第24話 守人
「で、これからどうするつもりだ?今からあの魔王を追うにしても何処に行ったのかすら見当つかねえし」
「其処なんだよなぁ…」
魔術の王を追って遺跡を出たユーウィスたちは、再び呼び出したユニコーンに引っ張られる形で荷車へと乗り、かなりの速度で森の中へと戻っていく。
だが、追うにしても手掛かりがなかった。魔術の王が単独で動いているのかも件の連中と行動しているのかも分からなければ、その行き先のヒントすらも見つかってはいない。せめて今の行動原理さえ分かればいいのだが…。
「…まずは依頼主の所に戻ろう。もしかしたら何か分かるかもしれない」
「そうだな。そもそもあの爺さんにも訊きたいことがあるからな」
そう決めた一行は、一度目的を魔術の王の追跡から依頼者の居る村として、来た道を引き返していく。その道中でユーウィスは少し思うことがあった。
全てを滅ぼした魔王と恐れられていたにしては、ここまでの経路で、魔術を使った形跡や何かを破壊した跡が特に見当たらなかった。唯一あったのは遺跡で使ったとされる光の柱、一度だけ。違う道を進んだ故に発見できなかったという考え方も出来るが、それなら使用した際に勘の良いハクやユニコーンが何かを感じ取るはずだ。何せ膨大な魔力を込めた魔術を振るうのだから。
このことから、何かの制約か、或いは人格か、魔王はむやみやたらにその力を振るうことをしていないと予測できる。なら今は放っておいても大丈夫なはずだ。
そうして一行は森を出てそのまま村の方へと走っていく。その道中も移動した痕跡を探してはみたが、やはりそれらしいものは見つからなかった。そして行き以上の速度を出しているだけあって、もう村が見えてきた。
いち早く到着するために荷台のことは気にせずに、ユニコーンは自身に脚力強化を施してさらに速度を上げる。
「まずは今の現状を報告する。ついでに色々と聞き出す」
「この際に全部知ってることを吐かせようぜ。でないと色々と釈然としねぇ!」
そして荷車は速度そのままに村へと入っては依頼主の居る家の前で停止の為に減速する。ユーウィスとリーガルは完全に停止する前に荷車を飛び降りて扉の前へと近付く。他が停止してから降りてくるのを待つまでも無く、二人は扉を叩く。
「なんじゃなんじゃ、そんなに強くせんでも聞こえておるぞ」
強く叩かれた扉の音に対して慌てるように老人が出てくる。老人はユーウィスたちを見て、帰ってきたかなどの反応をしたが、ユーウィスたちの様子に何かを察したのか、それ以降は何も言わずにユーウィスたちを中へと通した。
通された後、互いに椅子へと座って沈黙が流れる。
そんな沈黙を破るようにユーウィスは口を開く。語る内容は依頼のこと。調査結果を包み隠さず伝えた。遺跡はもぬけの殻だったこと。封印が既に解かれている可能性があること。その場合魔王は何処かへ姿を消したことになるという現状。
それらを伝えると老人は驚くような素振りは見せず、そうか…と呟いた。
「こちらは結果を全て話しました。次は貴方が話す番です。
…貴方は何者ですか」
「…何者とは何がじゃ…?」
「疑問に思うことがあります。
貴方は封印の場所もそこに出入りしている者たちの存在も知っていた。封印のことは百歩譲るとしても、貴方のような老人が森に入っても居ないのに出入りしている者たちの存在を知っているのは不思議です。
次に、こんな場所で一人で住み続けているのも不思議です。この村は廃れている。水も作物も僅かだ。なのに貴方は焦ることなくこの場所に住み続けている。
そして今、結果を聞いた貴方は、驚くことをせず、まるで分かっていたような素振り見せた。」
老人は黙って話を聞いている。この期に及んで誤魔化すという素振りすらない。
ただただ此方を待っているように見える。
「ある人はこんなことを言いました、『人生は むつかしく解釈するから 分からなくなる。』
だから端的にいきましょう。貴方は何者です?」
そこまで言うと、老人は大きく息を吐いた。
すると、雰囲気が変わり、人が変わったように口を開いた。
「やはり、お主を呼んでよかった。
…儂はもはや人ではない。人から精霊となり、あの森を監視してきた
人ではないというその答えにリーガルやチセルは静かに驚いている。
只者ではないのは分かってたが、人ではないと言うか。
そして守人ときたか。この場合守っているのは当然封印か。
「儂は元はあの魔術の王…ラスティア・ヴェルと仲間だった。
まだ儂が人の時から共に戦い、身体を失って魂が精霊に昇華してからも彼女と共に戦線を開いてきた。だが、彼女の力が大きくなり、周りが彼女を怖れるようになると、世界の為と割り切って彼女を裏切り、封印してしまった。彼女は生きる者全てに絶望したじゃろう。それからは儂らは守人として封印を守りつつ、世界の変わる様子を陰から見守っていた。それがこの村じゃ。だが皆はもう消え、儂ももう限界が近い」
「俺に依頼を寄越したのは…?」
「…儂はどこかで後悔していた。彼女を裏切り封印したことを。なら彼女が利用されることのないように封印を守っていたが、それももう解かれた…ならせめて…」
そこまで言うと守人は淡い光を帯びたかと思うと、少しずつ身体が薄れていく。
「お、おい!?」
「せめて…彼女のことを任せても良いか…」
「…ああ」
「そうか……もう限界か」
その言葉の通りに守人の身体はさらに薄まっていく。もうじき消えるだろう、本人もそう思っているだろう時、消える前にユーウィスは言葉を掛けた。
「消える前に一つ、俺の予測だが……アンタの仲間は其程人に恨みを持ってはいないぞ」
守人は驚いた表情を浮かべた。
それもそうだろう。自分たちの行動によって彼女が人を恨んでも可笑しくは無いと思っていたのだろうから。
「…そうだと…良いのだがな…」
その言葉を最後に守人は限界を迎え、消えていった。
消える瞬間、守人の姿は燃えるような、若々しい男性に見えた。
恐らくあれが本来の姿だったのだろう。
そして、その表情は肩の荷が下りたような風にも見えた。
「気休めの言葉とはいえ、あの爺さんも少しは救われたんじゃないか?」
「気休めじゃないさ」
自分でも何故最後にあんなことを言ったのかは実のところ分からない。現在の魔術の王の思考など分からないし、確証もない。だけどそう感じたのだ。
『主よ、行くのか?』
「ああ、あの人の最後の依頼だ。受けねば男が廃る」
「お前もそんなことを言うんだな。…にしても厄介なことになったな。要は魔王を保護しろってことだろ?」
「そういうことになるんだろうな」
『では、行こうか』
「いや、少し待ってくれ」
守人の最後を見届けた後、一行は外に待たせていたユニコーンと合流する。
ユニコーンは出発しようとするが、ユーウィスは其れを止めて、その前にと何かを探しに行こうとする。
すると、先に読んでいたのか、ハクが紙でできた一輪の花を持ってくる。
ユーウィスはそれを礼を言って受け取り、一軒家の中に戻って空いていた小瓶に差した。
無人になった一軒家に最後の別れを告げ、一行は新たな目的を持って村を旅立った。
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