第1話:紅い林檎⑧
「そういえば、実喜ちゃんはどうやってこの家に来たんだろうね」
林檎の樹に背を向けて虹輝は呟いた。
私も林檎の樹に背を向けてみたら、視線の先には玄関の扉があった。
「この家には、魔法がかかっていてね。誰もこの扉から入る事も、出る事もできないんだよ。…ま、例外もあるんだけどね」
「そういうのって、魔法じゃなくて呪いって言うんじゃないですか?」
森にある幽霊屋敷とか、ホラー映画によくあるシチュエーションみたいだ。
「残念ながら、呪いじゃ無いんだよね。」
「呪いじゃ無い?」
「そう。物事はなんだって、捉え方によって色々なんだよ」
虹輝さんは、『例えばさ…』と私の左胸に、人差し指をあてながら話を続けた。
「この家が“実喜ちゃんの心”だとします」
「…また唐突な」
「“実喜ちゃんの心”だとします」
「……はい」
また始まった。まるで教育番組で放送しそうな内容を、虹輝さんは唐突に
「実喜ちゃんは、どんなに酷い事を言われても、平気な顔をして過ごしていましたが、“実喜ちゃんの心”に住んでいる小人さん達は、 “実喜ちゃんの心”を護る事に必死です」
“小人”って…。私、もうそんな説明を受ける年齢じゃ無いんだけどな。
「小人さん達は、日を追うごとに傷付いていく“実喜ちゃんの心”に耐えられなくて、城壁の様に頑丈な壁で囲い、複雑な形をした鍵穴の南京錠で“実喜ちゃんの心”に施錠してしまいました。」
「主人の意思には関係無く、勝手にそんな事をするんですか?」
「…そうだよ。人間ってのは、そういう風に出来てるんだってよ。都合の悪いことは記憶から消しちゃったりとかするのも、小人さん達が護っているからなんだ」
『おいで』と、虹輝さんに手を引かれて玄関の扉の前まで連れていかれた。
「“実喜ちゃんの心”を護る為に、小人さん達がした事と、この家の魔法は同じだと僕は思っているんだ」
「それって…。誰かが虹輝さんを護る為に、この家に閉じ込めているってことですか?」
「少なくとも、僕はこの家から出たいわけじゃ無いから、そう悲観しなくても大丈夫だよ。まぁ、実喜ちゃんもこの家から出れないから、迷惑かけちゃってるけど」
「それなら大丈夫です。私は元々、あの部屋から出るつもりはなかったんですから」
「…まぁ、別の家に来ちゃってるけどね」
「虹輝さんを護ってる方は、私の事も護ってくれますか?」
「……うん。きっと護ってくれるよ。彼女はとても優しい子だからね」
…なぜ、貴方はそんな寂しそうな
虹輝さんは会いたいと思っているけど、会いに行けなくて寂しいのかな。
「会ってみたいなぁ」
虹輝さんに辛い思いをさせる人に。
虹輝さんの意思に関係なく、閉じ込めてしまった人に。
虹輝さんを、いつかこの家から出してあげたいな。
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