第8話  それからの僕たち


僕たちはあれからも小屋へと通い詰めた。

いつもは夕方に集まってたけど、その時間帯だけじゃなく、朝や夜にも訪れた。

そして、深夜0時となった今もここに居る。


全てが空振りだった。


ポッカリと口を開けていた大穴は、今ではすっかり塞がっている。

塞がっているというよりも、そもそも最初から穴なんか無かったように、雑草が生い茂っている。



「今日もダメか。どうして行けなくなっちゃったのかな……」

「なんでかしらね。法則でも有ったりする?」

「うーん。ゲームだったらフラグ立てが必要な場面だよなー。ボスを倒したり、アイテム持ってくるとかさ」

「ボス……」



もしかして、あの鎧の男を撃退したせいだろうか。

何かしらの理由があって、僕たちが倒す必要があった?

だからあの世界に向かう必然性を失ってしまった……とか。

なんだか本当にゲームみたいだ。

それを言い出したら、あの森の存在も十分ファンタジーだけどさ。



「もう少しだけ協力してくれないかい? せめて明日。明日ダメだったら……」

「こんの悪ガキどもめ! 夜中に集まって何をしとるかーっ!」

「うわぁぁああ!」



突然後ろから怒鳴り声が聞こえた。

飛び跳ねるように驚いた僕たちは、その場で尻餅を着いてしまう。

声の主はおじいさんで、出入り口を塞ぐように立っている。



「ここで何をしようとしていた! 酒か? それとも良からぬ事か?!」

「勝手に入ってすみません! 僕たちは、その……」

「おや、手に持っておるのは、もしかすると……?」



僕たちはおじいさんに説明した。

サークルを追い出されて練習場所を探していた事。

偶然小屋を見つけて、ここ最近使わせて貰っていた事。

もちろん、あの森の話は全てを伏せて。



「所有者の方に許可を取らないまま、勝手に入りこんですみませんでした!」

「うむ、まぁよいぞ。今後は軽率な行動は控えるように。ここは老朽化して危険なんじゃ。だから近々取り壊す予定でな」

「取り壊すの……ですか」



僕たちはとうとう、唯一の手がかりを失ってしまう事になる。

部外者が取り壊しに口を出す事は出来ない。

このおじいさんからしたら、縁もゆかりもない他人なんだから。



「うむ。そういう訳じゃから、ここにはもう来ない事じゃ。練習場所なんぞ街に腐るほどあるじゃろう」

「あーー、オレたちお金が全然なくってぇ」

「アンタだけね。仕送りまだなの?」

「あと半月……くらい」

「せめて数日前くらいまでは保たせなさいよ!」



それを聞いたおじいさんがヒゲを歪めた。

口からはクフクフとくぐもった声が漏れている。



「そうか、そうか。金が無いか。若いうちは仕方ないな。では、明日ここに来なさい。よい場所を教えてあげよう」

「本当ですか? ありがとうございます!」

「だから今日はもう帰りなさい。特にお嬢ちゃん、若い娘がこんな時間に出歩いてちゃ危ないぞ」

「ハイ! 以後気をつけます!」



女の子扱いされてミカはちょっと嬉しそうだ。

普段は男子に雑に扱われてるもんね。

「こんな肩幅オバケに誰が欲情するんだろ」と、ささやきが聞こえた。

即座にコウイチに肘鉄が炸裂する。

みぞおちを一突きされて、顔を真っ赤にしてうずくまった。

待ち合わせの時間だけ確認して、僕たちは小屋を後にした。



翌日、おじいさんに案内されて着いていった。

林道を歩き、畑を通り過ぎて向かった場所は……。



「ここを好きに使ってくれていい。良い環境とは言い難いが、怒鳴り込んでくる者もおらん」

「納屋、ですかね……本当にお借りしていいんですか?」

「構わんよ、気を使う事はない。お礼代わりに、たまにワシにも聞かせてくれりゃいい」

「ありがとうございます! 本当に助かります!」

「では、さっそくで悪いが……お手並み拝見させてもらえるかの?」



僕は少しだけ期待していた。

もしかすると、あの森に連れて行ってくれるかもしれない。

そんな淡い期待を……。


でも、まずはおじいさんにお礼をしなきゃ。

僕たちは指慣らしの意味も込めた演奏をした。


ーーーーーーーー

ーーーー


「いやいや、なんとまぁ。その若さで豊かな……。ともかく素晴らしい!」

「ありがとうございます、楽しんで貰えましたか?」

「勿論だとも! それだけの腕なら、今度のジャズコンテストにも出るんじゃろう?」

「いえ、僕たちはそういうのは……」

「ハァイ、出まっす! 応援よろしくでーす!」

「えっ?」

「はぁ?」



何それ聞いてないんだけど。

コウイチを見ると、親指をピンと立ててサムズアップ。

いやいや、なんで誇らしげなのさ。



「アンタもしかして、勝手に応募したの?」

「ねえ、僕初耳だよ?」

「へっへーん。サプラァイズ!」

「そういうのは『連絡の不備』って言うのよ!」

「先輩らも出んだぜ。見返したくない?」

「コウイチ、お手柄よ。あのワンマンバンドを蹴散らしましょう」

「えぇ……」



僕たちは急遽ジャズコンテストに出場することになってしまった。

コウイチからしたら急ではないけど、僕は心の準備すらまだだった。

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