第23話 封印の遺跡

調査の為に封印のある森の中を進む一行だったが、その道中にユニコーンが何かを感じたように少しずつ歩みを遅くしていく。


「どうした?」

『主よ、周囲の魔力が少しずつではあるが消えていっているようだ』

「ん? どういうことだ? 聞いてた話だと森全体が封印の影響で魔力が満ちてるんだったよな?」

「その筈だが…」


森を進みながら、情報と少し異なる現状を不思議に思う。

老人から依頼内容を聞き、外に出ようとしたとき、まぁ待てとばかりに老人はこの場所に関する情報を追加でいくつか教えてくれた。情報はどんな状況においても、あればあるほど助かるものだ。

情報によると此の森に漂っている魔力は本来から有る訳では無く、封印によって抑えきれない魔術の王の魔力が漏れ出た、もしくは封印の際に切り離されたものが、森の性質の影響か、消えずに留まっているというのが原因らしい。なのだが、その留まっている魔力が薄まってきているのはどういうことだ。


「時間によって消えていくのが自然とはいえ、此処まで留まっていたものが今になって消えるのか……?」

「これは嫌な予感がする…」

「取り敢えず急ぐか」


もしかしたら件の連中が何かをしようとしているのかもしれない。

そう考え、ユニコーンに指示を出して歩みを急がせる。


焦りが生まれてくる車中で先程の情報によって、一つの疑問が浮かび上がんでいた。


「つーか、あの爺さん、なんでそこまで知ってたんだ?封印のことも知ってたし、ここに出入りしている奴がいるのも勘付いてるし」

「もしかしたら連中に村を襲われて、その際に偶然知ったとかじゃないの?」

「それはどうだろうな、襲われたのならあの一軒だけが無事だったのが妙だ」


他が廃れているのに対してあの家だけは人為的な傷が一切無かった。それどころか村自体も襲撃にあったというより崩れたという状況だったが為に、件の連中が関わっているかどうか自体が薄い。


「あの人も怪しくなってきたが、そういうのは戻った後だ。今はそれよりも依頼だ」

「そうだな」


荷車はさらに速度を上げて木々の間を駆け抜け、そのまま遺跡の入り口へと出た。

ユーウィスたちは荷車を降りてユニコーンをシリンダーに戻し、敵襲を警戒しながら遺跡の中へと入っていく。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇







光によって全てがなくなり、天井の空いた穴から新たな陽の光が差し込む空間。

そんな静かな崩れた遺跡の中でその男はいた。


「なんだ…一体ここでなにがあった…!?」


男は先の狂信者グループのメンバーであり、彼らは森の近くに仮の拠点を置いて活動していたのだが、先に行った集団が交代の時間になっても戻ってこないことが気になり遺跡の奥までやって来たのだ。だが、儀式場は跡形もなく消えており、それどころか天井に潜っているのに空まで見えるほどの大きな穴が開いていることに驚いていた。


「誰か…誰かいないのか!」


男はこの場で起こったであろう事を少しでも知るために、何かないかと辺りの地面などを探す。だが、辺りにはこの場の過去を知れるような証拠は見つからず、それどころか部屋の中心付近に至っては石の破片一つ残っていない。

男は訳がわからなくなった。


此処は一度このことを仲間に伝えるべきかと悩んでいたそんなとき―――


「――しっかし歩き辛えな」


男が来た通路から若い声が聞こえた。聞き覚えのない声である為、仲間ではない。

男は気付かれまいと部屋の隅の崩れた壁の裏に身を隠した。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





ユーウィスたちは道なりに沿って遺跡の奥を進む。

遺跡に入ったことで気付かれれば何かしらの妨害でも来るのかと思っていたのだが、襲撃の気配どころか、遺跡の中には人の気配すら感じられない。


「しっかし、歩き辛えな」

「古い遺跡なんだから当然だろ」

「いやいや、それだけじゃねえぜ。所々に穴が開いてるわ、上から石が降るわで明らかに罠じゃねえか」

「それこそ古いからだろ」


ここまでの通路でリーガルは、小さい穴に躓き、大きな穴に落ちかけ、顔面に小石が落ちてきた等、計三回災難にみわまれた。

なお、それ以外のメンバーには一切被害はない。

お前、騎士なのに足元が疎かすぎないか?最後のは上だけども。


「ぜってえ呪われてる」

「その場合は遺跡じゃなくてお前がだろ」

「確かにね」


そんな雑談を続けていると通路の先に光が見えた。

通路を抜けると開けた空間に出た。天井から直接光が差し込んでいるので遺跡の中にしては明るいが、それ以外何もない空間だった。


「…本当にここでいいの?」

「他に道は無かったから此処が奥の筈だが……何も無いな」

「封印らしきものも見当たらないね。強いて言えば辺りに術式らしきものが残ってなくもないけど…」


確かにチセルの言う通り、壁や床に紋様のように刻まれているものが確認出来る。術式にはこういったタイプもあるので封印の一部である可能性はある。

とはいえ、封印してるぐらいなのだからそう簡単に誰かが触れるようにしているとは思えないから、見当たらない方が正しいかもしれない。


「出入りしてる奴らがいるって話だが、ここに来るまで人っ子一人居なかったな。どうなってんだ?」

「今が丁度出払ってる時間だとか、此方の存在に気付いて隠れたとかも考えられるけど…」

「その二択だったら前者なんじゃねえか。今も何しでかすか分からないだろう俺らを放置してるんだか……どうしたユーウィス?」


状況を分析していた二人だったが、そんな中でリーガルがずっと上を見上げているユーウィスに気付いた。ユーウィスは天井の穴を見つめては考えていた。


「何もない…天井に空いた大穴…そして、少しずつ消える森の魔力……」

「どうしたの…?」


考え事をしているユーウィスの服をハクが心配したかのように少し引っ張る。


「アレを見ろ」

「アレって天井の穴か?それがどうしたんだよ、崩れ落ちた後だろ?」

「いや違う。断面を見てみろ」


ユーウィスが示す天井の大穴の断面は崩れ落ちたにしては妙だった。

普通崩れ落ちるのなら不規則な傷や罅が生じる筈なのだが、この断面からはそれらは無く、綺麗に切り抜かれたようになっている。其れに加え、崩れたのなら破片が真下に落ちている筈なのに其れも見当たらない。


「恐らくだが、あの光の柱の発生地点は丁度此処だ。あれだけの高密度の魔力なら触れるものを吹き飛ばすどころか消滅させるぐらい可能だろう。そして其れを行ったのは…魔術の王だ」


その断言に周囲がざわついた気配を感じた。


「た、確かに魔術の王ぐらいの力なら、あれだけの膨大な魔力を制御するのは造作も無いだろうけど、まだ封印されてるでしょう?!」

「いや、封印は既に解かれているとみた方がいい」

「なんでそう思うんだよ?」

「森に漂う魔力が消えていっているからだ。魔力が漂っていたのは行き場所を失っていただけであり、その魔力の持ち主が解放されたことで彷徨っていた魔力は其処へ還元されたとみるのが自然だろう」


還元という表現は少し違うかもしれない。内と外にある同種のものが同じ故に溶け合って一つになったとでも言った方が正確か。だがどちらにしろ、魔力は魔術の王の下へと戻っていることには違いは無い。

もし、魔術の王が破壊を望むような者であったのなら、力が戻ることは厄介な事この上ない。


「てか…復活って考えられる限りじゃ最悪の展開じゃねえか!」

「そうかもしれないが…最悪かどうかはまだ分からん」


魔術の王が目的を持たず彷徨っているだけなら、封印の影響で自分が何者かを忘れているのなら、まだ最悪の展開では無い。

とはいえ、確かめる為にも一刻も早く見つけなければ。


「分からんとか言ってる場合じゃないでしょ!早く追いかけないと!」

「そうだな。戻るぞ」


来た道を引き返そうと踵を返した時、部屋のどこかから石が転がるような音が響いた。ハクはそれが気になったのか立ち止まって部屋の端の方を見ていた。

急いでいることも有り、ユーウィスは崩れかけてるのかもな、と言って切り上げ、一行は来た道を戻っていった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇






石が転がった音はユーウィスたちの話を聞いていた男が蹴って出たものだった。

音など今はどうでもいい、何処の誰だか知らないが、奴らの言っていたことのほうが男には衝撃的だった。


「…我らが崇めていたのは神ではなく魔王だったというのか!

なら先に来ていたあいつらは…

こうしていてはいかん。すぐに残りの奴らに知らさねば…!」


男は崩れた壁の裏から姿を現し、ユーウィスたちに見つからないように気を付けながら急いで出口へと向かった。


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