第28話 エンカウント
ユーウィスたちとは別の道に進み、其処に進んだ狂信者たちを一人で追う事になったリーガル。普段は堂々と止めに入るので、こういったコソコソとした動きは本人の性には合わないと思いきや、意外と音を沈める事は出来ていた。
「…にしても何処まで行くつもりだ此奴ら…」
木陰に隠れながら。集団の行動に対して呟くリーガル。
リーガルの言う通り、此方の道に進んだ者たちは定期的に休憩を入れるように止まるとはいえ、延々と森林地帯を進んでいた。何かを探しているようにも思えなくも無い。とはいえ…
「どう考えても道に迷ってるようにしか見えねえんだよなあ…」
奴らが探すとすれば魔術の王しかない。だけど様子から察するに相手はその魔王の居場所が分からないでいる。その証拠に手掛かりらしきものは一切出さないし聞こえてもこない。となれば今の状態は迷子に思えてしまう。
現に今も割と雑に進行方向を決めていた。追ってこなくとも、勝手に此処に迷って出てこれなくなっていたのではなかろうか。……それはそれで救出しなければいけない気がしてくるんだが。
警戒を通り越して心配になってくる相手だが、危険行動に出る可能性があるので、戦闘に備えて敵の情報を集めよう。
相手の集団は揃ってローブを着込んでいる。ローブを着た後ろ姿故に正面は見えないが、相手の動きや音からして刃物を携帯している様子はない。なんなら杖なども持ってはいないだろう。意外と軽装なんだな。戦闘になれば使えるのはその身一つといった所か。いや、ユーウィスみたいに何かを仕込んでいる可能性もあるので侮れないか。
それにしても一向に状況が進展しない。
いっそのこと今すぐ取っ捕まえる為に出て行った方が救いにでもなるのではないか。そんなことすら思ってしまった。
…と思っていたら景色の方に変化があった。
集団が森を抜けたのだ。
森を抜けた途端集団が足を止まった。足を止めた理由は、仲間を置いて森を抜けてしまっただとか、抜けたから休憩を入れただとかではないだろう。原因は恐らく集団の前に現れた人影。
森を出た場所に偶然居たその人影は、夜色の髪、闇のような瞳、其れと色を同じくするマント、黒を纏ったと言える女性だった。
その女性に気付いた途端、集団の足が揃って止まったのだ。
「なんだ、誰だ…?」
集団が何故その女性を見て止まったのかリーガルには分からない。だけどその女性が普通では無いことは直感的に理解した。何といえば良いのだろうか、存在感というのか魔力というのか、魔術関係に疎いリーガルでもそんなものを感じてしまうのだから相当なものなのだろう。そんな相手が一行の目の前に現れた。一体何が起こるというのだ。
「あ、貴女様は…!」
「こんな所にいらしたのですか…!」
集団が突然女性に対して意外な態度を見せた。やたらと下手に出ている口調だ。
リーガルはその態度から女性が奴らの仲間かと思ったが、その考えは直ぐに捨てた。確かに外見には似たものを感じるのだが、奴らの仲間にしては、女性から感じられる集団への関心というものが無いに等しいのだ。寧ろ女性は集団に対して敵意すら抱いている可能性すら有る。
そんな相手だと言うのに、あの集団はまるで交渉のような会話を続けている。
「其処までして関わっていく必要のある相手なのか…」
リーガルたちからすら逃げるように距離を取っていた集団が態々自分たちから関わっていく相手。其処でふとリーガルは思い至った。もしかするとあの女性こそが魔術の王なのではないかと。その予測は当たっているのだが、その女性からは人並み外れた何かを感じはするが、それ以外は凡人と変わらず、気性も安定していると、リーガルは魔術の王という肩書きのイメージと目の前の女性を
「貴女様のお力があればこの世界を救うことが出来るのです」
「どうか我らにお力をお貸し下さい」
集団は必死さすら露わにしてそんな事を言っているが、女性はやはり聞く耳を持たずにその場を立ち去ろうと背を向ける。幾ら言っても無理と判断したのか、無謀ながら集団は強硬手段に打って出た。
「…仕方ない、奥の手だ…」
一人がそう呟くと、今迄下手に出ていた集団が懐から何かを取り出した。其れは小さなものだった。其れこそユーウィスのシリンダーと同じぐらいの物。
ゾロゾロと広がり、人によっては先回りして、女性を包囲する。
「意地でも貴女には来て貰います」
集団は一斉に用意した小さなものを使った。
其れが互いに共鳴し始め、まるで結界を張るように女性を囲んだ空間を作り出す。
「此れは魔力を刺激し、魔術の構築を阻害する物です」
「いかに貴女でも、己の知識に無い阻害を受けてしまえば仕方が無いでしょう」
そう言いながら集団はじりじりと女性との距離を縮めていく。
対して女性は阻害の影響を受けている為か、此れと言って行動を起こさない。それどころか阻害を受ける前とあまり変化が無い。まるで阻害など気にしていないように。
とはいえ、誰であれ無防備の相手に大人数で迫るとは、騎士として看過出来るものでは無い。其れに現行犯なら行動を起こすのには充分過ぎるだろう。
リーガルは後の事を考えずに木の陰から飛び出し、身近に居た狂信者に強襲をかけた。
「おらぁっ!」
「がっ…!?」
自分たちの後ろから突然知らぬ声と倒れる声が聞こえて、集団が一斉に振り返り、リーガルを認識した。
「お前は!?」
「さっきの奴らの一人か!」
「まぁ…罪状は省略するとして、現行犯でお前らを拘束させて貰うぜ!」
リーガルは得物の剣を構え、早速乱戦覚悟で集団の下へと飛び込む。
魔王を押さえ込むことに意識を割いている為か、思ってたよりも抵抗が少ない。とはいえ、動ける人員は全力で向かっては来る。
だが、慣れたもので、リーガルはそれらを難なく処理していく。其れも命を取らないように意識しながらである。ただ…相手を伸すことに意識が向いていたからか、いつの間にか阻害空間が消えていることを意識していなかった。その結果――
「うおっ、なんだ!?」
突然風に晒されたような気迫を受ける。其れの発生源は集団の奥に居る女性だった。気付くと女性の上空には三色の魔法陣が展開されていた。
青色、緑色、白色、三つの魔法陣は重なって一つの魔法陣として展開され、その陣の下に集まるように風が吹く。陣が展開されたことに狂信者たちは「しまった」といった反応を見せて、回避の為に距離を取ろうとする。だが其れよりも先に魔法陣に光が満ちる。
女性を中心に風が巻き起こり、其れは瞬く間に嵐のような暴風へと成長して周囲へと拡大していく。暴れる風と其れに混じる迸る雷と刃の如き水、それらが周囲に居た者を誰彼構わず巻き込んで、吹き飛ばしていく。
次々に狂信者たちが吹き飛ばされて気絶していく中で、リーガルもまた地面に剣を突き立ててその嵐の暴力に耐えていた。その目の先には発生源となる女性がおり、女性の場所は台風の目となっていて女性にはダメージはない。
「此れが…魔術の…王…の力か…!」
リーガルは嵐が収まる前耐えようとしていたが、其れよりも早く、突き立てていた剣が折れ、抑えが無くなったことでリーガルもその暴風に吹き飛ばされる。
「がはっ…!」
暴風によって樹木に叩きつけられリーガルはその場で倒れた。
嵐が止んだ後には女性以外誰一人として立ってはいない。
一人森の方角へと去って行く女性を、リーガルは薄れゆく意識の中で見た。
「何処に居ても私が居る限り変わらない……」
ラスティア・ヴェルは森林地帯へと入り、一人そんな事を呟いた。
本人に意思がなくとも、力を求めて人が集まり、争いが起きる。ラスティア・ヴェルが何処に行っても存在している限り、其れは変わらないようだ。(殆どあの狂信者のせいだが。)
自分は何故存在しているのか。
そんな事を考えてると、ラスティア・ヴェルの下に誰かが現れた。
「お前は…」
道なりに現れたユーウィスがラスティア・ヴェルと出会った。
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