第4杯 家族が増えましたよ。

金髪の少女はキラキラとした目をこちらに向けていた。


「えっと……なんて言ったのかな?」


「お兄さん!パクと一緒に異世界でラーメン作ろ!っていったんだよ?」


(え……異世界?それってあの漫画とかアニメに出てくるやつかな?)


少し思考を巡らせたメンマだったがありえないと首を振った。


「パクちゃんでいいのかな?異世界って何?」


「うーーんとね!ドラゴンとかフェアリーとかがいる世界だよ!」


「へーすごいね……お兄さんもいってみたいやー」


メンマは子供の夢見る妄想だろうと気軽に答えた。


「本当!じゃあ一緒に行こう!!」


パクと名乗る少女はメンマの手を掴んだ。


「えっ……ちょっと待って……本当に?」


「うん!早く来て!」


「でも屋台持っていかなきゃ……」


そう言って少女の手を振りほどいた。


「今、一緒に行きたいって言ったじゃん……嘘ついたの?」


今にでも泣きそうなパクに向かって「えっ……いや……そんなつもりじゃ……」とオロオロするメンマ。


その時、パクがどこかに走り出した。


「えっでもちょっと待って!」


メンマは慌てて後を追いかけた。


「ちょっと待てってば!」


ようやく追いつきパクの手を掴んだそこは……赤いランプがつき、白と黒に塗装された車があり、藍色のユニフォームを着た人がいるところであった。


「あのー助けてくださーい!」


「え?」


パクが突然その中にいる人に向かって大きな声で叫び始めた。


「ちょちょちょっと!どうしたの!?」


「かみさまが困った事あったらここに来なさいって言ったんだもん!」


「神様の野郎……いやお兄さんにそんなつもりはなかったんだよ……分かった!異世界行くよ!異世界!だからここから離れよ!」


「やったー言質とったよー!」


パクにうまく言いくるめられた感が凄いがこの時点でメンマの運命は大きく動き出すのだ。


すぐさまこの場を去ろうとしたが時すでに遅し……。


「ちょっと君!何している!」


「いや俺別に何もしてないっす!この子に頼まれて異世界行くんです!」


「何わけのわからないこと言ってんだ!」


「いや本当なんですって!」


「お嬢さんそうなのか?」


「うん!パクねこの人と一緒にライクに行くの!」


メンマの顔から血の気が引いた。


ライクとはこの地方で有名なラブホテル「ライク&ラブ」を連想させる言葉だったからだ。


「君……話を聞かせてもらえるね?」


「…………俺は冤罪だーーー!」


メンマはそう叫ぶと警察官の1人に奥に連れていかれた。


「お兄さんどこ連れてくの!」


「お嬢さん。彼には色々と聞かなきゃいけないことができたんだよ……」


「なんで!パク一緒にライクに行くのに!」


「お嬢さん落ち着いて……まず名前を教えてもらえるかな?」


パクはメンマが連れていかれた方向を寂しげに見ながら。


「パクはパクって言うんだよ……」


「そうかそうかパクちゃんか。お父さんかお母さんはいるかな?」


静かに首を降るパク。


「訳ありなのかな……まさか彼が誘拐してきたのかも……」


「違うよ!パクはかみさまと一緒にこの世界に来たんだよ!」


「この世界?神様?えーとじゃあその神様になにか貰ってなかったかな……?」


「あっ!これ貰った!困った時にあの帽子のお兄さんに渡しなさいって!」


警察官はその紙を受け取るとそこには電話番号が記載されていた。


「ここに電話かけるけどいいかな……?」


パクは電話がなんなのかは知らなかったがコクリとうなづいた。


その頃メンマは……。


「君……あの子に何しようとしてたの……」


「いやあの子は屋台のお客さんで一人で来たんすよ」


「あんな小さい子が飲み屋街を1人で来るわけないだろ!」


「まじですよ……そうしたら一緒に異世界に行こうって言われたんですよ!」


「なんだ!?異世界ってあのホテルのことか?ふざけるなよ!?」


(ダメだ……何言っても信じてもらえない……)


「もういいから……親御さん呼ぶから番号教えなさい」


「いや……親父たちだけには……別に悪いことしてないですけどなんか嫌です……」


メンマが拒否を続ける。


「君ねぇこんなことしてどうなるか分かってないの?」


「………………」


メンマは黙秘を続ける。


その時。


「お巡りさんご苦労様です!どうかなさいましたか?すぐに来てくれだなんて?」


(ん?この低いこぶしの入った独特の話し方は……)


ちらっと正面を覗いてみると……。


「おっおやじ!なんで!」


「えっ?あの人が親父さんなの?」


「おうメンマ!前に屋台止まってたからどうしたかと思ってたぞ」


「大蔵さんとこの長男でしたか……」


「おう!そうなんですよ!今日は俺の代わりに屋台やらせてたんですよ」


「おやじなんでここにいるんだよ……」


「何でって電話で呼ばれたからに決まってるだろ」


(ん?どういう事だ?俺は喋ってないぞ?)


「そんでお巡りさんどうしたんでい?」


「実はですねこの女の子何ですが……この子の持っていた緊急連絡先のようなところに掛けたら大蔵さんとこに繋がったんですよ……」


「へ?俺じゃないの?」


「我々も驚いてるんだよ……被害者の持っている電話番号に掛けたら被疑者の父親が来たんだからね……どういう事ですか?」


少しの沈黙のあと初めに話し始めたのはメンマのおやじ大蔵信之であった。


「なあお嬢ちゃん。その紙は誰もらったんでい?」


「かみさまだよ!白いおヒゲが生えてて優しい顔してるおじいちゃん!」


「やっぱりなあ。そのじいさんよくうちのラーメン出前してたんだよ!ポストに手書きのメモが入ってて時間と場所と注文していく変わったじいさんでなその時の字にそっくりだからよ気づいたよ」


よくメモを見ると電話番号の下に河川敷、大蔵ラーメンと書いてある。


「ありゃりゃかみさま間違えちゃったのかな……おっちょこちょい」


メンマと警察官ふたりが何のこと?と首をかしげている中。


「そんでお巡りさんそれだけですかい?」


「いや大蔵さん。お宅の息子さんがこの子をそこのホテルに連れ込もうとしてたんですよ」


話がだいぶ湾曲している。


「おいメンマ!!それは本当なのか?」


怒号のような気迫を乗せ信之が叫んだ。


「いや俺はしてないよ」


警察官2人がびびる中信之の目をじっと見て真面目な顔で返答するメンマ。


「そうか……」


信之はそう言うといつもの顔に戻り。


「お巡りさん!息子はそんなことは絶対しない奴です……多分なんか勘違いやら偶然やらが重なったんでしょう……ここは俺の顔を立ててくれはしないっすかね……」


警察官2人は先ほどの怒号にビビったのか少しフリーズしていたが我に帰り。


「おっお嬢さんは本当に何もされてないんだよね?」


「うん!お兄さんはね美味しいラーメン食べさせてくれたし!とってもいい人だよ!」


「そっ、そうですか……大変申し訳なかった……勝手に疑ってしまって……」


深々と警察官は頭を下げた。


「いやそれが仕事だから仕方が無いですよね……疑うのが仕事なのは辛いと思います……俺も疑われるようなことしたのが行けなかったんすから……すいませんでした……」


メンマも頭を下げ、それを見た信之は静かにうなづいていた。


「お巡りさん!この子の身柄もうちで預かるわ!またじいさんが出前頼んできた時にでも一緒に連れていきますよ」


「はっはい!大蔵さんなら安心です!どうぞよろしくお願いします!」


(おやじ……町内会でも上の方にいるのはわかってたけど結構みんなに信頼されてんだなぁ……)


「おい!メンマ!嬢ちゃん!帰るぞ!」


「おう!おやじ!」


「パクも行っていいの?」


「もちろんでい!遠慮せずに寛いでいきな!じいさんもそのうち来ると思うからよ!」


そう言うと信之は屋台を引き始めた。


メンマも後ろから屋台を押していた。


パクはキラキラとした目でメンマの横に来ると屋台を押す振りをしていた。


「お兄さん!よろしくお願いします!」


「ああ……よろしくね……」


パクは異世界に行くと言ったことを忘れたかのようにこの日はメンマと共に大蔵屋と隣接する我が家に帰ったのだった。


パクは警察からの電話で起きてしまっていた妹と母親にもすんなりと受け入れられこの夜は妹の部屋で一緒に寝た。


メンマもいろいろのことがあったせいかシャワーを浴びると気絶するように眠りについたのだった。

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