第2話:乙女の独奏曲⑦

 どうやら…寝てしまっていたみたい。

 瞼を開けると、話し声が聞こえてきた…。


「それじゃあ…。もしもまた彼女が逃げ出してしまった時には…」

「いいえ。きっともうそんな日は来ないでしょう。」

「だって、私達は…また歌えるようになったんだから」


 虹輝さんが、2人の女性とお話しをしている…。

 1人は哀歌さんの声だけど、もう1人の女性は私の知らない声だ。

 愛華さんの声でもないし…誰だろう。


「実喜ちゃんは私達を、解放してくれた」

「きっと、貴方の事も解放してくれる。」

「……」

「私達は、これから楽園のあるじに挨拶をしに行ってくる」

「針は動き出してしまったの。」

「「さようなら、神に愛されている子達」。」


 私も会話に混ざりたいけど、体が動かない…。

 お店のドアを開けて哀歌さん達が外に出て行ってしまう。

 まだ、練習した『荒野の果てに』を一緒に歌えていないのに…。

 一瞬、本当に一瞬体の糸が緩んだ気がしてドアの方を向く。

 すると、見たことない女性がドアの外に出ようとしているところだった。

 白いワンピースを着た、髪の長い女性が振り返ると視線が合った。


「貴女が実喜ちゃんね。私の歌姫を目覚めさせてくれてありがとう。」


 名前も知らないその女性は、優しい笑顔で私に向かって手を振ると、ドアの外へと出て行ってしまった。

 女性の姿が見えなくなると、店の中は一気に静かになった。

 私はいったい、何のために歌を練習していたんだろうか…。

『哀歌さんと一緒に歌いたい』という夢はもう叶わないんだ…。

 少し落ち込んでいると、虹輝さんが温かい紅茶を淹れなおしてくれた。


「きっと、いつか練習した歌を披露できる日がくるだろうから」

「…でも、もう一緒に歌えない」

「それか、僕のために歌ってくれてもいいんだよ」


 そっか…。

 私はずっと、『哀歌さんと一緒に歌いたい』ということばっかりで、『誰かに聞いて欲しい』というのは考えたことが無かった。

『誰かのために歌う』っていう事を考えた時、頭の中では待ち人の面影が浮かんで消えた。

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