第25話 魔の降る雷
遺跡から離れ、広大な大地を進んでいたラスティア・ヴェルは彷徨うままに小さな町へと辿り着いた。
町の入り口にある少し古びた木製のゲートを潜ると足元に紙屑が飛んできた。
退廃的な雰囲気を纏いつつも賑わいのある、ユーウィスたちも訪れた西部劇チックな町だ。
退廃を知っているラスティア・ヴェルからすれば、その雰囲気を感じさせながらも其れとは全く違った活気を感じる町の雰囲気に驚きを通り越して関心すらしていた。
そんな反応が表に出ていたのか、大通りで遊んでいた一人の少女がラスティア・ヴェルを不思議そうに思いながら近寄ってきた。
「お姉さん、変な格好してるね。旅の人?」
「……まぁそんなところ」
「ねえねえ、町の外ってどんな感じなの?」
少女はラスティア・ヴェルにそんな事を訊いてきた。
ラスティア・ヴェルが本当は何者かなどは興味は無く、その興味や純粋な好奇心は町の外の世界に向いているようだった。町から出たことが無い子どもからすれば当然の行き先なのだろう。
なのだろうが、子どもに純粋な目を向けられているラスティア・ヴェルは答えることが出来なかった。何せ、この世界の事に関しては少女よりも知らないからである。
「…外が気になるのか?」
「うん!私いつか大きな街に行ってみたいんだぁ」
其処から夢を語る少女をラスティア・ヴェルは無視するわけでも無く、それどころか微笑ましく眺めていた。
何時の時代も未来ある子どもというのは良いものだ。
穢れなどなく、力はなくとも可能性が秘められている。自分とは大違いだ。
そうして一方的に話していた少女はある程度話し終わった頃、親だと思われる人物に呼ばれたことを切っ掛けにラスティア・ヴェルと別れていった。
少女が居なくなったので再び町の中を歩き出した。町の人たちは普段見ない存在であるラスティア・ヴェルを警戒とまではいかないが興味深く見ているが、先程少女と触れ合っていたことから、危害を加える存在ではないと判断したのか、時間が経つにつれ不審な視線は減っていっていた。どちらにしろ、当人は視線に気付いていてもどうするつもりはないが。
ラスティア・ヴェルは休憩のように近くの柱に凭れた。
見た限りこの町は、喧嘩が無いわけでは無いが争いに発展する程でも無く、住まう人々も悪くは無い。時間の流れをあまり感じさせない為か文明の発展速度もゆっくりと感じるが、それがまた良いのかも知れない。
そんな空気を肌で感じていた中、不釣り合いな空気が混ざり始める。
町の入り口のゲート付近に妙な人影が現れたのだ。その者たちは二人と少数だが揃ってローブを着込んでいる集団で、揃いもそろって素性を隠している出で立ちだった。
そんな怪しさを形にしたような二人組は町へと入ると同時にキョロキョロと辺りを見渡している。明らかに怪しい雰囲気に町の者たちからも警戒が生まれ始めていることだろう。
そして二人組はラスティア・ヴェルを見つけると、少々話し合うような間があるかと思ったら、その二人の下に仲間と思われる同じ外見の者たちが数人集まり、ラスティア・ヴェルに向かって歩き出した。
「…夜色の髪に同色のマント…間違いない…」
集団の中からそんな言葉が聞こえたかと思ったら、その集団はラスティア・ヴェルの前で膝をつき、頭を垂れた。
「探しました、我らが神よ」
ラスティア・ヴェルはただただ其れを見ていて、その格好に気付いてはいないが、その者たちは遺跡に集っていた狂信者たちの仲間であり、魔王の復活の報告を受けて彼女を探していたのだ。神で無くとも利用価値はあると考えて。それが愚かな選択であり先人が失敗したと気付かずに。
「どうか、貴女様のお力でこの世界をお導き下さい」
他の者たちも同じように願いを捧げているような光景に、町の人々が何事かと集まり始めた。ラスティア・ヴェルは先の事を思い出して「またか」と思っていると、集まってきた事を幸いとして、集団から一人の狂信者が立ち上がって、衆人に向かって言い放った。
「この方はこの世界をお救いになる方である!」
「無礼であるぞ!」
外堀から埋めようという考えなのか、次々に狂信者たちは周りに色々と吹き込んでいく。その影響で町の人々も、全部と迄はいかなくとも少しずつ刷り込まれていく。
ラスティア・ヴェルとしては一切その気がない為に、集団を放って町の出口へと歩いて行く。しかし狂信者たちはそんなラスティア・ヴェルをも無理矢理利用していく。
「ではあの方が救世主である証拠をお見せしよう!」
狂信者がそう言って指を鳴らすと、ゲートの方から何やら音が響いた。
すると、町の外から大きな獣の姿が向かってきていた。それもその数は一頭だけでは無く、四、五頭も確認出来る。
このタイミングで出現したということは、どういう方法を使ったのか狂信者たちが捕獲して隠していたようだ。無駄に準備の良いことだ。
向かってくる獣たちを見て町の人々は慌てだした。
それに対して狂信者たちは、やっちゃってくださいよと小物臭のする台詞を吐いていたりする。
とはいえ、此処で迎撃しなければこのような町に危害を与えてしまうのは確かだ。狂信者の思惑通りになってしまうが、この町を破壊してしまうことにラスティア・ヴェルは抵抗があった。
ラスティア・ヴェルはゆっくりと手を前に出した。
するとその手の先に三重の魔法陣が出現する。一つは赤い魔法陣、一つは緑の魔法陣、もう一つは白い魔法陣。それらが挟むように重なり、一つの大きな魔法陣へと統合される。
前に出していた手を上に上げると、その延長線上だった魔法陣も同じように上へと移動する。そして魔法陣から輝きが天へと放たれる。
――――――多重魔法陣・轟雷――――――
天へと放たれた光は雷となり、獣たち目がけて降り注いだ。
晴れにも関わらずに降り注いだ雷により、町に向かって走っていた獣たちは大地もろとも轟音と共に消し飛んだ。
ただ、消えたのはそれらだけではない。雷はオマケとばかりに町の方にも少量だけど降った。町や道を破壊するほどの威力は無かった。だが、その雷が降り注いだ場所、其処に居たラスティア・ヴェルの姿が閃光とともに消失した。
ラスティア・ヴェルの消失にその場に居たもの全員が驚いた。
狂信者たちは逃げられたことに焦り、辺りを探せなどと叫んでいた。
そんな場面だった、ユーウィスたちがやって来たのは。
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