第2話:乙女の独奏曲④

 小包のリボンを解くと、中にはカラフルな金平糖が入っていた。

 私のおばあちゃん家で出してもらった金平糖は、ほとんど白色しか入っていなかったから、こんなにもたくさんの色が入っていると…少しだけ幸せな気持ちになれる。

「…あ」

 でも、この金平糖は虹輝さんへの紅茶代だから、私の分じゃないのか…。

「欲しい?」

「え…」

「その金平糖、実喜ちゃん食べたいんじゃない?」

「でも…」

「つーちゃんは興味津々みたいだけどね」

 虹輝さんは、哀歌さんの事を『つーちゃん』と呼ぶ時がある。

 常連さんに『あいか』さんが2人いて、どっちの話しをしているのかわかりにくいからみたいなんだけど…。

 虹輝さんの言葉に視線を移動させると、哀歌さんが私の持っている小包をじっと見ている。

「哀歌さんは、金平糖好きなんですか?」

「金平糖…初めて見る。ねぇ、この赤色と黄色のやつ貰ってもいい?」

哀歌さんは、視線を小包から離さずに虹輝さんへ問いかける。

「今日は、とても素敵な歌を聞かせてくれたからご褒美だよ。帰ったら一緒にお食べ」

 虹輝さんは、私から小包を受け取ると2色の金平糖を数粒だけ別の袋に入れて哀歌さんに渡していた。

『帰ったら一緒に』って…哀歌さんは誰かと一緒に暮らしているのかな。

「それから、ご褒美はもう一つ。」

 カウンターの上には、新しいティーカップが2つ置かれた。

「これは、実喜ちゃんと哀歌ちゃんへのご褒美だよ」

 どこから見ても、いつも作ってくれる林檎の紅茶と同じなのに…『これがご褒美?』なんて不思議に思って首をかしげていると、虹輝さんがお砂糖の代わりに金平糖を2つ入れてくれた。

 白い金平糖が紅茶の中で、じんわりと溶けながら色が変わっていくのを二人でただただじーっと見つめていた。

「金平糖って、なんだかお星さまみたいですよね」

 視線をティーカップから哀歌さんに移しても、哀歌さんの視線は動かなかった。


「お星さま…私が探している一番星は、いつになったら見つかるのかな」


 ゆっくりと時間をかけて冷めていくティーカップに話しかける哀歌さんの姿を、虹輝さんは一瞬ちらりと視線を向けただけで言葉を返すわけでもなく、食器を片付ける手を止めなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る