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斉藤君がバイトとして来てくれて今日で丸二年が経った。最初に面接に来た時はまだ田舎臭い少年のように見えたが、今では気遣いも息をするように出来る良い青年になった。もちろん、バーテンとしてはまだまだだが。
「えーっと、あの、ちょっと面倒なんですけど・・・」
なんとなくこの言葉でピーンときた。やっぱり。
「巨峰のマティーニが、いい、です・・・」
なんとも申し訳なさそうに斉藤君が言う。別にそんなこと気にしなくてもいいのに。
「オッケー。俺も飲みたいなって思ってたんだよね。ちょっと待ってて」
「わーいっ! ありがとうございます!」
パッと笑顔が咲く。そうだろうなと思って多めに仕入れておいてよかった。
「斉藤君のお気に入りだもんな」
「へへ、はいっ。僕、葡萄が凄く好きなんですよね。だから去年マスターにお願いして本当よかったです」
巨峰のマティーニは去年の今ごろの斉藤君の一言で出来たものだった。突然何を言うのかと思ったら「巨峰でお酒って作れませんか」と、バイト一年記念で酒を振る舞った時に言われたのが始まりだ。
「俺もちょっと気になっていたから、メニューに出来てよかったよ。お客さんの反応もいいし」
最近では巨峰のマティーニを目当てに来る客もいるくらいだ。この季節の定番のカクテルになっていた。
グラスにそっと注ぎ斉藤君の前に出してやると満面の笑みでそれを受け取る。
「いい匂いがする」
その顔はうっとり、とすらしている。仕事終わりに大好きな酒を一杯。この仕事をしていても思う、最高の一杯だ。
「斉藤君、いつもありがとう。これからもよろしく」
グラスを小さく上げ「乾杯」と声を掛ける。
斉藤君が一口飲んだのを見て俺もグラスを傾けた。口いっぱいに巨峰の甘さが広がる。
あぁ、うまい。
自画自賛だろうが、なんだろうが、うまいもんはうまい。俺は天才か。
「おっいしぃ~!! マスター最高です、神です、うまいです~!」
絶賛の斉藤君にはニヤリと笑ってだけ返す。自画自賛の言葉を他人に聴かせるほど新人でもなし。
それから二杯目には知り合いから貰ったワインを開けた。俺も斉藤君もワイン好きなのだ。
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