第26話 接触

其れは突然のことだった。

青天の霹靂とはこのことだろうか。彼方の空に光が昇ったかと思うと、次の瞬間には其れが雷となって大地を抉っていた。今の天候は晴れだ。そして異常気象が起こる要素も今の所はない事から、今の雷はどう見ても魔術によるものだろう。その証拠に微量ながらこの距離でも其れを感じ取れた。

ただ、天候にすら影響を与えるとなると、術者は相当の実力で有ることが分かる。そんな破格な存在はそうそう居ない。


「恐らく、あの先に魔術の王が居る…!」

「それなら急ごうぜ。雲行きも怪しくなってきたしな」


先程の雷撃を見てから一行の中に不安が過ぎる。

魔術の王がその力を振るったと言うことは、力を振るう意思があったことになる。状況は分からないが、面倒な事になる可能性はある。そう思い荷車の速度を上げる。


「ってか、この方向って俺たちが行きに寄った町じゃねえか!」

「どうやら、入れ違いで町に行ったみたいだね」

「兎に角行くぞ」


荷車を走らせる一行の視線の先に、見覚えのある町が見えてきた。ユーウィスたちが行きにも寄った西部劇風の町だ。そして魔術の王がいるかもしれない場所。

一行を乗せた荷車はそのまま町の方へと向かい、その入り口のゲートの前に到着する。そして其処から町の中を見てみると…


「なんか…騒がしいな…」

「如何にも怪しい格好の連中が居るね…もしかして遺跡に出入りしていた連中の方?」

「確かに怪しいな。だが見たところ、肝心の王らしき奴が見当たらないんだが?」


町の中は以前に来た時よりも人が多い。町の住まう人々の他、外から来たと一目で分かるような格好を揃えた集団が居たからだ。不審者丸出しのその格好からするに、魔術の王というよりは遺跡で行動していた連中と見て間違いない筈だ。

町の大通りには、何かが落ちたかのような跡が一カ所だけ付いている。先日来た時には無かったから此れも先程の雷撃が飛び火したのだろう。

此処まで幾つか変化はあれど、肝心の魔術の王らしき姿は何処にも居なかった。あの怪しげな連中の中に加わったというのは、先程から連中が何やら動き回っている姿からは考えにくい。雷撃が発生してからユーウィスたちがこの町を目視する迄其程時間は経ってはいないし、町から出る人影も見ていない。だが姿が無い。


一体魔術の王は何処へ消えたというのか。


「どうやら逃げられたみたいだな」

「逃げられたというよりは、そもそも居なかったという説も出てきたけど?」

「いや、間違いなく訪れてはいた筈だ」


少なくとも雷撃が魔術である限り、其れが起こった場所の周辺には居ると考えられる。もしかしたらまだ近くには居るかもしれない。


「どうする、探すか?」

「探すのは良いが、あいつらはどうするよ?」


リーガルは町中に散らばっている不審者たちを指してそう言った。

確かにアレを放置しておくのもどうかとは思う。封印が解かれる前から遺跡に出入りしていたぐらいなら、その力で何かをしようと企んでいても不思議では無い。とはいえ決定的な証拠が無い為、怪しいからと問い詰めても言い掛かりで済まされるかもしれない。


そんな事を考えながら連中を見ていると、入り口付近に動いていた連中の一人がユーウィスたちを見て何やら不審な動きをした。驚いたというよりは見つかったというような反応である。初対面の筈なのにその反応は妙だ。

その一人は逃げるように仲間の下へと戻った後、仲間と何かを話しているようだ。


「…アイツらです。遺跡にやって来ていたのは。……目的は謎ですが恐らく何処かから聞き付けて、我らを追ってきたのでしょう。どうしますか?」

「…下手に邪魔をされては面倒だ。何処かへ誘導して仕留めてしまえ」

「…了解しました」


連中の内の二人が何やら話していたかと思うと、その二人の下に他の連中も集まってきた。そしてどうしたことか突然に移動を開始した。


「なんだ?」

「此方の存在を察して逃げたか」

「逃げたってことはそういうことだよな?」

「さあな。少なくとも後ろめたいことはあるんじゃないか?」


そうそう言っている間にも連中は進んで行ってしまう。


「とりあえず追いかけるか。妙な動きをすれば捕らえればいい」


連中が道の角を回った頃にユーウィスたちもユニコーンを戻してから追跡を開始する。連中の移動速度は其程速くは無い為、追跡するとすぐに再捕捉が出来た。

連中はそのまま町の外の方へと向かっているようで、ユーウィスたちは其れを音を潜めて追いかける。連中は此方を気にした様子もなければ、何をするわけでも無く、そのまま町の裏から外へと出ようとしていた。


「妙だな、さっきまでとは違ってあっさり出ようとしてやがる…」

「誘ってるのか…?」

「つまり尾行はバレてるって事?」


バレていると見て間違いないだろう。恐らく話し合っていた頃には既に此方の存在を敵と認識していただろう。不審な反応をしたのもそういう危機感だと思われる。

そうなると、このまま追跡を続けるのはどう見ても下策だろう。


「罠なのは目に見えてるが…」

「放っておいても面倒の種にしかならねえだろ」


リーガルは罠と分かっていても突っ込んでいく気らしい。


「仕方ない……このまま尾行は続行する。向こうが何をするにしても好都合だ」

「情報の為に敢えて相手の策に乗るってことか」


相手が罠に嵌めようとしても何かしら情報が得られるかもしれない。もしかしたら魔術の王の下に連れて行ってくれるかもしれない。そう考えてユーウィスたちは町を離れようとする連中を追いかける。

其れとは反対にチセルは滞在の意を示した。


「私は残るよ。アレが罠ならまだ町の中に何人か残ってるかもしれないし」


確かに此方が誘導なら本命を残しておく可能性は充分に考えられる。其れに町の後が心配なのも分かる。それなら任せることにしよう。


「あ、これ持ってって」


別れ際にチセルは何かを手渡してきた。その何かにユーウィスは見覚えがあった。其れは通信用の道具だった。伝達の魔術を刻むことで同種の物と繋げる、ビデオ電話のようなものだ。ユーウィス自身は使った事は無いが、使っている者が居る事は知っていた。チセルが持ち歩いている事は予想外だったが。


「よく持ってたな」

「試作品だけどね」


兎も角、通信道具は有り難く受け取り、ユーウィスとハク、リーガルの三人は尾行に戻り、町の外へと出た。




三人と別れたチセルは改めて町の中へと入った。

先程の雷撃による被害が他に無いかも気になるが、あちらがこの町から遠ざける為の誘導ならば、この町に何かしらが残されていても不思議では無い。あんな同じ格好の集団なら一人ぐらい抜けていても此方には気付かれない。


チセルは一人、町の安全を確認するために、まずは異常が無かったか聞き込みを開始した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る