第3話:夢売りの舞③

 私が住んでいるこの『林檎喫茶』では、なぜか季節という感覚がありません。

 なので季節限定メニューなんてものもないわけで…。

 それでも、遊びに来てくれる常連さんは色んな食材を持ち寄ってくれるので、変わった特別メニューが誕生したりもするんです。

 飲み物もその時の気分で皆変わるんだけど、愛華さんだけはお酒を飲むんです。

 もちろん毎日ではないんですけが、時々お酒を注文してはこんな風に眠ってしまうんです。


「あれ…?」


 でも、今日は珍しくグラスの数がいつもより多いような…。

 カウンターの上には、水たまりをつくっている3個のグラス。

 私が居ない時に、たくさんお客さんが来ていたみたい。

 虹輝さんはまだお店に来ていないけれど、グラスを片付ける事にした。


 グラスを拭きながら、無意識に口遊むのは“荒野の果てに”だった。

 最後のグラスを棚に置いた時、クスクスと笑い声が聞こえてきたのでドアの方に振り向くと、笑いをこらえようと震えている虹輝さんが立っていた。


「食器の片づけをしてくれてありがとう」

「いいえ。いつも虹輝さんがしてくれているので」

「今日はもう大丈夫だから、ゆっくり休んでおいで」

「わかりました。…あ、そういえば」

「…ん?」

「虹輝さんは、蒼さんという方を知っていますか?」

「あの2人に何か言われたかい?」

「えっと…その、お洋服を頂いたので」

「『お礼をしたい』って?…そんなの気にしなくて大丈夫だよ。アイツが勝手にやってるんだろうし」


 後ろ髪を引かれる思いで、ドアを開け振り返ると虹輝さんは笑顔で手を振ってくれた。


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