第27話 誘導の果てに

町から離れた狂信者の集団は二手に分かれたりとする様子も無く、彷徨うままに平原を進んでいると思いきや、その足で近くの森林地帯へと向かっている。ユーウィスたちも追うようにその場所へと向かっていく。


「森か、罠に填めるならうってつけだな」

「いや…」


罠の事を考えるリーガルに対してユーウィスは罠よりも攻め時を考えていた。

リーガルの言う通り森ならば罠を仕掛けるには適しているだろうが、その可能性は低いだろう。恐らくだが此処までの様子から察するに相手にとって今の状況は予定外である確立が高く、その場合罠が仕掛けられていないと見れる。勿論時間を与えれば罠を仕掛けてくるだろうが、攻めるとすれば此処だろうか……


「お、どうした?」


悩みながらも観察を続けていると此処で狂信者たちに変化があった。

進行方向に分かれ道が現れると、道なりに沿うように集団が二手に分かれたのだ。地味に効果のある手だ。

一人でも確実に捕まえようと一方に集中させれば勿論もう一方には確実に逃げられてしまい、両方を逃がさない為に此方も分散させれば、相手は数の利で此方を迎撃することが出来る。此方も元々数で負けている上にハクは実質戦力からは外れるからだ。


「どうでるよ?こっちも分かれるか?」

「分かれたとしてあの人数を捌けるのか?」

「ただの乱闘ぐらいなら慣れてるぜ」


そう言うリーガルはやる気だ。

確かにリーガルの職業である巡視騎士は街で起こった揉め事を時に身体を張って止めたりするから複数を相手取ることに慣れていても不思議では無い。だけど今回は仲裁ではなく戦闘の可能性がある。相手から明確な敵意が向けられることになる。その事をリーガルに言ってみれば、楽勝とのことだった。何処から来る自信なのか分からないが、其れに任せるしかない。


「それなら此方も二手に分かれよう。左に行った奴らは任せたぞリーガル」

「おう。任せとけ」

「ハクはこっちに来い」


そうして戦力を分け、二手に分かれた相手を追うためにそれぞれの道を進んだ。

ユーウィスとハクは右に進んだ集団を追う。此方の道に進んだ連中の一人が少しだけ顔を向けた気がした。二人は瞬時に木陰に隠れたが、恐らく何かしらは察したのだろう。少しだけ集団の速度が上がった。


「此処で速度を上げるか。こっちから行くぞ」


逃げる集団を少し道を離れながら追う。

位置を変えたことで来ていないと認識したのか、此方が近くでいるにも関わらず集団は速度を緩めた。そして今になって会話も聞こえてきた。


「見当たらんな。諦めたか?」

「向こうに行ったのかもしれないぞ?」

「どちらにしろ漸くか。なんだったんだよアイツらは」


集団の中の数人がそんな事を言っていた。

聞こえてくるのは愚痴ばかりだが、もしかしたら何か情報を漏らすかもしれないのでこのまま聞いていよう。


「我らの目的を知って邪魔をしに来たのか?」

「そうだとすれば面倒だが、其れより速く手に入れてしまえばどうも出来まい。其れよりも問題は彼の者の行方だ」

「まさか自爆に見せかけて姿を消してしまうとは…」


聞き耳を立てていると、予想通りに集団はそれらしき会話を始めた。それにより何かしらを企んでいたことは明らかだ。そして盗聴を続けていると魔術の王らしき情報も得られた。

会話によると、魔術の王はあの雷撃を起こすとその拍子に自らの姿を消し、集団は行方を掴めないでいるらしい。あの町に魔術の王が居たことは確定で、奴らが接触したことも明らかだが、幸いに手中には収められてはいない。状況確認には充分な情報だ。それに、逃げられたということは魔術の王は奴らの目的に賛同する気は無いと考えられる。和解が成立する可能性は感じられる。


「だが、まだ近くにはいる筈だ。もしかしたらこの辺りに居るかもしれん」

「其れなら合流前に見つけよう」


仲間と合流されるのは厄介だが、魔術の王と接触されるのはもっと面倒だ。情報は得られたし、捕縛するならそろそろだろうかと考えていると、ハクから音が聞こえた。其れは小さな音だったが、警戒を解ききっていない相手の注意を引くには充分だったようで――


「おい、彼処に誰か居るぞ!?」

「さっきの奴か!」


集団が一斉に此方が隠れている場所を見た。


「…ごめん」

「知りたいことは知れたから別に構わない」


ある意味切っ掛けとしては良いだろう。

ユーウィスは集まる視線の中で喚装銃機ガンライザーとシリンダーを引き抜いた。戦闘態勢だ。


「捕まえろ!」

「何処の手の者か聞き出せ!」


威勢が良いことだ。

そんな威勢の良い集団の中にユーウィスは開戦とばかりに喚装銃機で光を撃ち放った。その光は真っ直ぐに人混みの中の空いた場所に着弾し、その箇所を中心として周りを吹き飛ばしながら光と魔法陣を展開する。突然展開された魔法陣に周囲が怯む中、魔法陣は起動し、その内に新たな生命を呼び覚ます。


「なんだ此奴ら!?」

「陣から出てきやがった!?」


光と共に現れたのは背格好の似た二人の子どもだった。


「「お呼びかな?何をすれば良いのかな?」」


今回呼び出したのは新しく用意しておいた、二人で一つとなる召喚獣"戦う双子デュエルデュアル"。獣と言うよりは人型だが、正真正銘の召喚獣である。

二人で一つである性質上、双子は一定以上離れられない等の制限はあるが、乱戦となり得る集団相手ではある程度の成果は見込めるだろう。


「戦闘だ」

「「了解!」」


ユーウィスがそう言うと、双子は襲いかかろうとしていた周囲に攻撃を開始した。戦闘が始まって盛り上げってきた中にユーウィスも魔力弾と格闘で混ざる。

集団は数はあれど、此方に来た者の中に魔術を使う者も居ないようで攻撃手段も近接攻撃に限られる為、相手をするのは苦では無い。向こうの方が数が多い故に巻き込みを恐れてさらに手段が限られるのもあるだろう。


双子は息の合ったコンビネーションで相手を捌いていく。時に動きを同調させ、時に違った動きで連携を図り、次々に群がる敵を伸していく。流石に侮れないと思ったのか相手も双子から距離を取り始めている、もとい逃げている。


「こいつらはやばい!」

「どうにか手を…」

「そうだ、人質だ!」


相手は此方を止めるために人質を使おうと、戦闘には参加せずに少し段差のある場所に待機させているハクの方に狙いを付けた。狙いを付け上っていこうとする相手より先に此方が動いた。


「頼む!」

「「了解!」」


双子はそう応えると、片割れがもう一人の手を掴んでハクの居る方向へと投げ飛ばした。そして無事に到着すると、到着した側が片腕が動かした。その腕にはいつの間にか可視化された鎖があった。この双子が一定以上離れられない理由は常に腕の鎖で繋がれているからである。この鎖は単なる鎖ではなく魔力による鎖である為に存在自体を消したりは不可能だが、姿を消して物を透過させたり、現して物理的な干渉を与えたり出来る。

鎖を勢いよく引っ張るとそれに繋がれたもう一人が引っ張られ、その勢いを利用してハクに向かっていた連中に攻撃する。襲撃された連中は薙ぎ払われて他の者の下へと落ちた。


「何をやっているんだ!」

「ならお前がアレを止めろよ!」


何だろうか。思いの外相手が連携を取れていないからか、思ったよりも隙が多い。

そんな相手だからか気付いた頃には殆ど倒していた。命までは取っていないがその辺りが死屍累々。


「「此れで最後っ!」」


そして最後の敵も双子によって今倒された。双子はもう終わり?などと聞いてくるが見て分かる通りもう終わりです。後は逃げないように縛っておくだけ。縛った後は引き渡す為に一度街に戻る必要があるそうだ。見た感じさっきの町にはそういう機関は無さそうだから。保安官ぐらいなら一人ぐらい居そうだが。


「縛った」

「こっちも此れで終わりだ」


縄は生憎と数を持ち合わせてはいなかったが、森林地帯なだけあって探せば丈夫な蔓ぐらいはあり、其れを使ってハクと手分けして連中を縛っていった。

その間に双子には監視を頼んでいたが、応援が到着したりということも無かったようだ。


「あとはリーガルの方の奴らだけか。」


リーガルなら遅れを取ることは無いだろうが、数に苦戦はするだろう。

一応応援を送る必要はあるだろうか。


どうしようかと悩んでいると、丁度リーガルが向かった方向から音と光が見えた。


「まさか…っ」


それに嫌な予感を感じたユーウィスは捕まえた連中のことを忘れて、リーガルの向かった方向へと走り出した。



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