ちよさそうな顔をしてすやすやと眠っている昨日保護した少女がいた。


(うおっこいつ妹の部屋で寝たんじゃないのか!)


「んーーお兄さん?」


「パクちゃんなんでここで寝てるの?」


「あっ!パクお兄さんを起こしてっておじさんに言われて!」


「一緒に寝ちゃったと」


「ごめんなさい……」


明らかにしゅんとするパク。


「ま……まあ全然大丈夫だよ……何も問題ないさ」


ふと時計を見る。


9時56分。


2限開始時間10時10分。


通学時間バイクで15分。


単位……危なし……。


「うおおおおおおおお」


そこからのメンマは速かった。


着替えを済ませ、朝食である賄い油そば(コロコロチャーシューと特性醤油と鶏油で和えただけの手抜き)を掻き込み、顔、歯を磨き、玄関を出るまでかかった時間実に3分。


愛車のCB400Fに跨り、家を出発した。




「おおメンマギリギリやったな!先生まだ来てへんからセーフやで」


「お前いっつも遅れてくるよな……」


「わりぃわりぃ」


この関西弁のショートカット茶髪は兵藤真希、大阪の老舗中華系ラーメン店天鳳の跡取り娘である。


この呆れ顔のメガネイケメンは新庄塁、ラーメン界に新しい風を巻き起こすと話題の店☆ミライ☆の次男坊である。


メンマたちはラーメン屋の後継として意気投合し、日々ラーメン談義に花を咲かせている。


「おい!」


「ん?」


「ルイお前ん家今度はチーズ麺使ったトマトラーメン作ってるのかよ」


「はぁーホンマなんか?邪道や邪道!」


「新しいラーメンを作るのがうちのモットーだからな」


「無料券くれよ」


「せやせやうちの餡掛け野菜ラーメンも食べさせてやるから食べさせてぇーやー」


マキはなあなあとルイを揺らしていた。


関西人の押しの強さには頭が下がる。


「しょうがないなぁ帰り寄ってくか?」


「「もちろん!!」」


授業終了後……


「よーーし麺活始めよーーー!」


「「おおーーー!」」


「まずどこいくん?」


「隣町のくるまやはどうだ?」


「いいねーあそこの塩白湯は絶品だよなー」


「えーうちは五駅先の楠木家がいいなあ」


「あああそこの家系もいいよなぁ」


「悩みどころだな」


「せやなー」


「でもこれからチーズ麺のトマトラーメン食べるのに白湯とか家系重くね?」


「「あー」」


「てかさーさっきからメンマの後ろにいる子誰?」


「え?」


メンマが振り向くとそこにはパクがキラキラした目で涎を垂らしながらメンマの裾を掴んでいた。


「もしかして何か食べ物の話してた?」


「えっとパクちゃん?どうしてここに?」


うんーー?という顔をしながら


「えっとねおばちゃんにね暇ならお兄ちゃんにお弁当を届けると任務を託されたのです!」


「おいおい母さんのやつここまで一人でこさせたのかよ……」


「ううんそこまでおじさんに送ってもらったー」


校門の方を見ると軽トラからグットサインをおくり、んじゃあとよろしくとばかりに車を発射させた親父の姿が……


「あの野郎……」


「メンマメンマーこの子なんなん!?ちょー可愛いーーもしかして親戚かなんかーー」


「ほーーメンマに外国人の親戚がいたのかーふっ似合わないな」


「うるせー昨日預かったんだよ……」


「え?預かったってなんなん?」


マキとルイに事情を説明する。


「うっうー寂しい話やなぁーなんでもお姉ちゃんにいいなーうちのラーメンならいつでも食べ放題やでー」


(それは赤字になんじゃないのか?パクちゃん意外と食べるぞ……)


パクは今朝仕込んどいた鍋を殻にしたと衝撃の情報が妹からメールできた。


「ふん……甘すぎないか?他人だろ?」


(おいおいルイセリフと行動が一致してないぞ……無料券の束渡しながらいう言葉ではない)


「マキお姉ちゃん!ルイお兄ちゃん!ありがと!」


「「ぐほぉ!」」


マキとルイがパクの可愛さにやられたようだ。


そういうメンマも巻き添いを食らったのか胸に手を当てている。


「それじゃパクちゃんを加えて麺活やーー」


「ちっなんでも食べていいぞ」


(遂に言葉にもデレが出てきたな)


ということでメンマ、マキ、ルイ、パクは四人で行動することが決まったのだ。

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