第3話動き出した彼女との時間
体を誰かがゆすっている。うっすらと眼を開けるが外はまだ暗い。
「……て、お………ん。…う……じ……だ…」
誰かが何かを言っている。なんと言っているのだろうか。頑張って何を言っているのかと音に集中してみたが、睡魔には勝つことができず、俺はそのまままた眠りについた。
「グライさん!」
耳元で大声であいつに叫ばれた。せっかく良い心地で眠っていたというのに。俺は重たい瞼を半分ほど開ける。そこには両手を腰に当て、地面に寝ているこちらを見て少し怒っている人がいた。
「…何だよアンナ」
「何だじゃないですよ!もう昼過ぎですよ!いい加減に起きてください!」
そう言ってアンナは自分の手を掴むと、俺の事を力いっぱい引いて体を起こそうとしていた。…だが、アンナは非力だ。そんなことできるはずもない。そうやって、俺を起こすことができないままずっと俺の事を引っ張っていると、アンナの手が俺の手から滑るように離れると、その場にしりもちをつきその場で悶絶していた。
「……痛そうだな」
「なら、早く起きてくださいよ…」
アンナはこちらの事を涙目で睨みながらそう言った。
「後…ひとついいか?」
「何ですか」
「……見えてるぞ」
俺がそう言った瞬間、俺は思いっきり顔をひっぱたかれた。
アンナとのこの奇妙な関係は、あの時アンナを助けた時に始まった。あの日から朝目覚めると、俺の横に籠一杯のパンと、それなりにしっかりとした服や生活用品などがいつの間にか置いてあった。初めは俺を誰かが殺そうとしていて、こんな小細工をしているものだと思い、初めは手にすら付けなかった。だが、毎日のように、こういうものが置いてあるようになると、誰かを疑うというよりは、誰がこんなことをしているのだろうと思うようになった。そしてある時、こんなことをいったい誰がしているのか確認するために目を閉じ寝ているふりをして待っていることにした。長い間待ち日が昇り始めたその時だった。あの時の彼女が姿を現したのは。
まず俺は彼女がここにまだ日が昇りきらないうちに来たことに驚いた。彼女には光の世界に返す時に何度も話をしたはずだった。ここは危ないと。なのに、彼女はその足で自らこの世界に入ってきていた。だから俺はたまらず…
「お前…何してんだ」
寝ているふりをしているはずだったのに、彼女にそう話しかけてしまった。そこから、この奇妙な関係が始まった。
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