噂《はやり》
ねえ、知ってる? この学校出るんだって――幽霊。
こういった会話に私は昔から上手にまざることが出来ない。その他の恋愛話などには、まざることが出来るが。
なんとも根拠もない話だなーとか思ってるのが悪い理由なのかもしれない。物語の世界ならばそういった存在もあるのかもしれないけど、こんな科学の最先端とも言える時代に霊的存在を認めることなんて出来やしなかった。
なんて、さっきの会話を思い出して一人、図書室で霊的存在について学校の教師とは違う電子世界の教師に質問をしてみた。
「霊的存在とは」
先生は電子の海から質問の答えを提示する。だけど、それらは形にハマった答え。求める答えは、その性質、その存在、そのもの自体。目に見えるのはフィルターの掛かった偽りの世界。
「はあ……さっさと帰ろ。どうせ、今日も生徒は来ないし」
本が好きでここにいるものの一人で読むなら家で十分。変に人が来るのを待ちながら読む本って何処か落ち着かない。もちろん、内容は頭に入ってくるけど。それ以外にも気を配るのが面倒なのだ。
「おや、まだ開いてるなんて珍しい。いつもここはすぐに鍵が閉まるのに」
音を立てずに開かれるドア。ドアが開いてすぐに一人の生徒が入ってきた。ネクタイの色を見るに年下かな。
彼は入ってきてすぐに私の居る受付カウンターの方へとやって来た。
「……へー、これがスマートフォンか。僕はやっぱり、調べ物に使うのなら辞典のほうが好きだな。あの厚さと重たさがまたいい。それも悪くないが軽すぎて薄すぎる」
彼は辞典について語り始めた。そういえば、この部屋にある辞典も使われなくなってきたな。何かあればコレを使うことのほうが多い。むしろ科学の最先端、コレ無しで生きるのは辛いところまで来ている、のかもしれない。
「今時、辞典を引くほうが珍しい時代になったからね。メール、電話、調べ物はこの一台でどうにでもなるからね。もしかしたら『本』という物自体が、この世界からなくなるかもしれない」
「それは、悲しいね。僕は時代の流れについてはいけない。家にあるパソコンだって古い物だ。そうやって僕みたいな人は置いていかれるんだね」
「疎い人には厳しい時代かもしれないね。私もいつ置いていかれるか……わからないや」
――大丈夫だよ、君は置いていかれない。僕とは違うから。
囁くような声、姿があったはずの場所は空っぽに。まるで、そこに人が居なかったように時間は流れる。
本当に誰も居なかったのか、と思い私はこの部屋を出てみた。しかし、そこに居たのは見回りの教師だ。
教師に事情を説明するも「誰もここから出ては来なかった」という。
ベタな話であるけど、彼があの噂の幽霊なのかもしれない。時代に殺された彼。最先端だからこそ、流行に乗れなければそこで人は死ぬ。まるで、物語のような話だ。
後日、幽霊の話を聞いてみた。
「あー、あったね。でも、それってデマだったらしいよ。今の流行りの噂は、『街なかの森』だね。この街の何処かにあるって言われてる迷いの森」
彼が消えてしまったのも、噂の流れが変わってしまったから、かな。……悲しいね。
彼女たちは、性懲りもなく噂話をする。彼女たちは変わらない。変わったのは私だけ。その彼女たちと、今こうやって噂話をしているのだ。
「これが、彼の言ってたことなのかな」
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