非日常へ、ようこそ。

らくれ

街《もり》

 理不尽極まりない。いくら頑張っても結果なんて出やしない。一歩、二歩譲って結果はいい。それでもだ。その頑張りを評価しないこの社会になんて、ついていけないよ。

 真っ昼間、細い路地に一人で音楽を聞きながら歩いてる。空は青い、いい天気だ。ねこを追っかけてこんな場所へ来たなら、それは異世界への始まりだと言える。いや、今時ねこぐらいで異世界なんて行きゃしねーか。

 カバンに入れた飲みかけのペットボトルとスマートフォンを取り、一旦ここらで休憩。

「えーっと、なんちゃらマップと」

 タスクバーを下ろし、GPSというボタンをONへ。マップアプリから現在位置を押す。この時点までは、何の変哲もない現在地及び目的地を調べるために行う行動にすぎない。

「あー……またバッグってらあ」

 しかし、結果はオカシナ結果となる。海のど真ん中。しかし、見渡すかぎりコンクリート、水滴の一滴すらもないわけである。

 陽気なねこは「にゃー」とバカにするかのような声を上げた。

 一口、飲みかけのジュースを飲み、またねこを追いかける。どうせ、出るところまで出たら家に帰れるだろう。んな、甘い考えの元で動いてるから、社会からはじき出されるのだ。

「おーい、にゃんこさーんこれは何処に向かってるんですかー」

 20となる男がねこと会話しながら歩くか普通に考えて。こんな姿を誰かに見られでもしたら「見ちゃいけません」とお決まりのアレを言われるに違いない。しかし、現状こうでしか気を紛らわせる事ができないのだ。20となる男が自分の街で迷子とか、それこそ恥ずかしくて見ちゃいけませんレベル。

 別に、大きな街ってわけでもないのにどうして、いともたやすく迷子になるかな。

「にゃー」

 ねこは、考え事をしながら歩いてるのを気遣ったのか、赤信号で止まるように鳴く。素直に俺も足を止める。

 赤から青へ変わり進むねこ。それに合わせ俺も前へ進む。

――そんな異世界を探検するようなある日の出来事。

「じゃあな、ねこ。また迷ったら助けてくれよ」

 俺は、の場所へ戻ってきた。ねこは、来た道を戻る。完全に見えなくなるのを確認してから歩きだす。

 最後の表情は「やれやれ」と言わんばかりのムスッと顔。それもそうか、人間だけが辛いわけじゃない。それこそ、猫もまた同じく辛いわけだ。どこで、なにがあるのかなんて猫も人もわかりやしない。

「あ、おーい、――!」

 俺を呼ぶ声。そういえば、あのねこ名前はなんて言うのだろうか。次に会ったときでも聞いてみよう。

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