第3話:夢売りの舞②

『誰が名付けたか知らないけれど、役者の演技には

 憑依型や共存型といった演じ方があるらしい。

 もしも、憑依型のその先へ行こうとする者に出会ったら気をつけなさい。

 いつかその者は、飲み込まれてしまうかもしれないからね』


 林檎喫茶では、基本的にお酒とかのメニューはないんだけど、私が眠った後には虹輝さんがたまに作って出しているらしい。

 だからたまに…。

 ごくたまに、朝ご飯を食べようとお店に行くと、愛華さんがカウンターで眠っていることがある。


「大人って大変なんだなぁ…」


 お店のドアを開けると、今日もカウンターには眠っている愛華さんの姿があった。

 お仕事が大変で疲れているのかもしれない。


「また寝ちゃったんですね。風邪をひいちゃいますよ?」


 愛華さんの事を起こそうと肩に触れようとした時、お店のドアが開いた。


「よっ!久しぶりだな。」

「お久しぶりです、実喜さん。」

「あ、お久しぶりです。朱杏しゅあんさん、仁紫にしきさん」


 来店したのは、以前一冊の本を虹輝へ届けに来た二人だった。

 また、虹輝さんに何か届け物があるのだろうか。


「今日は、実喜さんにお届け物があるんです。」

「え、私に…ですか?」


 誰からだろう…。

 私が此処に居る事を知っている知り合いがいたのかな。


「これは、私が住んでいる館の主から実喜さんへ。」


 仁紫さんから受け取った袋の中には、フリルがたくさんついたワンピースが入っていた。

 このお店に来る前だって、こんなに可愛いワンピースは着たことがなかった。


「あ、ありがとうございます」

「いいえ。これは、せめてもの贈り物ですから。」

「俺達は、ここの客にできる事はなんにもないからな。」

「だから、せめて貴女だけでも精神負荷を減らしてあげたいんです。」

「それに、お前は気づいてないかもしれないけど、今着てる服も蒼が贈ったやつだしな」


 朱杏さんの言葉に、自分の服を改めて見つめる。

 そういえば、今着ている服は私が元々着ていた服ではない。

 この家には虹輝さん以外に住んでいる人は居ないみたいだし、この服は用意してくれていたんだと思っていたけど…。

 蒼さんが私のために用意してくれていたんだ…。

 私は会ったことがないけど、いつか直接会ってお礼が言いたいな。


「主は、普段館から出られないんですが、いつかきっと実喜さんに会いに来てくれると思いますよ。」

「まぁ…蒼が此処に来る時は、色々と覚悟をした方がいいかもな。」

「朱杏。不安を煽るような言い方はやめなさい。」

「……」


 朱杏は不貞腐れた様に顔を背け、頬を膨らませている。


「実喜さん、ごめんなさい。でも、主が貴女に会いたがっているのは本当ですよ。」


 2人の用事は、私に服を渡す事だけだったみたいで、お茶も飲まずに店を出て行ってしまった。

 会話に夢中で忘れかけていた愛華さんの方に視線を向けると、まだ眠っていた。

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