第4話彼女との勉強会
「ま…ね……る……しゅ……つ………と………」
何かが聞こえる。先ほどの声とは全く違う声だ。
……俺を呼んでいるのは…誰だ?
「グライさん!ぼーっとしてませんか!」
そう言ってあいつに頬をつねられた。
「痛いっての!……文字なんて見たこともねえからわかんねぇんだよ……」
「だから今こうして教えてるんじゃないですか!いいですか!?この文字は…」
…何を言っているのか、俺にはさっぱりわからない。何だこの紙がたくさん重なってできているものは。それに小さな絵のようなものがたくさん描いてあるし。俺にはこれの価値というものが全く分からんぞ…。
「だーかーらー!聞いてますか!今大切なところなんですからしっかりと聞いてくださいよ!」
「……はぁ、めんどくせえ」
「これも、貴方の為です!こんなところから出たいのなら、これくらいの事知っておかないと生きていけませんよ」
「…そんなに外は息苦しい世界なのか?俺はもっと…あったかいという感じだと思ったんだが」
俺がそう言うと、アンナはそうですねと言い俺の目の前で腕を組んだ。どうやら俺の質問の答えを探しているようだ。
「…おそらくグライさんが見たそれは、幸せではないですか?」
幸せ…聞いたこともない言葉だ。
「幸せっていうのは…なんでしょうね。感じ方は人それぞれだと思いますし、私は父と母と一緒にいる時が、幸せだと感じます。…貴方は何か…その、あったかい気持ちというものはどのような時に感じますか?」
「………………お前といる時かな」
俺が一言そう言うと、何か変な音が真横で聞こえた。
横を見ると、アンナが顔を真っ赤にして体をわなわなと震わせていた。
「…アンナ?」
「……貴方って人は……っ!」
アンナはそう言うと、俺の事をポカポカとその細い腕で叩いてきた。
そんなことを繰り返しているうちに、気が付けば日が暮れかけていた。
流石に日が沈む前までには、彼女を外に返してやらなければならない。
「今日はおしまいですね。また明日来ます」
「…物好きだよな、お前も」
「これは、助けてもらった恩返しですよ。いつまでも私がパンを持ってくるなんて考えないでくださいね?」
「はいはい、気を付けて帰れよ。じゃぁな」
「はい、また明日です」
そう言ってアンナは俺の領域としている場所から表街道へ向かって走っていった。
…また、明日……か。なぜかこの言葉を聞くたびに、俺の心は少しだ不思議な気持ちになる。…これはいったい…なんだ?
「全く…ブライさんは、なんで急にあんなこと言うのかなぁ…」
思わずびっくりして叩いちゃったけど…大丈夫だよね?
うん、大丈夫。私そんなに力強くないし、あんなにがっしりとした体なら…って私は何を!?
うぅぅ…恩返しであそこに通っているはずなのに、最近は何というかその…グライさんと話したいからあそこに通っているというか……。
この気持ちは…いったい何んだんだろう。
アンナは小さな溜息をホゥと一息ついた後、親が心配しないように速足で自宅へと帰った。そして、そんな彼女を遠くから見る人影があった。
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